【チートスキル&無限HP!】 あのさ。俺、虐められっ子&ハズレ職業なんだけど……実は地上最強なんですわ。
山口 りんか
Chapter 1
第1話 The last day
人は誰しも、平穏をつまらないと感じたことはないだろうか。
実際、俺も昔はそう思っていた。
だけど今は違う。
平穏な学校生活に戻してくれと心の底から思っている。
そう。俺は今、学校でいじめられているのだ。
学校へ行く度に私物が1つや2つ無くなる事は当たり前。
でも何故か増えるものがあるんだよなぁ。まぁ、痣(あざ)なんだけど。
俺を虐めるのは、ヤンキー男子の『鮫島(さめじま)弘樹(ひろき)』、いつも会う度に肩をど突かれる。
パシリもやらされるし、財布の中はいつもすっからかんだよ。
そして令嬢の『松尾(まつお)火憐(かれん)』、親が金持ちで、いつもベンツに乗って登校している。
彼女は、おれが虐められている所を面白そうに眺めているだけなので許そう。
全く、こっちは動物のショーをやっているわけじゃないのに…
あとのクラスメイトは、見て見ぬ振りをするだけで何もしてくれないんだ。
「あぁ、学校に行きたくない…」
そう。今ベッドの上でうつ伏せになりながら呟いている俺が、現在高校2年生の『市谷(いちがや)蓮(れん)』である。
中途半端な長さの髪、自信のなさそうな目、そして普段はメガネをかけている、一言で言えば地味な見た目だな。
はぁ……このままずっとベッドの上で横になりたい…けど、そう思っても母親が許してくれない。
「ちょっと、蓮(れん)!氷華(ひょうか)ちゃんが迎えに来たわよ」
「はーい!!今すぐ行くから」
なに、虐められているのに学校へ行かせようとする母親は酷いんじゃないかって?
ははは。それなら大丈夫だよ。
だって母さんには虐められているって伝えてないからね、物を取られた時はいつも失くしたって事にしている。
そのせいで家族の中では天然キャラ扱いされるようになったけど…
あと、もう一つ学校へ行かなきゃならない理由があるんだ… それは、幼馴染の存在だ。
〈ガッガッガッガッ〉
「ちょっと蓮!そんなに慌てて階段降りないの」
「氷華ちゃんもう待ってるんでしょ?」
「それもそうね〜。あっ、朝ごはんは?」
「いらないよ!」
〈ガチャッ〉
俺が、勢いよく玄関を開けると待っていた。
――幼馴染の『安藤(あんどう)氷華(ひょうか)』が
茶髪でショートの彼女は一見するとスポーツ女子である。というか、バレー部で主将を務めているらしいので普通にスポーツ女子か。
いや、そんなことより家の前で待つ氷華が元気に話しかけてくるんだ。太陽の様な子とは彼女の事を指すのだと思う。沈んだ気持ちが、一気に舞い上がるように感じた。
「早く学校行こ」
「う、うん」
彼女の優しい言葉から始まる俺の一日……最高だ。
え?なに?彼女は、俺が虐められているのを知ってるのかって?
そんな事当然……知ってるわけ無いじゃないですか。
俺、学校で人気者って事にしてるから…ある意味当たってるし……
ほら〜。そんな事考えているから、今日も学校に関する質問が多くなったじゃないか。
氷華は俺が虐められているとは露知らず、毎日高校についての質問をしてくるんだ…まぁ、高校生が登校中に話す内容としては普通か……
「最近、そっちの高校はどうなの?」
「あぁ……最近は球技大会があって、俺のクラスがソフトボールで優勝したんだ!」
「へ〜。蓮は、球技大会で何の競技やってたの?」
「お、おれ?……ん〜ソフトボールやってた」
(練習の時に球拾いさせられてただけだけど…)
「すごいじゃん!」
「ま、まぁ俺もヒットの一本くらい打ったからね。ははは」
可愛い幼馴染と高校での架空の出来事を話す。俺にとっては、この時が一番楽しいのだ。
でも、楽しい時間にもすぐ終わりがやってくる…俺達の高校は違うから……
「じゃあね〜蓮。また明日の朝ね」
「うん!じゃあ、また明日」
登校途中の分かれ道で綺麗に真横に別れるんだ。
俺はといえば、偏差値35のヤンキー高校。一方で幼馴染は、偏差値70越えの進学校へと進んでいく。
こんな不釣り合いな関係…俺も心の何処かで分かってはいるんだ。
幼馴染と話すのはもう数年だと。
俺と全く違う環境へ進学するんだろうなぁ、って最近は、こんな事ばかりずっと考えている。
そうだな、馬鹿ないじめられっ子が幼馴染だと氷華(ひょうか)にも迷惑掛かるかもしれないし。
高校卒業したら、連絡取るのやめようか。
そんな悲しい事を考えながら、足を進めることが多くなったよ。―――いじめっ子が待つ高校への道中ずっとね。
〈ガララ…〉
考え事をしているとすぐ学校へ着く。–––そして、俺は高校のクラスにたどり着くと、ゆっくりとクラスのドアを開けるんだ。ゆっくりとだぞ……誰にも気づかれないように、ゆっくりと。
なんでそんな事をするのかって?…はは。もちろん、鮫島が来ていないか確認するためだよ。
もし来ていたらトイレで時間を潰して、授業ギリギリまで粘るのが日常なのさ。でも、今日はそんな事しなくてもよさそうだ。
「よし… 今日は居ないみたいだな」
教室内を観察しても、鮫島も松尾の奴もいないじゃないか。今日は、最高の学校生活を歩めるかもしれない。そう思うと口元の筋肉が緩くなる。
だって、しょうがないだろ。あいつらが居ないだけで、俺のストレスはオールフリーになるんだから。
でもねこの時、俺はもう少し用心をしておくべきだった。なぜなら……鮫島の奴、背後にいやがったんだ……
「はよ。入れや」
〈ガッガッ〉
まずは背中に2発、そして振り向いた後に腹へ3発決められたよ。足でね。
「うぐっ…か、かはぁ… 」
俺はワケがわからなかった。朝っぱらから人の体を殴りやがって……突然の出来事で混乱していた事と単純に拳が腹に入った事が合わさって、上手く呼吸が出来なくなったんだ。
「い…息ができ…ない……」
情けない事に俺は、その場で崩れ落ちてしまったんだ。こんな姿、氷華や母さんに見せられない。それくらいみっともない姿だったと思う。でも、鮫島は容赦なく罵声を浴びせてきたんだ。
「ふん。雑魚め」
いや、鮫島だけじゃない。それを見ているはずのクラスメイトは誰も声をかけないし助けに来ない。
近づいてくれる人といったら、後から歩いてくる
「邪魔ですよ。貧乏人が」
「うぅぅぅう…」
悔しさから、腹部を抑えたままその場にうずくまったよ。泣き声を隠すように唇を噛み締めて……この時は、強く噛みすぎて出血しちゃったかな。
悔しさってのもあったけど、単純に痛かったんだよ。無防備な、みぞおちを殴られた訳だから当たり前かもしれないけど。
「い、痛い…」
俺は結局、痛みに耐えかねてそのまま自宅に帰ってしまったんだ。蹴られた箇所を押さえながらね。
でも、大丈夫。母親は仕事で外出のはずだ。痛みに苦悶する俺を見る事はないだろう。
〈ガチャガチャ〉
ほら、鍵が掛かっている。これで安心して部屋で寝られるんだ。
あの時は、急いで階段を上がって自室に着くと、そっとベッドへ横になって天井をひたすらに見つめてたっけな。
痛みは、寝れば治る。けど、こんな生活いつまで続くんだろ……終わりが見えないんだ。
俺はいつまで弱いままなんだろ……って考えていたら、自然と涙が出ていたよ。
「ゔっ、うっゔゔ」
虐められている事が辛いのは勿論だけど、何よりも親や幼馴染に嘘をつき続けているのは正直辛い。
自分の事を素直に言えればいいのに、なぜか背伸びして会話をしてしまう。
そんな自分が嫌いだったんだ……俺が強ければ、賢ければ、こんな事にはならなかったのにって。
そうやって、悲しみにふけている時だったかな。目の前がボンヤリとして視界が狭くなっていったのは。
涙で視界がボヤけているわけではないよ。何故か、強烈な睡魔が俺を襲ったんだ。
いつもなら、こんな時間に眠る事はないんだけどね。痛みと疲労もあって、俺はそのまま眠気に逆らわないようにゆっくりと瞳を閉じたんだ。
––––––深い深い暗闇に…意識を落とし込んでね
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