第127話
3人ほどが飲みすぎて、駐車場の車中で食休み。
あとのメンツは大丈夫。
「さて、駐車場付近に咲いている花から説明するよ」
半月ほど経つと、咲いてる花も少し夏の花に変わって来た。
まだ、ウツギ類は咲いている。
「白い花はウツギ。アジサイ科だよ」
「八重になったヤエウツギも園内で咲いてるよ」
「あと、ここでウツギ科にはガクウツギ、イワガラミがある。イワガラミは落葉性のつる性草本」
「お〜い正。なんでこれらのアジサイ属の木、ウツギという名前なの?」
「ウツギと言うのは空木といい、茎あるいは枝が中空の樹を一般に○○ウツギと呼ぶんだ」
「なるほどね〜」
「単にウツギと呼ばれる樹の花は、別名ウノハナとも言う。夏は来ぬに唄われている」
「卯〜の花の匂う垣根に、」
こずえちゃんが歌い始める。
ツアーガイドさんを思い出す。
「ホ〜トトギス早も来鳴きて、忍び音もらす、夏〜は来ぬ」
こずえちゃん、歌が上手。
教育学部。可愛い、いい先生になりそう。
「ねえねえ、イワガラミって、岩に絡むんですか?」
「そう。名前のとおり、幹や枝から気根を出して高木や岩崖に付着し、絡みながら這い登る」
「私は、タダシガラミです」
こずえちゃんが自己分析している。
「さて、細かく説明すると、ここだけで終わるんで、先に進もう」
「気になった花や植物があれば、園内散歩中、僕や恵ちゃんにいつでも聞いてね」
「この花はシラン、紫蘭、紫の蘭よ。もちろんラン科。地生蘭」
恵ちゃんが質問を受け説明する。
「ここにオレンジ色のニッコウキスゲがあります」
「ススノキ科、昔はユリ科だったんです」
「日光の名前がついているけど、全国どこにでもあるんですよ」
半月前よりたくさんの花が咲いている。説明をかち割りながら進んでいく。
「これ、ヤブレガサというんだ。キク科」
「葉は、見ての通りやぶれた傘の様でしょ」
「そうそう、これ可愛いでしょ。二つ花茎が伸びている。フタリシズカと言うんだ、センリョウ科」
「同じセンリョウ科には、ひとつの花茎しかないヒトリシズカもある」
「正先輩は、フタリシズカです。今の所、私はヒトリシズカです」
こずえちゃんが呟く。
「こずえちゃん、可愛いんだから、正への執着を捨てると、すぐに二人静かになるよ」
「俺がフタリシズカにしてあげる!」
何人かの輩がこずえちゃんに話しかける。
こずえちゃん、モテるじゃない。
ロックガーデンのところで足を止める。
「わあ。小さくて可愛い花たち」
女の子が優しい目で山野草を見つめる。
「看板に花の名前が大体ついていますから見てね」
皆んな、ガヤガヤ可憐な野草を眺める。
「ロックガーデン、面白いね」
どこからともなくそんな声。
「さあ、前に進みましょう」
「さてウメモドキ、モチノキ科、キジカクシ科のオモトもあるね」
「可愛い! 恵先輩、これなんですか?」
「ミズチドリと言います。ラン科の清楚な白い花ですよ」
「バラ科のカライトソウ、あと、これは珍しい、ツツジ科のギンリョウソウが咲いている」
「ギンリョウソウは、鬼太郎の親父の目玉に似ているね」
「似てる、似てる」
「正先輩も恵先輩もすごいですね」
「なんでそんなにスラスラと植物の名前が出て来るんですか?」
一、二年生の女の子たちが僕らに問いかける。
「可愛い、綺麗、素敵なものを覚えるのに苦労する?」
皆は微笑む。
「さて、実験室前の庭だよ」
「目に飛び込んでくる庭一面の花はトキワナズナだよ。まるで妖精の絨毯」
「ナズナ? ぺんぺん草と同じ仲間?」
誰かが質問してくる。
「いや、違うよ」
「ナズナという名がつくけどアブラナ科ではなく、アカネ科の常緑多年草」
「花言葉は甘い思い出」
林が途切れ開けた場所。
植物園内は開放感のある場所と、林の鬱蒼とした場所とがバランスよく配置されている。
丘の林の中にはこの地を好んで散策されたという大正天皇の碑がある。
「大正天皇記念碑脇のクリの木は、当時、大正天皇がこの木に帽子を掛けたことから、御帽子掛の栗の木、と呼ばれるんだ」
「でも、今はすっかり大木に成長してしまい、帽子を掛けられるような木では無くなってしまった」
「さて、時間もあまり無いので、ここから芭蕉池まで、一気に歩こうか」
「そうしよう」
僕が音頭をとり、皆んなが続く。
「着いたよ」
「あれ、芭蕉池なのに水芭蕉がないね?」
「水芭蕉は4月に開花。今はそこら中に見られる、大きな葉になった」
「これはオオマルバノホロシ、ナス科」
「イブキトラノオ、タデ科」
「紫色の菖蒲。ノハナショウブです。アヤメ科」
「ホザキシモツケ、バラ科。日本では、北海道と日光と長野の一部にしかない」
「そしてご存知、ワスレナグサ、可愛い青。ムラサキ科の花だよ」
「実はこれは、増えて増えてどうしようもなくなる」
「素敵な花言葉、Forget me not」
「私を忘れないでと違い、忘れるどころか、どんどん成長し増えていくんだ」
大学の四年間もそうだ。
僕らの思い出も、忘れる間も無く、どんどんと増えていく。
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