勇者が来ないので、今日もスローライフを満喫してます
フユヤマ
第1話 今日も勇者は来ず
魔王。それは魔物、魔族に属する全てのものの長のことを指す。
暗黒に染まった巨大な城に住み、数多の僕を引き連れ、長として玉座の間に居座り続け威厳を放つ。
もちろんのこと、ほとんどの魔法を使いこなし魔法耐性にも優れている。
しかし、魔王にも恐れるものがある。それは、勇者の聖剣である。魔王には物理攻撃の耐性もある。しかし、聖剣には特殊な魔力が込められており、如何なるものを貫くとされている。
そして勇者も侮れない。封印されていた聖剣を引き抜いたのだ。聖剣は触れた者の魔力に呼応し引き抜かれる。つまり、勇者自身にも特殊な魔力が込められているということになる。歩く聖剣と言った方が近いだろう。
だが、そんな勇者は、
「ねぇ、勇者っていつ来るの?」
「「さ、さぁ……?」」
魔王の問いかけに、僕たちも困ってしまうという状態である。それほどに勇者が来ず、また魔王も同じような質問を何度も繰り返しているということだ。今日は月に1度の魔王城会議を玉座の間で行っていた。 魔王城に勤めている魔族全員が参加する会議だ。
「俺って一応魔王なんだよ?俺より強いのって勇者ぐらいなんだわぁ?その勇者が来なきゃ、ただこのゴテゴテした椅子に厳つい顔しながら座ってるだけになるんだけど。てか先代らはこの椅子カッコいいと思ってんのか?超ダセェんだけど」
「「は、はぁ……」」
あまりにも魔王らしからぬ発言に困る僕たち。
そんな中、1人の僕がある透き通るような明るい声である提案をする。
「だったら、城の周りには結界が張ってあるし、侵入者が出てくるまでゲームしようよ!」
「お?ゲームか!悪くはない。てか、めっちゃナイスアイデア!」
提案した僕は、魔王城を守る幹部の1人である女ヴァンパイアのブラッディだ。銀色の髪を靡かせ八重歯が剝き出ており、まさにヴァンパイアそのものだが、意外にも目が丸く少し可愛気がある。因みに胸デカい。
「てか、ブラッディ今昼だけどお前寝なくていいのか?」
「うん!だからゲーム内容は上手く私を寝かせられるかどうか!って内容で!名付けて、『ブラッディちゃん寝付かせゲーム!』だよ!」
「「却下」」
「なんで!?」
魔王や他の僕も即答だ。それもそうだろう、だって楽しくない。
「とにかく、お前は寝てこいよ」
「は〜い……」
落ち込んだ様子でそのまま玉座の間を出ていく。
ヴァンパイアは夜行性で昼は眠っているのが基本だ。昼でも動いていられるヴァンパイアは狂ってる者か、ブラッディぐらいだろう。もちろんブラッディは狂っていない。
「それにしても魔王様、いつまでも玉座の間に居なくても良いんですよ?」
「だって、勇者がいつ来るかわからないだろ!?勇者が突然来た時に俺がパンツ一丁だったらアイラは責任取れるの?!」
「妙なところはこだわりますね……」
少し生真面目なところがあるこの子はドラゴンのアイラだ。普段は眼鏡をかけた普通の少女のように見えるが、戦場に出れば誰もが恐れるあのドラゴンに変身する。ちなみに胸デカイ。
「ところでシャリー。城の周りに異常は無い?大丈夫?」
コクコクと無言で頷くアンドロイドのシャリー。
シャリーは魔王があまりにも暇すぎて外界に遊びに行っていた時に見つけた人造人間だ。最初は動くこともできなかったが、少し細工をすると言葉に反応するぐらいまでは可能になった。
細工をする際に分かったことは、シャリーは戦闘型アンドロイドで内部に幹部2人に匹敵するぐらいの強さの様々な武器が仕込まれていたということだ。今では他の僕たちに城の周りの探索を指示できるぐらいまで成長した。会話はしないが。ちなみに胸はカタイ。
「そうか、そうか!それなら何より!」
「…………」
少し照れたような表情を浮かべる。シャリーは表情で相手に気持ちを伝える。ある意味ではコミュニケーション才能に溢れている。
「さーて……」
背もたれに体重をかけ、あ〜と唸りながら何か考える魔王。そして、
「二度寝するわ」
「は、はい」
と腑抜けた返事をするアイラ。いつもの事だが、魔王らしくしてほしいところではあるとつくづく思いやられる。いざとなれば、とても頼りになる我らの王なのだが。アイラは手で顔を覆い、はぁとため息をついてしまう。
他の僕たちも「さて、何するかぁ」といつもの事のように散らばっていってしまった。
「早くこねぇかなぁ、勇者」
そう呟きながら魔王は、自室に向かうのであった。
そして、今日も勇者は来なかった。
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