鬼灯百物語

二色 十朗

壱話 無線

業務無線というものがある

タクシーや鉄道などの事業者が本部と連絡をとるときに使用するものなのだが、これには消防や警察、救急隊のものも存在し、専用の受信機を使用すれば聞くことができる

あまりいい趣味ではないがこれらを個人が盗み聞きしても、外部に情報を流出したりなどその内容を悪用しなければ違法ではないため、その通信を個人で傍受する人間も少なからず存在する

今回は、そんな趣味を持ったYさんの身に起きた出来事について記そうと思う


その日Yさんは、休日で予定もなかったのでいつものように受信機の電源を投入した

テレビの砂嵐に似たノイズを聞きながら周波数のダイヤルを弄っていると


「東指揮から、東7番」

「東7番です、どうぞ」

「火災発生、至急対応願う。現場は東町四丁目、近隣の住人より通報。居住者が部屋の中に閉じ込められいる模様」

「了解、直ちに現場に向かう」


ふと窓の外を覗き、東町の方角を見てみると煙が上がっていて、サイレンの音が通りすぎていったことがわかる。再び受信機のノイズが消え


「東7番から、東指揮へ」

「こちら東指揮、どうぞ」

「東7番現場に到着、ただちに消火に当たります」

「こちら東指揮、了解」


消防隊が現場に着いたようだ、Yさんは受信機のボリュームを少しずつ大きくした

いつもなら室内の状況を聴くことができ、火災現場の凄惨な様子を当事者視点で味わうことができるとYさんは期待した

しかし何故か、受信機からは砂嵐しか聞こえなくなってしまった

おかしいなと思い、周波数のダイヤルを少し弄ってみると


「…あつい…たすけてよ」


突然先程の隊員の声と変わり、弱々しく今にも消えてしまいそうな女性の声が聞こえた。一瞬耳を疑ったが

「ねえ‼さっきから聞いてるんでしょ‼助けなさいよ‼」


喉が枯れんばかりの叫び声が聞こえ、その直後Yさんは耳を覆った

鼓膜が破れそうな金切音がし、その音にYさんは驚き、顔を歪ませながら慌てて受信機の電源を消した

全身に冷や汗が流れ、心臓の鼓動が早くなるの感じたがしばらくしてあれは一体なんだったのだろうと好奇心に駆られた

その後、電源をつけてみると受信機は何もいわなくなっていた。調べてみるとどうやら内部の基盤が故障していたようだ


翌日、朝のニュースを見てみると火災のあった家で女性の焼死体が発見された

Yさんは食い入るようにテレビを観ていると被害者の女性の証明写真が写された

まあ、昨日のは流石に誰かのイタズラだろうそう考えたが、写真の女はこちらを睨んでいるようにも、悲しそうな表情でジッとこちらを見つめているように見えた

ひょっとして昨日の声の主は彼女なのか?

それ以来、Yさんは無線を聴くことをやめたそうだ

しかしYさんは今でも、ラジオやオーディオ危機のノイズを聴くたびあの悲鳴の様に鼓膜をつんざく金切り音が聞こえるのではないかと不安になるらしい

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