第2話 Game

 

「眠いなぁ……あれ?…」


 俺が目を覚ますとベッドの上だったんだ。いや、それは別に普通の事だな。びっくりしたのは時間だよ。


 どのくらい寝ていたのだろうって、寝室の窓を見たら、太陽の光が差し込んでいたんだ。きっと昨日はあのまま寝てしまったんだと感じた。

 確認の為に、ベッドの上に置いてある時計にも目を通したけど『AM:8:00』と表示されている。やっぱり朝だ。


 けど、おかしいな…母さんが起こしに来ない。この時間なら来るはずなんだけど…



 俺は、寝ぼけている体を無理矢理起こすと、階段を降りて母がいるはずの一階へと降りていった。

 階段を降りると、リビングからテレビの音声が聞こえてくる。

 母さん、テレビにでも夢中になっているかな…なんて思いながらリビングに入ると、案の定テレビを見ていたよ。



「母さん、今日なんかあったの?」

「………」

「母さん?…」



 息子の声にも反応しないほど、ニュースに夢中になっているのか……俺は少しショックを受けた。

 しかし、それは同時に重大なニュースであるともいえる。俺はテレビに視線を向けたんだ。

 テレビに目を向けると、いつも通り、スーツを着たお兄さんがキビキビと原稿を読んでいる。



『え〜。ただいま入りました政府発表によりますと、X国の宇宙研究所物質解析センターでの実験中に、機械が暴走した事によって現在の状況が発生した次第であります』



 なんだ、現在の状況って?母さんが、こんなに驚くなんて一体何が起きているんだ…

  俺は、困惑したさ。世界中の人々がそれを知っている…そんな風に語っていたのだもの。



『テレビをご覧の皆様、繰り返しますが現状の説明を致します。現実世界と電脳世界… いわゆるゲームの世界が現実世界と融合してしまいました。日本政府の公式発表では本事件を、『ディストーション』と命名し、つきましては…』



 え? …つまり、ゲームの世界と現実世界が混ざったって言うのか……そんな馬鹿な話、信じられない。

 たしかに、母さんが集中するのも頷ける内容のニュースだ。



 俺が妙に納得した後に、謎の映像がテレビに流れ出した。



「なんだこれ?…」



『繰り返します。政府発表によりますと少なくとも日本においては、統計学的視点から〈職業〉の分布割合と特徴は、以下の表にまとめられるとの事です。繰り返します…』





 ―――――――――――――――――――――――

 職業分布図『20xx年 日本政府公式発表』



 ①商人(マーシャント):::貴重なスキルを持つ可能性大

 ②村人(ヴィレジャー):::全てが平均のステータス

 ③騎士(ナイト):::物理的なステータスが上位傾向

 ④魔道士(メイジ):::魔法ステータスが上位傾向

 99%が上記4つの職業に属する。



 ⑤王(キング):::全てのステータスが異常高値

 ⑥奴隷(スレイヴ):::全てのステータスが異常低値

 残りの1%が上記2つの職業に属する。

 ―――――――――――――――――――――――




 画面がアナウンサーの姿に戻ると、また原稿を読み始めた。

 本来なら、この時間はアニメーションが流れるはずだが、このニュースをずっと取り上げるつもりなのだろう。終わる気配が全くない。



『また、国中に出現したダンジョンについても政府は自衛隊を派遣し…』


「ゲームの世界と混ざった?ダンジョン?一体どうなってんだ…」



 俺は、驚きのあまり独り言を言ってしまった。

 だってしょうがないだろ……信じられるか? ゲームの世界と現実世界が、混ざり合ったって。

 でも、ちょうど良かったかなって思うんだ。

 その独り言のお陰で、母さんが息子の存在に気づいてくれたからな。



「蓮、おはよう。あんたもさっきのニュース聞いてたかい?」

「聞いてたけどさ… どうなってるの? 職業ってなんなの」




「まだよく分からないみたい。でもね、世界中の人達の能力はステータスとして表せるようになったらしいわ。――母さんもさっきやってみたけど職業・村人(ヴィレジャー)で他数値は全て30の超平均だったわ。ははは」

「母さん!おれもそれ見れる?」



「見れるわよ。外に表示したい時は胸に手を当てればいいけど自分で見るだけなら、ステータスを見たいって意思を持てば自分だけ目の前に見えるはずよ」

「よし!やってみるよ」



 俺の目は、希望に満ちていたと思う。

 もしかしたら自分が騎士(ナイト)や王(キング)ではないかと、淡い期待を抱いているだろうからね。

 優秀な幼馴染と疎遠になりたくない。胸を張って氷華(ひょうか)と堂々と接せられるようになりたい。

 そんな単純な理由で、俺は自分自身のステータスを見た。



 期待はもちろんしてたさ。でも……心の何処かでどうせ村人(ヴィレジャー)なんだろって思ってた。


  そんな俺の目の前に現れたステータスには―――



「なんだよこれ…」



 俺は目を疑ったよ。これは夢なんじゃないのかって……



 ―――――――――――――――――――――――

 ●基本ステータス

 ・名前…市谷蓮

 ・性別…男

 ・年齢…17歳


 ●能力ステータス

 ・Lv.1

 ・職業→『奴隷(スレイヴ)』

 ・魔法攻撃→『0』

 ・物理攻撃→『0』

 ・魔法防御→『10』

 ・物理防御→『10』

 ・知力→『1』

  ↓↓↓↓↓

 ―――――――――――――――――――――――





 俺は甘かった。『村人(ヴィレジャー)』ですら無かったんだ。



 まさか『奴隷(スレイヴ)』だなんて……これでいよいよ、幼馴染と疎遠になる事が現実味を帯びてくる。



 でも、攻撃値が全部0ってどうなってんだよ俺。

 いや待てよ。目の前に見える映像の下側にまだ下矢印が見える。もしかして他にも表示される能力でもあるのか?もう一度、淡い期待を抱いた。


 頼むなんでもいい、何か1つでも人並みの能力があってくれ…って俺は必死な顔をしていたのかもな。

 とりあえず、体を震わせていたのは覚えている。

  焦る気持ちを抑えつつ、ゆっくりと視線を下に下げて、残りの能力ステータスを閲覧した。



 ―――――――――――――――――――――――

 ・知力→『1』

 ・HP→『99999999…』

 ・MP→『0』

 ↓↓↓↓↓

 ―――――――――――――――――――――――



 ––––HPの値がバグってるじゃねぇか!



 一瞬そう思ったが、少し考えるとこの状況はマズいと言う事が分かった。

 HPが無限大で、攻撃力0の奴隷なんて事が、鮫島達の耳に入ったとしたら俺は間違いなくサンドバッグになるだろ?


 ショックすぎてさ。思わず心の声が、僅かな音量ではあるが外に出てしまった。



「HPだけじゃダメなんだよ…」



 下手をすれば、みんなに殴られ続ける、壊れないおもちゃになるかもしれない…

 このステータスの事は黙っておこう。



 意気消沈した俺。でも、もう一度前を見るとステータスが表示しきれていないことに気づく。下矢印が出ているのだ。



 ――でも



 もう見るの怖いや…どうせ今までのステータスでクソ雑魚決定だし、自分のダメさを見るのが辛い



 俺は、そこで見るのを止めてしまったんだ。今でも後悔してるね。意地を張らずに見とけばよかったって。



 あの時は、そのままステータスの表示を消して、前を向いたらさ。母親の姿が映ったんだ。いつもとは違う眼力で、こちらを見つめている母親の目が。

  きっと、息子の能力が気になったんだろ。

  正直、あのステータスを見た後は、人と話す気分じゃなかったけど流石に無視するわけにはいかない。俺の方から会話を切り出した。



「母さん……終わったよ」


「蓮!あんたどんなステータスだった?」

「はは。母さんと全く同じ!全て平均値の『村人(ヴィレジャー)』だった」



 俺は、笑顔で答えた。心は笑っていないけどね…罪悪感でいっぱいだったよ。俺は一体、何回、嘘をつけばいいのかって。

 本当は俺、『奴隷』なのにさ……




 落ち込んでいる様子を見れば分かると思うけど、この時は、まだ気づいていなかったんだ。

 自分が、最強だっていう事に…


 自分の〈保有スキル〉がチート級なんだって事に……


 ―――――――――――――――――――――――

 ↑↑↑↑↑

 ・スキル→『All(オール) CHANGE(チェンジ)』:::ステータス上の数値を、全て自由に振り分ける事が出来る。―――――――――――――――――――――――

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