Angel Baby & Wandering Monster
やんばるくいな日向
第1話1章
■ 1 ■
マリィが言っていた。
森の奥には古い大きなお屋敷があって、そこには魔物が住んでいるって。
魔物たちは屋敷に近付く悪い子を捕まえて頭から食べてしまうって、ふたつ年上のマリィはアンジェラに話してくれた。
まだ10月だけど夜は冷える。
アンジェラは小さな手に息を吹きかけ、森の中を歩き続けた。
月は空。森の木々の隙間から、たった一人で歩くアンジェラの後姿を見つめている。
暗い森。まだ10歳にも満たない少女が一人ぼっちで夜に歩くのには相応しくない場所。
それにアンジェラの格好は森を歩くには相応しくない。所々に汚れが目立つ淡いブルーのワンピースは長袖ではあるものの、薄い素材のものだ。
酷く寒い。
寒さで震える身体を抱き締めて歩き続ける。
アンジェラの、グリーンが掛かった蒼い瞳がそれを見つけた。
木々の間から見える、大きな門。
お屋敷だ。
アンジェラは駆け寄る。緩くウェーブの入った長い金髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。
お屋敷の鉄門はさび付いていた。
幼いアンジェラでは門を開けない。一生懸命暗闇に目をこらせば、門の向こう、大きな屋敷が見える。古いお屋敷だ。真っ暗な屋敷。誰もいないお屋敷。
人間は誰もいない、お屋敷。
悪い子を頭から食べてしまう魔物が住む屋敷。
アンジェラは真剣な顔をして門の鉄柵の隙間を抜けようとした。
屋敷の敷地内へ、入り込もうとする。
「――何の用だ?」
真上から声を掛けられ、アンジェラは死ぬほど驚いた。
胸元を掴み、弾かれたように顔を上げる。
門の左側、柱の上に悪魔の石像が置かれていた。片方の膝を抱きかかえるようにした悪魔。成人男性ほどの大きさもある。
猿のような顔に鳥のようなくちばし。背にはこうもりの翼。手足には鋭い鉤爪。石造りだと分かっていても、思わずどきりとするほどの精巧な悪魔像だ。
石のくちばしが、動いた。
「なぁ、何の用なんだ?」
若い男性の声で悪魔像が話した。
アンジェラは目を大きく見開いて悪魔像を見ている。
マリィの言葉を思い出した。
森の奥のお屋敷には魔物がいて、悪い子を頭から食べてしまう。
あの話は本当なんだ。
アンジェラは何度も唾を飲み込む。震える身体で悪魔を見上げ、口を開いた。
「あの……ね」
「うん?」
悪魔は意外と優しい声を出す。
アンジェラは少しだけほっとする。
続けて、言えた。
「私、悪い子なの」
だから。
アンジェラは悪魔に向かって両手を差し伸べた。
「だから、食べて?」
悪魔はじっとアンジェラを見ている。
そして小鳥のように首を傾げた。
「俺、ちぃっとも話が分からないんだけど」
「魔物は悪い子を食べるって……だから、私、悪い子なの」
「…………」
悪魔は首を傾げ続けている。
無表情の石の顔が困っているように見えた。
どうしよう。
アンジェラも困る。
「悪魔は、悪い子を食べないの?」
「さぁなぁ。悪魔に知り合いはいないし」
悪魔は意外な事を言った。
アンジェラは蒼い瞳を瞬かせる。
「あなたは悪魔じゃないの?」
「俺? 俺はガーゴイル」
「……?」
悪魔――ガーゴイルが笑う。
石の爪を鳴らしながら何だか楽しそうだ。
「この屋敷の門番をしている。勝手に入ってくるような奴らを追い出すのが仕事さ」
「勝手に入ったら、食べてくれる?」
「どうしてそんなに食べられたいんだ? 変な人間だな」
「私は悪い子だから」
ガーゴイルは少しだけ空を見上げた。
月を見る姿勢。
「よく分からない」
呟きに近い声だった。
呟きと共にガーゴイルの背の翼が広がる。大きな、灰色の翼。こうもりの翼。
そして、ガーゴイルは門の内側に飛び降りた。
アンジェラの目の前で蹲ったガーゴイルはゆっくりと立ち上がる。
石の手が柵を握った。長い爪。アンジェラを軽く切り裂いてしまうだろう爪が見えるけど、ガーゴイルはそれを振るわない。
相変わらず少しだけ首を傾げている。
「なぁ、何でそんなに食べられたいんだ?」
「悪い子だから」
「悪い子って?」
アンジェラは答えようとした。
口を開いて、言葉を発しようとして――
くちゅん、と、小さなくしゃみをした。
石の身体のガーゴイルには分からないようだが此処は寒い。
「――ロック」
ガーゴイルが振り返る。
いつの間にか真っ暗だったお屋敷に灯りが灯っていた。そして、ガーゴイルの背後には古びたランプを手に持った男が立っている。
アンジェラはその男の人を見上げた。
綺麗な男の人だった。
女性のような顔立ちをしている訳ではないけれど、綺麗とか美人と言う言葉が似合いそうな人。黒のコートに白い肌が映えていた。
「震えています。その少女に中に入って貰いなさい」
「了解」
ガーゴイルが門に手を伸ばす。
魔法のように門が開いた。
アンジェラはガーゴイルを見た。
「入ったら食べてくれる?」
「残念」
ガーゴイルは笑う。「住人が許可したならもう俺はあんたをどうこう出来ないよ」
さぁ入った入った。
ガーゴイルに導かれ、門の内側へ。
ランプを手に持った綺麗な男の人がアンジェラに手を差し伸べた。
「いらっしゃい、お嬢さん」
握り締めた手はとても冷たかった。
アンジェラは驚いたが、見上げた先には優しい綺麗な笑顔。
だから安心した。
男の人は紅い瞳を細めた。とてもとても優しい笑み。
「さぁお嬢さん、いらっしゃい。家の中に入りましょう」
アンジェラはおとなしく頷いた。
屋敷の中を見て、アンジェラは小さく歓声を上げた。
テレビドラマで見たお屋敷よりもずっと綺麗な室内だ。蝋燭の灯りで照らされる空間は狭くても、それでも充分に豪勢な室内が見て取れた。
正面の階段。階段を上りきったところに大きな絵画が掛けられていた。絵の題材はどうやら地獄を描いているようだが、気持ち悪くない。
いまだアンジェラの手を引いてくれる綺麗な男の人が笑って、アンジェラを招く。階段を右手に見て、動いた。
アンジェラの影を、あちこちに飾られた蝋燭が揺らめかせる。それさえも綺麗に見えた。
ふと気付く。壁に揺らめく影はアンジェラのひとつだけ。彼の影は何処にも見えない。
驚いて、彼を見る。彼は笑う。綺麗な笑み。大丈夫、怖くないよ。そう言ってくれているようだった。
扉の前に行き着き、彼はゆっくりと扉を開く。
「さぁ、どうぞ」
そう言ってアンジェラに室内に入るように促した。
アンジェラは胸の前で両手をぎゅっと握って部屋の中に踏み出す。
広い部屋だった。
応接間らしいそこには立派なソファがあった。暖かそうな暖炉もある。アンジェラが見た事も無い青い炎が揺れていた。飾り棚には不思議な道具がいくつも並べられている。
そして、部屋の中には何人もの人がいた。
一番最初に目に付いたのは、室内だと言うのにソフト帽を目深に被り、コートの襟を立てた背の高い人だった。アンジェラに背を向けて窓際に立っている。アンジェラの視線に気付くと、まるで隠れるようにそっと部屋の隅に行ってしまった。
そして、大きなソファに寝そべり、そこを一人で占拠している女の人。短いスカートから長い脚が覗いている。明るい茶色の髪がさらさらと流れていて、肘掛に背を預け、長い脚を投げ出している彼女の肩から胸辺りを覆っている。ネコのように釣りあがった瞳に笑みを浮かべ、彼女はアンジェラを見ていた。
二人がけの小さめのソファに座っているのは、よく似た女の人と彼女の息子らしい少年だった。少年はアンジェラよりも小さい。金髪の、可愛らしい男の子だった。緊張した面持ちでアンジェラを見ている。その少年の肩を抱くようにしながら女の人は優しく微笑んでいた。
ぼんやりと壁際に立っている男の人がいた。本当に顔色が悪い。まるで死人のようだ。だけど、とても大きい。アンジェラはこんなに大きな男の人を見た事が無かった。彼はガラス玉のような瞳でアンジェラを見ていた。
それから――
「マルファス。その子がお客様かね?」
部屋の奥からの声に、アンジェラはもう一人の存在に気付く。
小柄な老人が一人がけの椅子に深く腰掛けていた。
魔法使いのようなローブを着た老人。重ねた両手を杖に掛け、皺だらけの顔の間から、とても強い色の瞳が見えた。
「えぇ」
マルファスと呼ばれた綺麗な男の人が頷く。
彼はアンジェラの背を押し、老人の前に導いた。
アンジェラはおずおずと頭を下げる。
老人が笑った。
「わしを恐れる必要は無い。安心おし。我々は人を愛している」
羽音。
開いたままだった扉から、ロックが飛び込んでくる。
彼は翼を広げてそのまま天井へ。天窓の僅かな隙間に腰を下ろし、こちらを見ていた。相変わらず石の顔の表情はよく分からない。
「さぁ、まずはお座り。それから、お話し。どうして、こんな森の奥までやってきた?」
マルファスがアンジェラをひとつのソファに座らせた。
促されるまま腰掛けた彼女は、じっと老人を見つめた。
「まずは名前を教えておくれ」
「アンジェラ」
「天使、とは――これまた」
老人の笑い。
少しだけ、周囲の人たちの空気が変わる。
何だか苦笑に近かった。
「では、“天使”。お前はどうして此処に来た?」
「私は悪い子だから魔物に食べられに来たの」
老人が目を見開いた。驚いているようだ。
アンジェラは一生懸命に訴える。
「森の奥のお屋敷には魔物が住んでいて、悪い子は頭から食べちゃうってマリィから聞いたの。だから、私、食べられに来たの」
――ぷ、と噴きだす声。
けたけた笑い出したのは、ソファに一人で座っていた長い髪の女だった。
彼女はソファの上に仰向けで、腹を抱えて笑っている。長い脚をばたつかせている為、太股あたりまで脚が覗いていた。
「なんだ、この小さな“天使”は既にワルイ事して堕落済みって訳」
女はアンジェラを見た。
笑う。
「素敵な事よ。天使が空にいるのなら、後は地上に堕ちるだけ。――ようこそ可愛い天使、いらっしゃいませ堕落の園へ。歓迎するわ、心から、ね」
「黙れ、魔女」
「はぁい」
老人の言葉に、女――魔女は笑ったまま間延びした返事を返す。そしてアンジェラにひとつウィンクして見せた。
その仕草がとても綺麗に見えた。アンジェラは笑う。
笑い、老人に顔を向ける。
「さて」
老人が促した。
悪い子の話をするべきなのだ。
「あのね――」
アンジェラは少し緊張した。
誰もがアンジェラの言葉を待っている。
「ママが、アンジェラは悪い子だって言うの」
「どうして?」
真上からロックが声を落とす。
老人はガーゴイルの口出しを封じなかった。彼自身も聞きたかったのだろう。
アンジェラは首を曲げて上を見る。そしてこちらを見下ろすロックに向けて、言った。
「今日は静かに歩けなかったから」
「静かに歩く?」
「ママがお仕事から帰ってきたら、私はママの邪魔をしないようにしなきゃだめなの。でも、私、廊下を歩いちゃったの。うるさい音を立てるのは悪い子なの」
ロックが首を傾げた。
表情はよく分からない。だけど不思議そうな様子。
「ガキがうるさいのは仕事みたいなもんだろ?」
「――他には、何か?」
いつの間にかソファの後ろに立っていたマルファスが、やっぱり綺麗な笑みで微笑み掛けて来る。
アンジェラは今度はマルファスの紅い瞳を見て口を開いた。
「ママがね、私にお仕置きをしてくれている間は、私は叫んじゃダメなの。いつもだったらちゃんと我慢するの。でも、今日は我慢出来なくて、泣いちゃったの。うるさいとママの頭痛が酷くなるから、だめなのに」
マルファスは何だか哀しそうな顔をした。
すぐにそれを隠して笑ってくれた。
アンジェラはその笑顔を見て――何故だか言葉が止まらなかった。
「良い子はママがくれるご飯以外欲しがらないのに、私、すぐにお腹が空いちゃうの。悪い子はたくさん食べるのよ。ドンヨクは罪なの。ねぇ、悪い事なの」
小さく、泣く声がした。
小さな金髪の男の子が泣いている。彼のお母さんが優しく抱き締めているのが見えた。
「ママが……悪い子は死んじゃえばいいって言うの。だけど、自殺はダメなの。天国に行けなくなるの。ちゃんと知ってるの。マリィが教えてくれたのよ。だから、私、魔物に食べられようと思って――」
「アンジェラ」
マルファスが優しく囁いた。
彼はソファの前に回りこむ。
アンジェラと瞳を合わせて、優しく、優しく、笑う。
そして、両腕でアンジェラを抱き締めてくれた。
「有り難う、アンジェラ。話してくれて。――よく分かりました。とても、よく分かりました」
「本当?」
冷たい腕の中、アンジェラは笑う。
マルファスの腕を掴んで、彼女はにこにこと笑った。
「私が悪い子だって分かってくれた? 食べてくれる?」
「それは皆と相談して決めます」
「……食べてくれないの?」
「私一人では決められぬ事なのですよ、“天使”」
唇を可愛らしく尖らせたアンジェラに、マルファスが笑って言う。
彼はそっとアンジェラの小さな身体を抱き上げた。
「皆で相談しますので、アンジェラは眠りなさい。今日は此処に泊まっていくと良いでしょう」
マルファスが周囲を見回した。
老人がゆっくり頷く。
「寝室に案内します」
「……うん」
アンジェラが小さな声で頷く。
マルファスはもう一度部屋の中の人々と顔を合わせ、応接間を出て行った。
小さな少女とマルファスが出て行った後、いまだ泣く我が子を抱き締めた女が小さく呟いた。
「――なんて、酷い」
「酷い、って何が?」
ロックが真上から女に声を掛ける。
女はロックを見上げた。
「あの子……親に虐待されているんだわ」
「虐待?」
よく分かっていないようなロック。
このガーゴイルは数百年間も倉庫に突っ込まれていたせいか、どうも色んなものに疎い。根はとても良い青年なのだけど。
「虐待って言うのはねー」
魔女がソファに寝転んだまま言った。「いじめのお化けみたいなもの。あの子を肉体的に、精神的に酷い目にあわせ続けてるって訳」
「どうして?」
「さぁ?」
魔女は首を傾げた。
ロックの疑問はもっともだ。
この場にいる誰もが知りたがっている。
小さな人間の少女。
金髪の、名前の通り天使のように愛らしい顔をした子だった。
悪い子だなんて到底思えない。
ロックはいまだ首を傾げて考えている。
「親はあの子が嫌いなのか?」
誰も答えない。
人間の心はよく分からない。
ロックはもう少し考えている。
「なぁ」
ガーゴイルが突然明るい声を出した。
皆の視線を集めた彼は、表情が表に出ない筈の石造りの顔で笑っていた。
「親が要らないって言うのなら、俺たちがあの子を貰っちゃおうぜ」
「……食べるの?」
泣いていた金髪の少年が恐る恐る問う。
ロックは「違う、違う」と激しく首を左右に振った。
「俺たちの仲間にしちゃうんだよ」
「……人間を?」
少年の母が静かな声で言った。戸惑いが裏に潜む声。
それに気付かぬように、ロックが大きく頷いた。
「そう! 人間をこっち側に引き込む方法ならいくらだってあるだろ? 仲間にしちゃえばいいんだよ。悪くない話だろ、な?」
「私は賛成」
魔女が手を上げた。「“天使”を堕落させるなんて面白そう」
少年が母の顔を見上げた。それに微笑みかけ、女も笑う。
「私たちも賛成。――傷付けられると分かっていて、帰すなんて出来ないわ」
「イオナとレオンも賛成、っと」
なぁ、と、ロックは部屋の隅のソフト帽と、窓際のぼんやり顔の大男に声を掛ける。
二人は酷くゆっくりとした動きでロックを見た。
「あんたらはどうなんだよ? スカー、ブラフ」
スカーと呼ばれたのはソフト帽の男。彼は少しの間迷い、やがて首を縦に振った。
ブラフは動かない。相変わらずぼんやりと中空を見つめている。
そして――老人。
彼はロックから視線を外し、じっと手元を見ている。杖に付けられた宝石を眺めているように見えた。
「なぁ、爺さん……」
「分かった」
あっさりと返ってきた答えにロックの方が驚く。
え? と言ったきり言葉を失ったロックを見上げ、言う。
「ただしあの子が選ぶならば、だ。あの子が親の元へ帰りたいと願った時点でこの話は終わる。――分かったな?」
「了解!」
ロックが笑い、翼を広げた。
床に降り立つ。
「なら、明日、街に行く許可をくれよ」
「何故?」
「あの子に必要なものを買ってこなきゃならないだろ? あんなぼろぼろのドレスを着せてるんじゃ可哀想だ」
魔女がくすくすと笑った。
ロックが魔女を見る。
「なんだよ?」
「それにハロウィンが近い街を見に行きたいのでしょう、ロックは?」
「悪いかよ」
「いいえ」
にんまり、と笑う。「私もハロウィンは大好き」
扉が開いた。
マルファスがため息を付きつつ、部屋の中に入ってきた。
「どうだ?」
「すぐに眠ってしまいました。かなり疲れていたようです」
マルファスは室内を見回す。
仲間たちの表情を見て、彼は笑った。
「話は決まりましたね?」
「あぁ」
ロックが胸を張った。「俺が責任持って面倒を見る」
「ロックが?」
マルファスは秀麗な顔を歪める。
酷く不安そうな顔。
あぁ、と胸に手を当て、独り言のように呟く。
「あの可愛らしい少女がロックのような野蛮な存在へとならなければ良いのですが……」
「俺の何処が野蛮だって?」
「すべてです」
「あのなぁっ!!」
老人が杖で床を叩いた。
ロックとマルファスは黙る。
叱られた子供の顔で老人を見た。
「マルファス、ロックの手伝いをしなさい」
「分かりました」
「ロック、マルファスと共に動くように」
「はい」
「宜しい」
老人は満足そうに目を閉じた。
「――ハロウィンが近い。皆、騒ぎ過ぎぬように」
どうせ、と老人は呟いた。
「ハロウィンが過ぎれば我等は此処を立ち去る身。本来ならば人に関わらず存在してゆくべきなのだろうが――」
「あの子も俺たちの仲間になるからいいんだよ」
「……」
ロックの明るい声に老人は答えなかった。
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