第21話 もう一つのチート

 

 ――ここは、少年の意識の中じゃ。



 意識を失った俺の前に現れたのは、おかしな事を言う老人だった。

 王冠を身につけて和かな笑顔を見せてくる。

 その表情は、威張り散らした王様ではない。まるで田舎の農夫のような顔つきだったんだ。

 そんな優しい表情に俺の心もほぐれたよ。



「つまり、ここは夢ですか?」

「似たようなものじゃな……まぁ、そんな事はどうでも良いのだ。して少年よ。お主は自身の力について理解しておるか」



「ん? HPが無限だって事ですよね。でもこれって力と言うよりも、あまり役に立たないだけのような……」

「確かにそれだけじゃとあまり役にたたんが、もう一つの能力についてはどうじゃ?」



「もう一つの能力……?」

「まさか、見ておらんのか」



 目の前の老人は、顔に手を当てて天井を見上げる。

 何をそんなに呆れているんだろうか。俺は老人のオーバーな振る舞いを見て少し腹が立っていた。

 なんか馬鹿にされたような気分だったんた。



 バンッ!



 俺は机に勢いよく手をぶつけて、前のめりになるような格好で不満をぶつけた。



「あの! 俺には時間がないんです! 早く……早く戻らないと火憐が……」

「ははは。急ぐでない少年よ。この空間は、完全に独立した時間軸なのじゃ……つまり少年が意識を失ってから、時間が経つ事はない!」



「え?……」



 俺は驚いたよ。

 要するにこの場所にいる限り、時間は進まないって事だろう?

 まるで、どこかの漫画に出てきそうな設定じゃないか。

 でもこれで、ゆっくり老人と会話が出来そうだ。



 俺は椅子に深く座り直すと、老人に向かって再び質問を開始した。



「さっきの能力って何の事なんですか?」

「落ち着いたようじゃのぅ。少年よ……己のスキルを確認してみよ」



「は……はい」



 俺は促されるようにステータスを確認し始めた。

 まぁ、あまり期待はしてないけどさ。

 それにスキルだって?……あの老人は何を言っているのだろうか、どうせ俺のスキルなんてクソ雑魚の外れスキルなんだろう。

 どうせ見ても無駄だって……あれ?……。



 俺は自分の目を疑ったよ。

 そこに示されたスキルは、クソ雑魚の外れスキルじゃない。

 いやむしろ……



「当たりスキルじゃないか……」



―――――――――――――――――――――――

↑↑↑↑↑

・スキル→『All(オール) CHANGE(チェンジ)』:::ステータス上の数値を、全て自由に振り分ける事が出来る。―――――――――――――――――――――――



 そうだ。

 特に、このスキルと無限HPは相性が良さそうに思える。

 例えば全ての能力値を100万にする事だって可能なはずだからだ。

 つまり……



 ――火憐を助けられる!



 俺は心の底から笑顔が漏れた。

 絶望にしか思えない状況が一変したんだ。顔がニヤついても仕方ないだろう。



 老人にもニヤケ顔が見えるくらいに、俺の口元は緩んでいたようだ。

 呆れた声で話しかけられた。



「自身のスキルに気づいたようじゃの」

「はい! ありがとうございます! HPから10万でも100万でも攻撃値に移して……」



「……それはまだ無理じゃよ。大体1Lv.につき各数値1万ずつが限界かのぅ」

「制限があるんですね……」



「レベルを上げれば良いだけじゃ! それに、1万もあればしばらくは問題ないじゃろうて」

「…………」



 確かにその通りだ。

【王】の鮫島や氷華だって、最高数値は1000くらいなんだ。それと比較すると1万という数字の大きさが際立つ。

 改めて希望を確認すると、俺はいてもたってもいられなくなったんだ。



 早く火憐を助けに戻りたい……その事しか考えられなくなった。

 たとえ時間が止まっているとしても、彼女が危険から逃れたというわけじゃないんだ。

 俺を信じて『逃げる』を選択しなかった彼女に、一刻も早く安心させたかった。



 そんな風に考えていると、俺は考えるよりも先に老人に向かって叫んでいたよ。



「ダンフォールさん!」

「おぉ。やっと儂の名前を呼んでくれたか。して、どうした? そんなに興奮して」



「俺の意識を……今すぐ……」



 ――戻してください!

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