M・ナイト・シャマラン『スプリット』
観終えたあと「え?」と、ショックを受けてしまったのだ。拍子抜け、というやつだろう。
あまりM・ナイト・シャマランの映画に誠実に接して来たとは言えない。『シックス・センス』は観た。『アンブレイカブル』も観た。あと観たものと言えば『ヴィレッジ』と『ヴィジット』、そしてこれ。だから迷走していた時期のシャマランを知らない。観なければ観なければと思っていたのだが、フォローが回らずに終わっていたのだ。だから生半可な知識で語ることになる。まあいつものことだけれど、そのあたり容赦して欲しい。
シャマランに関して思うのは、何故彼は超常現象を取り扱うのだろう、ということ。超常現象……いや、『ヴィレッジ』や『ヴィジット』はそういう映画ではないのでここで早速ボロが出てしまう。ならば非日常と言い換えよう。日常的ではないもの、もっと短く言えば異物がシャマランの世界には入り込む。そしてそれが、世界規模の狂いや人生そのものをも狂わせる事態に繋がるのだ。
いや、どんなフィクションも結局日常の狂いを描いているのである、と反論されればそれまで。日常べったりの作品など面白くもなんともない。だが、幽霊が見える少年の物語である『シックス・センス』やヒーローの誕生を描いた『アンブレイカブル』、祖父母たちの住まいを訪れたはずがホラーに巻き込まれる『ヴィジット』……と書いていくとシャマランが徹底して SF やホラーに拘泥していることに気づかされ、そのブレなさを尊敬してしまう。いや、迷走していた時期のシャマランを知らないのは上述した通りなので、ここで私の不勉強が露呈してしまう。
『スプリット』を観た。単純に捉えられる話である。三人の十代の女の子が、変質者によって監禁される。様子を伺う内に、変質者の正体は二十四の人格を備えた多重人格者である、というスジだ。そこに奇妙なストーリーの流れが挿入される。叔父と鹿狩りに行った子どもの話である。この一連のお話と、多重人格者が三人の少女をいたぶる話が絡み合い、混沌としたストーリー展開を成している。
多重人格という現象が実在するのかどうなのか、私には分からない。だが、仮に非現実だとするならば――この映画では、人知を超えた行動を行う存在として描かれるので――シャマランの特質がくっきり浮かび上がることに気づかされるはずである。それは散々述べて来た非現実/非日常だ。あるいは SF ないしファンタジー的要素、と言っても良いだろう。
ストーリー展開は、良い意味でも悪い意味でもヒネりがない。単純に十代の少女の青春を描いたホラーとして鑑賞することも出来る。だが、その観点から観ればこの映画はそんなに青臭さがあるわけではないことに気づかされるだろう。つまり、生々しさがないのだ。そんなに突っ込んで風俗が描かれているわけではないので、ガーリッシュな可愛らしさも愛くるしさも感じられない。このあたり弱いと言える。
とすれば、結局私たちはこの映画を「シャマランの映画」として観ることになる。それがどういうことなのかは、くどくなるがシャマランが個性的なスパイスを加えたクセのあるホラー、ということになるだろう。だから、この映画はシャマランの映画、取り分け初期の『シックス・センス』『アンブレイカブル』を観ておいてから観るべき作品である、と考えられる。
別の角度から言えば、シャマランの個性について行けない人はこの映画を楽しめない、ということになる。多角的に、例えばソーシャルメディア社会のメッセージとして「少女たちもまた、ネット社会では多重人格なのだ」というような読みが――と書いてしまうと、我ながら恥ずかしくなるほど陳腐でセコい結論になるのだが――出来ない。そこまで突っ込まれないからである。表層的に様々な要素は描かれるだけだ。
ネタを割るようなことを書くが、多重人格の発端は結局は親の虐待という原因があることが明らかになる。親から虐待を受けた人間が自己防衛の為に多重人格者として変貌/変化し、その恨み辛みを無垢そのもののティーンズにぶつけることになる、というものだ。この通りストーリーが展開したとしたらヒネりがないな……と思っていたら。いや、これ以上は書くのを控えようか。最後の最後で驚くようなどんでん返しが待っているので。
シャマラン。ストーリーテラーとしてはなかなかの才を備えた逸材である。それは『シックス・センス』が、誰でもすぐに分かるオチであるにも関わらず(つまり、それだけ使い古された王道のサプライズを焼き直したにも関わらず)面白くグイグイとこちらを引き込んで行くのを考えれば分かることだ。この映画のオチはしかしそんなに甘くない。ディープなシャマランのファンにとってもこのオチは試練だろう。
個人的にひと口で分かりやすく言えば、結局シャマランは自分の語り口/作風に淫してしまったかな、と思う。つまり、可もなく不可もなくという出来なのだ。次第点には達しているが……なかなか複雑な感慨を感じさせる作品だ。
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