第2話 コスプレ男が現れました。

 ただ死を待つのは得策ではないなと、今まで散々命の危険とランデブーしてきた私は、スローモーションで迫るトラックのヘッドランプを見ながら思った。


 なので、なんとか身体を捻って跳んで逃げようと試みる。


 その瞬間──


 身体に衝撃を感じた。

 正面からではない。

 だ。


 その大きな力に、横っ飛びしようとしていた私の身体は、廊下に転がって邪魔でしかないバランスボールの如くボインと跳ね飛ばされ、アスファルトの上をゴロゴロ転がりついでに道端の植木鉢とプランターに突っ込んだ。


 そしてその次の瞬間には、石が砕かれる音と金属がひしゃげる音が。

 身体に多少の痛みを感じつつも何とか顔を上げると、トラックが私が立っていた場所の横にあった家のブロック塀と門扉をメチャメチャに破壊した状態で止まっていた。


 もし避けられなかったら、私がああやってミンチになっていたのだと、壊れたブロック塀を見ながらゾッとする。

 その時ふと、トラックの上に黒い影が乗っている事に気がついた。

 その影は、私の方を見下ろしている。

 大して風がないのにはためく黒い──コート? マント? 初夏なのに?

 フードまで目深に被って暑くないのか?

 コスプレか。

 コスプレなのか。

 そのコスプレさんが冷たく光る双眸で、土とミントと茗荷ミョウガまみれになっている私を刺すような視線で見下ろしていた。

 うん、コスプレさんだ。

 だって顔が人形のように異様に整ってる。ネットで時々見るカリスマコスプレーヤーさんみたいだもん。男か女か、顔を見ただけじゃ分からないぐらい。


「チッ……まだか。まだあがらうのか。その魂の美しさは伊達ではないという事か……」

 そのコスプレさんはそんな事をポツリと呟いて地面へとヒョイと降り立つ。

 声からすると男だ。凄い。あんな顔して男なんだ。へー。

 なんだか厨二病みたいな言葉を吐いてるけど、あれって──もしかしなくても私に言ってる?


 コスプレ男がスタスタと近寄ってくる。地面に横座りしている私に向かって。

 私まであと一歩、というところで立ち止まったコスプレ男は、その灰色の瞳を全く瞬かせる事もせずに真っ直ぐに私を見下ろす。

 そして──

「もうまどろっこしい。こうなったら直接手を下す。女神様も──きっと分かって下さる」

 そう吐き捨てて、私の首へと腕を伸ばしてきた。


 私の細首(当社比)に手がかかる寸前──


「そんな事させナイ」

 もう一本、腕が伸びてきた。


 

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