とある姉妹の狂想曲
澤田慎梧
「今までのあらすじ」
「佐藤さん
あたしと姉さんは、小さな頃からそうやって周囲の人間におだてられて生きてきた。
実際、あたしは目がクリっとしていて髪の毛は明るい色のふわふわという妖精のような美少女だったし、姉さんは姉さんで、切れ長の目にクールな雰囲気を
二卵性ということもあって、お互いに全然似てないけれども、それぞれに違ったタイプの可愛さを持っていたのだ。
ただ並んで立っているだけで、周囲の大人や男の子達はちやほやしてくれたっけ。
小学校に入っても、中学校に行っても、高校に進学しても、あたし達はとにかくモテてモテてモテまくった。
下駄箱にラブレターが入っていることはザラだったし、しょっちゅう屋上に呼び出されて告白されたしで、毎日が忙しかった。男に事欠いた覚えは……ない。
――とは言え、なんだかピンとくる男がいなくて、あたしも姉さんもキープ君は沢山いたけど、誰かとちゃんと付き合ったことはないんだけど。
当然、他の女子からは嫉妬されて嫌がらせされそうになったことも多かったけど、あたし達は常にアプローチをかけてくる男子に囲まれてたから、本格的にいじめられるようなこともなく、平和だった。
男子達はあたしと姉さんをお姫様扱いしてくれたし、あたし達もそれを当たり前だと思ってたんだ……今考えると、とんでもないメスガキだよね。
風向きが変わったのは、大学に進学した頃のこと。
ちやほやされ続け、周囲に甘やかされるのが当たり前と思いこんで育ったあたしと姉さんは、立派な「バカ女」になっていた。
自分達で努力しなくても誰かがやってくれる。頑張って勉強していい大学に入っていい企業に就職しなくても、言い寄ってきた男達の中から良い感じのを選んで、玉の輿に乗ればいい。
そんな考えだったから、ろくに受験勉強もせず、可もなく不可もない地元の私立大学になんとか滑り込み合格する始末だった。
それでも、大学に入って最初の頃はいつも通りモテていたんだ。だけど次第に、「あれ? おかしいな」と思うことが多くなっていった。
まず、男達の「質」が悪かった。高校くらいまでは、勉強が出来る男子や顔の良い男子、スポーツが得意な男子がいて、それぞれにそれぞれの良さがあったんだけど……大学で言い寄ってくる連中は、なんというか「普通」だった。
みんな似たようなことしか話さないし、勉強が得意な訳でもスポーツが出来る訳でもない。良い所のお坊ちゃんですらない。
しかも、あたし達が簡単にはなびかないと知るやいなや、急に疎遠になることも多かった。もっとお手軽で簡単にヤレる娘にあっという間に鞍替えしていたのだ。
最初の頃は、「あ、ヤリたいだけなのね。お生憎様、こっちはそんな安い女じゃないのよ」なんて、あたしと姉さんは彼らのことを嘲笑っていた。けど、違った。笑われていたのはあたし達の方だった。
そのことにようやく気付いたのは、大学二年になってから。
あたし達は特定のサークルには入らないで、いくつかのサークルにコネを作って、飲み会や合コンがある度にお呼ばれする、というスタンスを取っていた。けど、二年生になったらそれらお誘いがピタリと来なくなったのだ。
後で知った話だけど、何かとお高くとまっていたあたしと姉さんは、ヤリたい盛りの男共からは煙たがられていたらしい。同性からも「ノリが悪い」と思われていたんだとか。
そりゃそうだよね。みんなが馬鹿騒ぎしてる中でも、あたしと姉さんはお姫様然としてニッコリ笑って座ってるだけだったんだもん。
面白い話も出来ない。場を盛り上げることもしない。スポーツ感覚でセックスすることもない。
彼らにとってあたし達は、全くの異物だったんだ。
その後は、あまり面白い話はない。
同じ大学の男が駄目なら他の大学の……と、有名大学の男の子達とお近付きになろうとしたけど、無理だった。
可もなく不可もない私立大学の、面白い話も出来ない、場を盛り上げることも出来ない、頭もあんまり良くない、実家が特別お金持ちという訳でもない、男性経験が豊富な訳でもない、顔だけの女がモテるはずもない。
精々が、ちょっとお高くとまった感じのパーティーへ人数合わせに呼ばれて「壁の花」としての役割を求められるとか、そんなくらいだった。
そんなこんなで、あたし達の大学生活は暗黒時代に突入。その後は何も起こらないまま、あたしはブラックで有名な外食チェーンに、姉さんはこれまたブラックで有名なアパレル販売店に就職。
お姫様扱いとは程遠い、奴隷のような扱いに毎日ひぃひぃ言う生活が続き、段々とすり減っていって……気付けば立派なモテないアラサー女に成り果てていた――。
これが、あたしと姉さんの「今までのあらすじ」だ。
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