第18話 令嬢の心理
私の名前は、松尾火憐(かれん)……普通の高校生…のつもりなんだけど、皆からお嬢様って言われるの。
私の家系は、日本3大財閥の一角を担う名家らしいわ。全く……そんな大富豪のお嬢様が、なんでこんなダンジョンに入り込んだのかしらね。
今でも後悔しているわ……鮫島なんかと関わらなきゃよかったって。
はぁ……とりあえず化け物が地中から顔を出している所までは覚えているの。
でも、目を覚ましたらダンジョンの中ですらなかった。
真っ暗な視界が徐々に白くなっていったから、思い切って瞼をあげてみたの。そうしたら…
「あれ…?ここはどこ」
私は、真っ白な四角い空間で横たわっていたわ。何もない殺風景な所…扉もなければ窓も無い。そんな空間。
私はする事もないし、床で寝そべって無機質な天井を見つめていたの。ここはどこなんだろう?って考えながらね。
でも、検討はすぐについたわ。化け物に襲われる直前に気を失ったんだもの。
「ここは、死後の世界かしら」
自然と声に出ていたわ。痛みもなく死ねたなら、むしろ良かったかもしれない……そう思っていたの。
でも、一つだけ心残りがあるのよ。
「こんな事なら、奴隷くんに一言謝っておけば良かったなぁ」
なんでだろう。私は涙を流しながら少し微笑(ほほえ)んでいたと思う。
彼を虐めていたのは、別に彼が嫌いだったわけじゃないの。単純に羨ましかったから……
皆は私の事を、大金持ちで羨ましいって言うけどさ。別に良いことなんて無いんだよ…
確かに、住んでいる家は広いわよ。東京ドーム数個分の敷地を持つ豪邸ね……でも、一人で住んでいるの。
両親の仕事が忙しいからでも無いし、そもそも1人で住みたいからでも無いし、むしろ私はお父様とお母様と暮らしたかったわ。
それは叶わなかったけどね……私は、捨てられたのよ。出来の悪い娘として…
考えてみたらよく分かると思うけど、大富豪の令嬢が偏差値35程の高校に通っているって可笑しいと思わない?
私の両親は不正が大嫌いな生真面目でね。高校進学の際は、超難関校だけ一般入試で挑戦させたのよ……結果は、今の現状を見れば分かるでしょ。定員割れの高校を何とか探して滑り込んだのよ。
今の高校に入ってからは、『馬鹿』のレッテルを貼って家から追い出されたってわけよ!
全く……皆は、なんで私を羨ましがるのかしらね。
私にとっては、あんな高校に入っても幸せそうにしていた蓮君の方が羨ましいわ。
ふざけた理由かもしれないけど、それが彼を虐めていた理由よ…悲しい理由ね……
私も普通の家庭に生まれたかったわ。
でも、もしかしたら叶うかもしれないわね。生まれ変わったら……
私は、何に生まれ変わるのかなって思いながら、ゆっくりと目を閉じたわ。そうすると段々と眠くなってくるの。
もうそろそろお迎えが来たのかしら……そう思った時に、頭の中で聞き慣れた声が響いたの。
最初はノイズがかかったように上手く聞き取れなかったのに、だんだんとノイズが外れてゆく。
自信はなさそうだけど、温かく優しい声。あの時の事は忘れないわ。
「松尾…さん。目を覚まして……」
–––––まさか、蓮君?
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