第126話

とうとう来てしまった。オケの連中との日光参りの日。


傘がいるかいらぬか程度の霧雨が降っている。


皆トイレを済ませ、大学構内のコンビニで軽い朝ごはんやおやつ、飲み物を買ってくる。



「はい、配車はくじ引きとなりま〜す」


「車は6台。各々運転手込みで4人ずつで〜す」


僕と恵ちゃんは特別にくじ引きなしで、水野の車にしてもらった。


こずえちゃんがグズルぐずる。


「正先輩ずるいです」


「もう、ルールもへったくれもありません」


「何のためのくじ引きですか!」



「その前に、なぜ僕が行かなきゃならない?」


「恵ちゃんも連れて来たんだよ」


「それは、……」


「ねっ。誰からも文句が出ないんだから、許して」


「わかりました」


こずえちゃんはトボトボとくじを引きにいく。


「私は、隆さんの車になりました」


「残念です……」


「こずえちゃん、僕の車で残念はないでしょ」


隆は笑う。


「さあ、乗って」



ーーーーー



僕らは予約しておいた20数人が入れる部屋へと向かう。



「ま・い・う〜っ」


「美味しいね!」


「すっご〜い、まいう!」


料理が来るなり、すぐさま皆の喜びの声。


「ビール、ルービ!」


昼間っからビールを頼む輩も出て来た。


もう宴会だ。


運転手以外の男たち、皆ビール。


もう誰も止められない。



「正くん。ここの中華料理、ホント半端じゃなく美味しいね」


「私、こんな美味しい中華食べたの久しぶりかも。いや、初めてかも」


恵ちゃんは春巻き、2口大くらいで濃い目の焼き色が付いている餃子、プリプリ・シャキシャキで、油通しをしたような香ばしさの具だくさんの五目あんかけやきそばなどに舌鼓を打つ。


「最高、ここの味。味付けにメリハリがある」



こずえちゃんも2度目の来店だが、改めて焼きぎょうざに満足。


「皮はやや厚目、焼き目の部分はカリッとして、それ以外の部分はモッチリしています」


「アンは肉が多目で、食べごたえがあります!」


オケの皆んなの食が進む。



「ねえ、横浜の中華街といえども、ここほど美味しいお店を知らないわよね」


紀香ちゃん、夕子ちゃんも僕らとの2度目の来店。友達と笑顔で舌鼓を打つ。



「お〜っ、まいう〜」


「う〜、まいう」


オケのメンバーは、出てくる料理ごとにその美味しさに感動してる。


もちろん、出来立てのアツアツやパリパリ感がいい。


ビールも少し度を超えて来ている。



隆も、今回はグルメデートで彼女の里菜ちゃんを連れて来た。


大人しい里菜ちゃんも満足げ。隆と色々だべってる。



ニラが大好きなこずえちゃん。


にらまんじゅうが来た。


「皮はサックリ・モッチリで香ばしく,具材はザクザク食感で食べごたえがあります!」


「これは海の生き物でタコかイカかと問われますと、ニラの風味がイカしてます」


こずえちゃんのギャグは誰も聞いていない。誰にも受けない。


まあ、この場の雰囲気だけでいいらしい。



「杏仁豆腐おいしいね!」


恵ちゃんが大喜び。


「たっぷりの量で、たくさんフルーツが添えられていて」


「フルフル、滑らかな食感で、口どけ良しだわ」


「杏仁風味はマイルド、少し牛乳風味は濃い目かな?」


「でも、甘さ控えめで、後味スッキリ」


「上質な天然水も使われているだろうしね」



「餃子、また追加。パンパンでニラもたっぷり。焼き加減最高!」


「もうここの中華、最高!」


中華丼、エビチリ、ニラ団子が運ばれて来る。


ビールもたんまり入った。


皆、満腹感が襲って来る。


これから、東照宮、二荒山神社、植物園、そして華厳の滝、ワールドスクエア、温泉なんてスケジュール大丈夫かな?


心配していると、やはり、スケジュールの変更が入る。


酒の入っていない、運転手組からの連絡だ。



「え〜皆さま。宴たけなわのところではありますが、旅程の変更につきご相談させてくださいませませ」


「このまますぐに、世界遺産『日光の社寺』に向かいますと、おトイレなど、問題がある方が出て来る場合もございます」


「健全な青年として、避けなければならない事態を先読みし、まずは植物園から食後の散歩をすることで決定しました」


「異論はございますか?」


「意義なし!」


やれやれ、まあ、お酒の入った、そんな皆様に植物の可憐さを伝えなきゃならない。


「恵ちゃん、手伝ってね」


「うん」


傘はいらない程度の曇り空。


恵ちゃんの温かい手を握る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る