団結と挑戦
「なあ、ちょっと時間短くね?」
お披露目会は無事終了し、あたしたちは七人ともダンスバトルの正式メンバーとなった。
ダンスの練習三昧と化した日々の中、休憩時間を削り、あたしは約束通り男キャラたちとチークを踊る。
どうやらリッキーは、その時間を短く感じたようだ。
「楽しい時間は短く感じるものさ」
「うるせえメジャース。お前はたっぷり踊ってもらってるだろうが」
「おいおいリッキー。たしかにメジャースは最初にアユと踊ったが、回数は俺たちと同じだぜ」
男たちの小競り合いを、ミルキーやナユタだけでなく、レモニィまでもが生暖かい目付きで眺めている。
最早こうした「衝突」さえ日常のじゃれ合いとして楽しむ空気が生まれており、事実こうした言い合いが尾を引くような関係ではなくなっているのだ。
「ジェイツーはメジャースの味方かよ。お前は俺の理解者だと思ってたのに」
「それとこれとは別だ。俺だってアユと踊りたい。彼女が他の男と踊っている時間は嫉妬の時間だ」
なんというか。
菩薩の表情というべきか。今あたし、鏡を見たら、そんな表情と対面できる自信がある。
「冷静になれよ、リッキー。曲の長さは同じなんだ。君だけ時間が短い、なんてことはあり得ない」
さて、いつまでも菩薩の表情してないで、あたしも介入するとしますか。
「メジャースの言う通りよ、リッキー。今日はここまで。あたしとのチークを楽しいと思ってくれたからこそ時間が短く感じられたのよね」
それはまあ、こちらとしても、ね。
「あたしも楽しかったわよ」
これを言うと、あたしが言葉をかけた相手が誰であれ、割り込むようにしてレモニィが抱きついてくる。いつものこと。
「無防備ね。まあ、NPCだからしょうがないのかしら。今度、あたしともチーク踊ってね」
ミルキーからよくわからない冷やかしを受ける。いつものこと。
「本当にNPCなのかしらねー。全然そんな風に感じないわねー。あと、あたしも予約しとくわ。アユとのチーク」
ナユタ。あなたは少し黙ってて。
いつも通りの休憩時間が終わりを告げようとしていたその時。
ミルキーの眉間に皺が寄っている。
視点がPC画面の向こう側にあるメンバー逹は気付かない。
あたしとレモニィ、そしてナユタの三人だけが気付いているようだ。ナユタと目が合った。こちらに目配せしてくるその態度。ナユタこそNPCとは思えない。
……はあ、仕方ないわね。
「どうかしたの? ミルキー」
あたしの言葉に少し目を見開いたものの、ミルキーは「ええ、ちょっとね」と応じた。
表情の変化をあたしに知られているなんて、想像だにしていないことだろう。でも、NPCにあるまじき察しの良さを発揮してしまったあたしのことなど、あまり気にしていないようだ。
そんなことよりも、もっと気になることがあるらしい。
やがて口を開くと、ミルキーはこう言った。
「うちが――、エルドールが最下位なのよ。下馬評」
は? 下馬評? 競馬じゃなくてダンスバトルでしょ、これ。予想屋でもいるのかしら。
「他の陣営、三つともうちと同じようにお披露目会やったみたいなの。それが出揃った時点でスレッドが立ったんだけど」
あ、あれか。プレイヤー同士の情報交換用掲示板。
あたしがナユタやってたときはそれなりに利用してたけど、今はアユだもの。見る手段がなかったわ。でも。
「それほど気にする必要、あるかしら? あくまで当日の結果で決まるのよ」
「いいえ、アユ。楽観できないわよ」
ナユタが首を振り、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。
「ダンスバトルの審査はプレイヤーには投票権がないけれど、運営側としては事前の評判を含め、実際の人気を無視することはできない……」
初耳。そういうの、知ってるなら先に教えておいてよね。
「……と思うわよ」
なによ、取って付けたように。ナユタ、あなた絶対知ってたよね。
ふう。
小さく息を
それから一人ずつ視線を合わせていった。
リッキー、ジェイツー、メジャース。
ナユタ、ミルキー。
レモニィの肩に手を置き、彼女とも視線を合わせる。
「お姉ちゃん」
静かな、しかし強い意志のこもった声。
レモニィと頷き合うと、あたしはもう一度みんなを見る。
「……勝てると思う?」
全員の視線がこちらを向く。
六対の瞳がまぶしい。リアルな熱量を伴う、強い輝きだ。
「やってやるぜ」
「当然だ」
「任せてくれ」
「アユにしては愚問ね」
「信じてるわよ。あたしが選んだ巫女様なんだから」
「レモニィも、精一杯がんばる」
下馬評なんて関係ない。みんなと一緒なら。
みんなと……、このあたし、アユなら。
逆転勝利。
やってやろうじゃない!
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