イケメン義賊と、のじゃロリ白銀女童に美少女ツンデレ姫が一緒になると次々にイベントが発生します(仮)

ちーよー

白銀女童は義賊の仲間になりました

第1話山奥には謎が沢山

 微かな月明かりを頼りに泥をはねながら獣道を疾走する二つの影。町でも評判の荒くれ者は初めてと言っていい恐怖を迫ってくる男に感じていた。

 

 昼に降った通り雨はぬかるみをつくり、荒くれものが足をとられ前方へと倒れ転んだ刹那。

 後ろの影が前方の影と1つになる。

「くっ」

「間抜けだな。言い残す事はあるか?」

 荒くれ者の泥にまみれた首もとに刀を当てがい問い掛ける。

「ま 待ってくれ。お、俺があんたに何かしたか?」

「何もしてないが、貴重な遺言は、それでいいのだな」

 

 一切の感情も抑揚もなく答える男の顔が月明かりに照らされうっすらと浮かんだ。あどけなさが残るが眉目秀麗であり、二つの眼光だけは異様に鋭かった。

「頼む、命だけは! 有り金は全て置く、腰巾着に入っている筥迫はこせこは相当な値が付くはずだ! 全部持っていけ! だから命だけは助けてくれ。死にたくない……」

 

 顔面蒼白になりながら唯一、動かせる口だけを最大限に活用し哀願する。

「最初から金も盗んだ品も頂くつもりだ。地獄の沙汰もお前次第。元気でな」

 男は持っていた刀に力を込めたが、荒くれ者は既に気を失っていた。


 時は安永8年(1779年)江戸から遠く90里ほど離れた70万石を誇る奥州藩。北国厳しい冬を越えてイチリンソウやサクラソウが咲き、狸や猪が出没し始めた人里離れた山奥、無造作に十数件建ち並んだ家屋があり、一つの集落を形成していた。

 集落の真ん中にある。一際大きな屋敷の中では数人の男が円に集まっており、隅っこで白銀の長い髪を結いもせず、顔の前に垂らしたまま膝を抱える一人の女童に視線は集中していた。

 

源爺げんじい、その隅っこの珍しい白い女童はどこで拾ったんだ? 異国の血が混じってるように見えるな」

三左サンザよ。拾ったのではない。峠の茶屋で休んでおったら、いつのまにか隣に座っておってな、何も喋らないが腹を空かしておったようで、茶と団子を食べさせたら、ここまで付いてきおったのじゃ」

「なんだ、そりゃ。よぉ。俺は三左衛門。ここでは『サンザ』って呼ばれてる。お前の名前は?」

「・・・・・・」

「親はどうした?」

「・・・・・・」

「どっから来たんだ?」

「・・・・・・」

 その場が静まり返った。

 

 静寂を打ち消す様に、上座で居丈高に座る若者は、立ち上がると、おもむろにちりめん細工で出来た袋から、赤・青・黄・白と色取り取りの金平糖をいくつか掴み女童の目の前に差し出し手を開いた。

「おい、ガキ 口を開けろ」

 女童は警戒してるのか、垂れてる前髪のすき間から金平糖を物珍しげに見てはいるが口は閉じたままだ。

 

 若者は女童の鼻を空いている方の手でつまんだ。

「市蔵、子供に乱暴は良くないぞ」

 サンザの言葉に市蔵は反応しなかった。

 女童は抵抗もせず我慢していたが、だんだんと顔が紅潮し、両足をばたつかせ、たまらず口を開けた。と、同時に素早く金平糖を放り込んだ。

  「甘くて美味いだろ?」


 童女の青みがかった大きな目はまん丸に輝いたのち、目尻が下がり、夢見心地な表情を浮かべ、色白の頬は先ほどとは違った赤みを帯び、慌てたように右手を頬に当て、安心したように呟いた。

  「ほっぺは無事じゃな」

 見た目とは似つかわしい言葉遣いと、見た目通りの内容の妙さに男どもは一斉に笑い声を上げた。

  「所詮、子どもは子どもだな」

 戸口近くで胡座をかいていた少年は腹を抱え笑いながら言った。童女は、ばつが悪そうに無表情に戻った。

 

「ほれ、沢山あるぞ。好きなだけ食べろ」

 市蔵は袋ごと手渡した。童女は受け取ると袋に手を突っ込こみ、無表情のまま口に運んだ。

 「あっ。 ちょっ! 大将。全部上げることないじゃないですか!? 後で食べようと楽しみにしてたのに、おいらの分がなくなっちゃう」


 童女は無言で、むすっとした戸口近くの少年のところまでトコトコと駆け寄り、袋を広げ目で訴えかけた。

 「カッカッカッ。どっちが子どもか分からんのう。なぁ仙十郎?」

「源爺うるさい。まっ、ありがたく頂くぞ」

 仙十郎は、袋に手を入れると、困惑した顔をしながら大きな声で叫んだ

 

「入ってないのか~~い!! なぜ、入ってない袋をわざわざ持ってきたんだ? ってか、あの短時間で全部食ったのか!?」

 童女はトコトコと元の位置に戻っていったが、どこかしたり顔をしていたのを市蔵は見ていた。


「そうだ。源爺、昨晩だが陸奥ムツ屋の弥七から頼まれていた金子きんすを盗んだ犯人を見付けてな。追ってたら、気絶したんで取り戻してきた。今日にでも渡しに行ってくる。他にも面白い物を手に入れたぞ」

 市蔵は懐から筥迫はこせこを取り出し、皆に見せた。 


「ほぅ。ビロード地に金刺繍、見事な筥迫よのう。模様が珍しいが、八咫烏やたがらすに、こっちのはカミツレか」

  「カミツレ? 薬草で使う草じゃねーか。なんで、こんなヘンテコな模様に……」

  「そうじゃ。市蔵、中身は見たのかね?」

  「いや、まだだ。紙しか入ってねーと思うが」

  「大将、確認しましょうぜ。お宝が入ってるかもしれませんぜ」

 仙十郎が、筥迫に手をかけようとすると、童女が突然に走り出し筥迫を奪った。

 

「これは、わらわのじゃ」

 気持ちが高ぶっているのか、声は上ずっていた。

「いやいや、その小さい着物では、筥迫は入らないだろ。分かる嘘を付くなよ。返しなお嬢ちゃん」

 仙十郎は、そう言うと童女の手から奪い返そうとしたが

 童女は両手で後ろに隠し、渡すことを全身で拒否していた。

  興奮し周りが見えてない童女に気付かれない様、巧みに後ろに回り込んた三左衛門は、なんなく筥迫を奪い返した。

 

「返せ、わらわのじゃ」

 童女は、三左衛門の膝に飛び掛かり、思い切り噛んだ。

「痛ってーー。離せ! 離せよ!!」

 三左衛門は、片手で童女の首根っこをつまみ引き離そうとしたが童女は膝に必死に噛みついて離れない。

 

「サンザ、乱暴は良くないぞ。と、先ほど言っていただろ、筥迫を返してやれ! ガキ返してやるから、噛むのを辞めろ」

 

 童女は噛むのを辞め、三左衛門から筥迫を受け取ると両手でしっかりと持ち、胸に抱きかかえた。

 市蔵は童女の頭を撫でながら、しゃがみこむと大人もたじろぐ眼光で見据えた。


「良く聞けガキ お前のだと言うなら証拠を見せろ」

  童女は、小さくコクリと頷くと、筥迫を開けて中の物を取り出し始めた。

 最初に出てきたのは緋色ひいろ手絡てがらで不思議と蝶の形をしていた。

 次に取り出したのは金箔が内側に施され風景が極彩色に描かれた小さめの貝殻だった。


  童女は懐から、白粉箱おしろいばこを出すと、同じ形と絵が施された貝殻を出した。

  市蔵は童女から貝殻をもらい受け、筥迫の貝殻と合わせてみると、驚いたように源爺が呟いた。

「貝覆い……間違いなく対になってるみたいじゃの。なるほど、娘御よ白粉箱から出した貝殻は娘御のものじゃろうが、筥迫に入っていた貝殻は誰のじゃ?」

 「わらわのじゃ」

 「対になっているものを、一人で持つ物などはおるまい」

 

市蔵は貝殻を女童に返すと、覗き込むようにしゃがりこみ手を女童の頭に置いた。


「ま。源爺、言いたくないのら良いさ。ガキ行く当てはあるのか?」

 

 童女は首を横に小さく振る

 

「だろうな。よし、今日からここがお前の家だ。ただし、掃除炊事洗濯お使いなど手伝ってもらうぞ」

 童女は目をぱちくりさせ、今度は大きく縦に何回か頷いた。市蔵は童女の頭に乗せていた手を離すと、そのままポンポンと童女の頭をはたいた。

「本気ですか?こんな子供じゃ役にもたちませんよ」

「子どもに子どもと言われとうないわ。わらわの事は『レイラ様』と呼べ」

 童女は長い白銀の髪を書き上げ挑発しているようだ。


「な! こいついきなり生意気に。へんちんくりんな名をしおって、おいらは十三歳で元服も済ましておるぞ。レイラは何歳だ?」

「『様を』つけろ。下郎が。わらわは十じゃ。貴様は三つも年上なのか。同い年位かと思っとったぞ」

 レイラは真顔で答えた。

「くぅ 調子に乗りおって。チビのくせに」

 

「心配無用じゃ。後三年もあれば貴様の背丈くらいは追い越すじゃろ」

 胸を反らせ、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

「はっはっは。その三年はおいらにも等しくやって来るので、おいらも背丈が伸びちゃうな~ いや~おチビは背丈もおつむも足りないんだなぁ」

「ぐぬぬ。この寒頂来かんちょうらいの、すっとこどっこい」

「うるせーばくれん。化けべそ!」


 この場にいるのは、無用だと判断したのか三左衛門と源爺が帰り支度を始めた。

「レイラも仙十郎も黙れ! 俺は弥七に金子を渡してくる。今日は解散だ」

  不意に名前を呼ばれたレイラは、一瞬はにかんだ様に見えたが、言い合いは終わる気配がせず、市蔵は溜め息をついた。

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