11
「……」
今日は、Deep Redのワンマンライヴ。
あたしは宇野君と瀬崎君と、頼子と…四人で『ダリア』に来ている。
そして…満員の会場の片隅で…ステージに立ってる真音を見てる。
想像以上の『爆音』にも驚いたけど、それ以上に驚いたのは…あたしの思ってた『ハードロック』より…全然聴きやすくて、カッコ良くて…
何より…お客さんとの一体感…!!
ギターを弾いてる真音は、頭を振ったり、ボーカルの人と並んで腰を振ったり、お客さんの声援に笑顔で応えたり…
…同じ会場にいるのに…まるで、テレビを見ているような感覚になった。
『おまえらもっとイケるだろ!!』
ボーカルの人の言葉に、大きな歓声が上がる。
…すごい…
あたしが、こんな世界を体感するなんて…!!
宇野君と瀬崎君は、前の方で盛り上がってて。
頼子はあたしの事が心配だったのか…ずっとそばにいてくれた。
前回は筋肉痛になるほど飛び跳ねたって聞いてたけど、あたしのそばで、ずっとあたしとステージを交互に見てた…ような気がする。
『Thank You!! Good Night!!』
あっと言う間の二時間だった。
アンコールが二度あったのに、短く感じられた。
あたしの知らない真音の顔…見れた気がする。
って…
知らない顔の方が多いよね。
* * *
「やめた方がいいと思うよ?」
ライヴの後、『出待ちをする!!』って盛り上がった宇野君と瀬崎君と別れて、あたしと頼子はファストフード店に寄り道した。
そこで頼子は…渋い顔をして、あたしの目を見ずにそう言った。
「…何?」
あたしは、初めて見たDeep Redのライヴに、まだボーッとしているけど…
頼子は…いつもよりクールな顔で、シェイクを飲み干してる。
「朝霧さん…だっけ?」
「……」
「なんか、すごく軽そうじゃない。それにあんたも見たでしょ?あんなにファンの子がたくさんいてさ」
本当は、バックステージパスというものをもらっていたのだけど…
みんなで行ったし、こっそり差し入れだけ渡してもらって、控え室には行かなかった。
だけど差し入れを渡してる時…
「今日、打ち上げの後でマノン誘っちゃおっと。」
って…そんな声が控え室の入り口から聞こえてきた。
「あんたが辛い想いするだけなんだよ?」
「……」
あまりにも頼子が真顔で言うから…あたしは、口をつぐんでしまった。
…辛い想いをする…?
どうして…?
無言のあたしを見た頼子は。
「好きなの?」
眉間にしわを寄せた。
「…好き?」
「違うの?」
「……」
好き…なんて、考えた事なかった。
以前、頼子はそれが恋だと言ったけど…
「ま、まだ想いが浅いなら、今の内にあきらめる事ね」
「…頼子は…ま…朝霧さんを嫌いなの?」
「そうじゃないわよ。ただー…」
頼子は何か言いかけたけど、あたしの顔を見て言葉を止めた。
あたしは、ゆっくり目を伏せる。
「…ただ…想うだけでも、いけないのかな…」
「るー…」
「頼子、言ったよね。『恋しちゃったのね』って。あたしにはそんな実感はないの。ただ、憧れてる」
頼子は黙ってあたしの話を聞いてる。
「あたしにはないものをいっぱい持ってて、素敵だなと思う。初めてなの…こんな風に、男の人に憧れるなんて…」
あたしがつぶやくと、頼子は低い声で。
「それが、恋なのよ」
って、あたしの前髪を指ではねた。
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