小景小話
日向葵(ひなた・あおい)
街に棲む鳥
道端で鳥を見かけると、いつも思い出すことがある。
「鳥って良いよねぇ」
鳥を見る度にそう言っていた、友人のことだ。
*
「お前、ホント鳥好きだよなぁ」
俺が呆れ半分に言うと、そいつは笑って「当然」と答えた。
「雀が飛び立つところって、可愛いと思わない?」
「可愛い……って言うのか、あれ?」
「可愛いって言うんだよ、あれ」
歩道の端で、雀を追いかけながらそう言っていたかと思うと、次の瞬間には烏を見つけ、立ち止まってしみじみと眺める。
「烏の羽根って綺麗だよね」
「綺麗……まぁ、烏の濡れ羽色ってのはあるけど……」
「でしょう? 綺麗だよね」
気がすむまで烏を眺めてから、コートの裾を翼のように翻して歩き出す。
「いいなぁ、いいなぁ。私も空飛びたいなぁ」
小刻みにぴょこぴょこ飛び跳ねるその姿は、まるで、飛び立つ練習を繰り返す雛鳥のようだった。
「そう言うなら、飛行機にでも乗ったら?」
あれだって羽根がついているし、空を飛ぶことに違いはない。俺はそう思ったのだが、どうやら違うらしい。
「そうじゃないんだよ」
「何が違うんだよ」
「んー……何て言うか、自力で飛びたいって言うのかな。飛行機みたいな、機械に乗るんじゃなくて」
両手を、空に向かって大きく広げる。
「鳥になって、飛びたいなぁ……」
あの日、そう言って空を見上げていた友人は、望み通りよく晴れた空へと飛んでしまった。鳥になったわけでもないのに、その身一つで。
道端で鳥を見かける時、いつもそいつを思い出す。
今、お前はどんな姿でいるだろう?
鳥になりたいという、あの願いは叶ったか?
俺の頭上、遥か高くを、一羽の鳥が飛んで行った。あれは、何という鳥だったか……。
「お前、気持ち良さそうに飛んでるなぁ」
何となく、空を飛びたくなった。
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