蒼銀の僥倖

波華 悠人

僥倖の始まり 

 

アライナス国 ニーヴェルム領


広大な土地は、灰色に染まる荒野、小高い丘が点々と横たわり木は枯れ枝を揺らすばかりで草花は見当たらない。

低く落ちそうな空には、どんよりと重たい黒い雲を伴っている。その空にはわずかに光を放つ月が円を描いているばかり。この広陵を行く先は、神が住まう国とされている


アライナス


半年に及ぶ末に、もはやミルズは戦う力を失っていた。撤退の指令を受けて、じわりじわりと軍が後退していく中、その決戦場は紫の濃霧に錆のにおいが漂っている

彼の周りには息絶え絶えの兵士、動きを止めたもの、呻きをあげる者

いくつもの剣は大地に突き刺さり旗印は燃え盛っている、生きる者達の目には絶望が映し出されていた

目線の先には青馬にまたがり鎧をまとい、一振りの剣をもつ騎士がいる、蒼銀の髪をわずかな風がさらっているそれは背後からの月光を浴びて、騎士自身が淡く光るようにも見える。

表情を垣間見る事すら出来ない仮面を身につけこちらを見下ろすまるで見えない刃物を突き付けられたかのように誰も身動きできないでいた。

どの兵士だろう……震える声はささやきのようで


「───姫神───」


不意に姫神と呼ばれた騎士は、小隊を見下ろしながら


「二度とこの地に足を踏み入れるな。」


薄く結んだ口から発せられた声は美しかった。

その後の事は嵐のように過ぎ去り、ミルズ国は敗退したのだった。

 

 

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