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「大阪来ました、浅井 晋あさい しんいいます。よろしゅう」


 二学期が始まった。


 生徒会長をしていた頼子が学校を辞めて結婚、ロンドンに行った事は、夏休み明けの校内で大ニュースとなった。

 まるで、その頼子と引き換えのように、一人の転校生がやって来た。


 …関西弁だなんて…

 浅井君に罪はないけど、今のあたしにはキツイ。



 音楽屋で真音と女の人のキスシーンを目の当たりにして、あたしは…表通りを通るのも、公園に近付くのもやめた。

 真音からは…連絡もない。

 暗い気持ちで残りの夏休みを過ごして…頼子のいない二学期を迎えた。



「センセ、ここ、軽音部ありますのん?」


「え?軽音部…は、ないなあ」


「はっ?そら大問題やな…」


「いいから席につけ。窓際の後ろから三番目だ」


「ういーっす」



 …耳に入る関西弁に、つい…うつむいてしまう。

 今は真音の事、考えたくないよ…



「おい、るー」


 ホームルームが終わって、後ろの席にいる宇野君に声をかけられる。


「何?」


「Deep Red、メジャーデビューって本当?」


 …メジャーデビュー…?


「マノンから聞いてねーの?」


「……」


 つい、食いしばってしまった。

 そっか…デビューするんだ…

 それで連絡もないのかな…



「何…もしかして、ケンカ?」


「…ケンカより、ひどいかも…」


「えっ…そ…そうなんだ…」



 デビューなんてしたら…遠い人になっちゃうな。

 頼子がいなくなって、ダメな子になったと思われるのは辛い。

 あたしは、頼子に『自分磨き』を怠らない約束をした。

 悲しんだり落ち込んだりしてる場合じゃないのに…



 放課後になって、珍しく宇野君がクラブに。

 瀬崎君は当然クラブに。

 あたしは少し遠回りして本屋にでも行こうと思って、カバンを持った。



「あんた、武城さん?」


 教室を出ようとした所で声をかけられる。


「…はい?」


 振り向くと、転校生の浅井君。


「へ~。あんたがね」


 浅井君は、ジロジロとあたしを見てる。

 ……気分悪い。



「マノンの彼女なんやってな」


「え?」


「マノンに聞いた」


「知り…合い?」


「幼馴染。俺、先週家族でこっち引っ越して来てん。早速会いに行ったら、日野原には彼女がおるって」


「……」


 …先週…

 それって…あのキスより…後…だよね…



「なあ、マノン、音楽屋ってとこでバイトしてるんやて?連れてってぇな」


「お…表通りの目立つ所にあるから。あたしは今日は用事が…」


「ええ~?なら明日でもええから」


「…宇野君ていう人に頼んで。じゃ」



 冷たいあたし。

 心の中で浅井君に謝る。



 だって仕方ない。

 …今は真音に会いたくない。

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