第3話 人の顔が覚えられなくてもどうにかなる。

今日は雨も降って寒いので芋焼酎の湯割りを飲みつつ書いている。


さて、私は人の顔が覚えられない。


ビックリするくらい覚えられない。思い起こしても10人と名前と顔が一致しないのである。


名前の覚えるのが苦手で同僚の名前を1ヶ月かかって覚えたり半年たっても覚えられなかったりすることもある。


休憩時間に同僚と雑談もするのだからそこそこな人間関係は築いているつもりではあるが、やはり名前を覚えられないのである。さすがに毎日見ている顔は頭にはぼんやりと思い浮かべることが出来るが少し霞のかかったような思い出し方しかできないのである。


前の仕事の同僚の顔も3年もたつと1,2人ぐらいしか思い出すことができない。あえば顔を見て○○さんであるといった判別がつくこともあるが、大体はたぶん知っている人だけどだれ?である。


早い話が、私は人の顔と名前を覚えることが苦手なのである。


こんな私ではあるが、実はホテルのフロントで4年近く働いていた。


人の顔を覚えることも名前を覚えることもできないが、ホテルのフロントで働くことが出来るのである。ホテルといえばリピーターもそこそこにいるサービス業であり、何よりお客様の顔とお名前を憶えなければいけない仕事のひとつではないだろうか。


最大宿泊人数が130人前後と小さなホテルではあるが、季節ごとや決まった時期に来られるお客様という方はかなりいた。小さいのでフロント以外にも電話番もしており声だけで常連さんを判断しないといけない場合もあるがもちろん声も覚える能力などない。


興味がないから覚えられないのか、覚える能力がないから覚えられないのかは判断できないが、覚えられないとなるとお客様にお名前を確認をどうするかに全力を掛けなければならない。


常連のお客様にお名前は何とっしゃいましたか?とは聞けないのである。


幸いにして、チェックインならば宿泊名簿を記入していただかないといけないので、ここでお客様の名前を言わずにどのように書いていただくかが重要になってくる。


初めてのお客様や2,3回しか宿泊したことがないお客様なら問題はないが、常連さんになると名簿を書いていただく前に大体世間話を始める。客商売で相手の名前が分かっているのに「○○様、今日は暑いですね。」といった会話の”○○様”をつけないのは間違っている。”○○様”をつけるだけでお客様へ与える印象の差はあまりにも大きい。


なので、世間話をするのと同時に名簿を書いてもらい、苗字を確認するという技術を開発していく。それができるようになると今度は廊下ですれ違ったときにお客様から声を掛けられて世間話をするときにどう名前を呼ばないで切り抜けるかという技術を磨く必要が出てくる。


ゆっくりしてもらうためのホテルなのでどうしても風呂上りに熱を逃がしている人に声を掛けられて世間話をすることがある。この時にお客様から名前を呼ばれることがある。そうなるとこちらもどうにかしてお客様のお名前を思い出さないといけない。


会話のあいだ名前が思い出せなくても去り際に、「○○様、ごゆっくりおすごしくさい。」と言えれば相手もこいつは会話の中で俺の名前を言わなかったけど覚えているんだなと認識してもらえる。


名前をいわずに、「ごゆっくりおすごしくさい。」といえばいいじゃないと思う人もいるかもしれないが、ここで名前が言えるかが常連さんになってくれるかの違いなのだ。


何度も苦情も言われるが、人の名前と顔が分かるだけで自分の常連さんになってくれる人ができることもある。名前の覚えられない私でも私がフロントにいる日に宿泊に行くと言ってくださるお客様はそこそこいたのである。


さすがに、そう言ってくれるお客様は手帳に名前を書いて覚えるのだが、とりあえずホテルのフロントで名前を憶えてなくても仕事ができるという話である。



しかし、仕事で神戸のホテルに半年滞在したことがあるが一度も鍵貰うときにパソコンで名前を確認せずによばれたことがなかったな・・・

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