恋する常夜燈

アオベエ

恋する常夜燈

 僕の明かりは偽物の明かり。

 日輪様の明かりを借りているに過ぎません。


――僕も本物に生まれたかった



 私の明かりは偽物の明かり。

 貴方の本物の明かりは私の明かりを酷く賤しい物にするのです。


――私も本物に生まれたかった


♢ 一


 或る秋の夜、雲がかかった貴方を眺む私の傍を一脈の風が通り過ぎて往きました。

 私はこの風と、遠い昔に会った事がある様な気がします。


――私もこの風の様に、本物となって貴方の傍へ往けたなら


 もう辺りの草木は枯れて、紅みを帯びた葉をカサカサと私の下へ散らしています。

 私の明かりに群がった羽虫は、ブンブンと音を鳴らしています。

 それらは全て大切となって私の心を癒すのです。


 雨が降り出し、チカチカとした街の明かりはぼんやりと曖昧な物となりました。

 私に降りかかるこの雨は、誰かの祈りの雨なのかもしれません。


 此処で明滅を繰り返す私達の上で、貴方は其処で満ち欠けを繰り返しています。


♢ ニ

 

 暫くすると、遠くにチラチラと一つの人影が現れました。その小さな影は頼りなく揺れていましたが、私の明かりを見つけると真っ直ぐに此方へと向かって来ます。


 私の傍にやって来たその影は、黄色の雨合羽を羽織った幼い少女でした。私を見上げる少女の澄んだ黒い瞳には、ぼんやりと私の明かりが映っています。


「これが此処だから、彼処かな」


 そう呟くと、少女は足早に去って往きます。

 その手には、紺の蝙蝠傘が抱えられていました。


♢ 三

 

 或る秋の夜、貴方の傍を雲が立ち籠めています。


 どれだけの月日が経ったのでしょう。

 偽物の私の明かりは、もうすぐ役目を終えるそうです。


 辺りには霧が立ち籠めています。

 全ては朦朧とし、曖昧となりました。


――偽物の私は、誰かの本物になれたのでしょうか


 霧雲の切れ間に、ぼんやりと本物の明かりが在りました。

 やっと、私は貴方の傍へ往けた様な気がします。

 


 

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