ただの雑用係に何をさせる気だ?
@razor
第1話給料日五日後の酒場
「か、金がない」
テーブルに突っ伏して泣き言をいう新人騎士様。王立養成学院の戦士科を主席で卒業して鳴り物入りで王国騎士団に配属された勝ち組のはずだったが、このありさまだ。
「お前にご飯を奢るという約束が、いまだに果たせない無様な私を大いに笑えばいい」
「ははは」
なぜか睨まれた。しかも涙目だし。
「そんなことはいいから、早く飯にしようぜ。お前が突っ伏して拗ねてるから、料理が置けなくてアーチェが困ってる」
「そんなこととはなんだ!」
ガバっとテーブルから体を起こして抗議してくる。
「そうです。そんなことより料理はあったかいうちに食べるのが一番なんですよ、リーンさん」
いじけてテーブルを占領していた新人騎士のリーンが、身体を起こしてできたスペースにこの店の看板娘のアーチェが料理を並べていく。
「ア、アーチェまで!?」
「おっ、今日はラヴェーユか。美味そうじゃん」
なんかショックを受けて固まっているリーンは放置して、本日の夕食に目を向ける。ラヴェーユは、ラヤックの乳で肉や野菜を煮込んだ料理でここいらではおふくろの味って呼ばれている伝統的な煮込み料理だ。
「そうでしょ。最近出回るようになったキノコからいい出汁がでるって、お父さんすごく喜んでたよ」
「そいつは楽しみだな」
旦那――アーチェの父親でこの店・角鹿の嘶きの店主――の料理に外れはない、しかもあの仏頂面がニヤケていたとは、期待度が高まる。俺にはいつもの仏頂面にしか見えんが、アーチェにはニヤケ顔に見えるらしい。親子の絆ってやつか。
「リーン、早く帰ってこい。先食ってるぞ?」
「まてまて、私も食べるぞ」
復帰が早くて助かる。飯に誘って一人で喰わされるのはごめんだからな。冬が終わったとはいえ、まだまだ寒い日が続く、体の温まるラヴェーユは最高だ。南部出身の者はこの乳臭さを嫌がることもあるが、王都出身の俺は大好物だ。旦那も自信ありありで。
言うことないな。
「ん?」
猫舌じゃないことを神に感謝して、アツアツのラヴェーユを平らげると。正面に座っているリーンがおそらく一口目を食べたところで停止していた。
「どうした?」
声をかけると、目線が合った。そして、めっちゃウルウルし始めた。
「ど、どうしよう。私あんまりお金持ってない」
「いや、知ってるし、俺の奢りだから。安心して喰え」
そこからは、一言もしゃべらずに黙々とラヴェーユを食べるリーンを眺めて待つ。
こんなに美味い料理を前に話をするのは馬鹿のすることだ。まずはこの幸せに感謝して享受することが。
おかわりが欲しい。
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