助けが必要ですか?

YSO

龍と山猫の邂逅

第 1 章:プロローグ

1.1:誰にでも助けは必要で。

 かの大戦の英雄曰く、『死ぬことは恐れない。しかし、敗北し敵に頭を垂れながら生きるのは、生きながらにして死んでいるようなものだ』だそうだ。しかしながら、そんな肝の据わった人間なんてのは、世の中そう沢山はいない。大体の人間は死するその時まで、生きる事を望むものである。


『魔術、魔法、魔導』、そのように呼称される、かつては異能とされていた力。過去幾多の争いを経て、世界は魔との共存の道を選んだ。


 ヒト種......人間・亜人などの分類に属する生物のうち、そのような魔を使役可能なのは、現代では全人口のおよそ一割程度である。一般人とは次元を事にする『異能の魔術使いたち』は、未だヒト種に害成す魔獣のみならず、対国家戦力として、官民問わず重用されるのが一般的である。


 常に危険と隣合わせの職が多い中で救助を生業とする職業がある。過酷な僻地・戦地へ赴き、対象者の救助を行う仕事で、彼らは『魔導救助師』『山猫リンクス』と呼ばれる。政府が管轄する大規模な救助組織がある一方で、民間組織も少なからず存在している。民間魔術師組織であるギルドの中でも、救助を専門とするギルドは『エイド・ギルド』、略して『エイギル』と呼ばれる。


 これは、とある山猫の物語。



 ******



 山猫には鉄則がある。俺も昔、師匠からその鉄則を授けられた。


 一つ、準備に過ぎたるは無し。常に万全を期すよう努めよ。


 一つ、自身の生命を最優先せよ。勇猛と無謀は異なるものである。


 一つ、要救助者を充てにする事なかれ。彼らの助力は無いものと考えよ。


 一つ、......あぁ、なんだったかな。多過ぎてキリがない。師匠もあんな性格してたクセに、こういうところは細かいからなぁ。


『まぁこんなのは、実践を詰めば勝手に覚えるし、理解もできるようになる。だけど......』


 夕日を背に、髪を潮風に靡かせながらニカッと笑う、師匠の姿を思い出す。



 一つ、いつ何時も、絶望する事なく、生きるべし。



 師匠から最初に授けられた教えは、忘れる事は無いし、忘れちゃいけない。忘れたなんて言ったらそれこそ師匠に殺される。


 魔導救助師なんて職はお人好しの一人善がりだと言うやつもいるが、俺は案外この仕事を気に入っている。不満というか苦労も多い上に、面倒事に巻き込まれることもあるが、それでも今まで続けていることが何よりの証拠だろう。


 さてさて、そんじゃ今日も仕事しましょうか。

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