ホラーリレー小説 5話

カール

第5話

俺はここ最近、まともに眠れていない。

いや眠れていないでは語弊があるか。

不眠症というわけじゃないのだから…


いつからだっただろうか。

を見るようになったのは



ああ……………

今日も夜が来る。

眠りたくない

慣れないブラックコーヒーを飲み、

エナジードリンクまで飲んだ。

それでも瞼がどうしても鉛の様に重い。

俺の意思とは関係なく夢へと誘われる…





気がついたら墓の前に俺は立っている。

あれだけ汗だくになっている昼に比べ

今は不思議と暑さを感じない。

当たり前か。


これは『夢』なのだから…


いつもここからスタートする。

墓の前だ。

この墓石に書かれている鵺野という

名前には心当たりはない。


でもやる事は同じだ。

きっともうすぐ出てくる…




「フフフフ、お兄ちゃん、

 ―――――捕まえて…」


目の前に現れた少女

黒く長い髪を靡かせ笑っている。


「ルールは鬼ごっこと同じよ。

 お兄ちゃんが私をタッチ出来れば

 そっちの勝ち。

 そして―――――――

 


一見聞くと鬼ごっことして成立していない。

本当に気を付けなければならないのはここからだ。



「フフフ―――――

 お兄ちゃんが勝てば解放されるよ。

 でも私が先にお兄ちゃんの身体をタッチしたら

 !」



身体を頂戴ってなんだ……?

いやそれよりも

どういう意味だ?

普通の鬼ごっこであればタッチする側が鬼なのだ。

なのにこの少女の話しでは

お互いがタッチをするという――


だから最初はお互いが鬼であり

どちらかが先にタッチをするという

変則的な鬼ごっこなのだと思った。

それであれば、手足の長い俺が断然に有利だ。

でも違った。


「じゃあ、よーいスタート!!」


そう宣言し少女は走って俺から

逃げたのか?やっぱり普通の鬼ごっこ?

そう思い混乱したのは苦い思い出だ。

そのせいで危うく最初の鬼ごっこで

負けそうになったのだ。


そう、少女が走って向かった方向は、

この墓場の先、つまりは

東の杜霊園の出口。


東の杜霊園の近くに俺が通っている大学がある。

そしてその近くに

決して多くはないヒントの中で

気づいたあの時の俺を褒めてやりたい



そう―――――



あの少女がタッチするは俺であって俺ではない。

正確に言えば、


つまり二人とも鬼というのは間違いではない。

俺は鬼を捕まえる鬼であり、

少女は寝ている俺を捕まえる鬼なのだ。


そこからは全力で走った。

普段通っているからこそ知っている

裏道や近道など巧みに使い、

離された距離を詰め少女を捕まえた。


「捕まっちゃった!

 でもダメだよ。

 !」


そうして朝を迎え目が覚める。

そんな日をずっと繰り返している。


そしてやっかいな事に走って逃げる少女は

どんどん足が速くなってきている。

俺が使う近道や裏道などをいつの間に

使う様になっており、段々と追いつくのが

きつくなってきた。


なんで俺が勝ったのにこの夢は終わらないんだ!

ちゃんとあの子をタッチで捕まえているのに

毎夜この夢を見る。


肉体的な疲れはないが、

精神的に参ってきた。





「友樹が早いなんて珍しいな」

夢のせいか早朝に目が覚める。

だが、間違っても二度寝なんて出来ない。


「ああ、最近変な夢を見るようになってさ

 聞いてくれよ……」

明に話そうと思ったが、スルーされた。


なあ、最近俺の扱いが酷くないか?友よ…


この間の、肝試しで扉を閉めて驚かした事を

まだ根に持っているのだろうか。




「友樹、あんた大丈夫?」

家に帰り、一緒に住んでいる姉からの第一声だ。

ここ最近ずっと留守にしていたから1週間ぶりだろうか。


「なんだよ、姉ちゃん、藪から棒に」

姉ちゃんは大学院に通っており研究生をしている。

古典学や考古学など色々なものに手を出しており、

オカルト関係にも明るいみたいだ。


大学のあの黒い着流しの先輩と同じサークルに居たらしい

それだけで凄いと思った。


「あんた、憑かれてるね。

 しかも結構入り込まれてるみたいだけど」

「え?分かるの?」

「気配が違うからね、でも私じゃ払えないわ。

 そうね、あいつに相談しなさい」


気配って………何者だよ――――


ってかあいつってもしかして

あの先輩の事か?


「でも、俺話したことないんだけど」

「もうメールしたわ、明日会いに行きなさい」

「はやっ!でもありがとう、ホント助かるよ」

もう時間も遅いから明日になるだろう。

今日は変なテンションだったせいか、

白いシャツを着た変な幽霊も見たんだよな。

あれもやばそうだし

ついでにそれも聞いてみるか。


「姉ちゃん、そういえば先輩なんて名前なの?」

「あれ知らないの?」


有名な先輩であるが名前は知らない。

「あいつの名前は神乃木多智かみのぎたいちよ」

「神乃木先輩ね、了解」

「あいつは大体、図書館で寝てるから行けば分かるわ」

 

今日はいつもより疲れているせいかちゃんと

あの子を捕まえられるか不安だ。

そう思いながらムダと分かりつつ

エナジードリンクを飲む事にした。






(昨日はやばかったな)

セミの声が大合唱をしているなか、

俺は学校に登校している。

昨日は俺のアパートの近くまで接近された。

徐々にだが、近づいてきている。


そのせいだろうか。

最近意識が飛ぶような事が増えてきている。

最初は精神的な疲れだと思っていたが、

昨日の姉ちゃんの言葉を思い出し、身震いをする。


「ったく、この暑い中震えてどうするよ…

 先輩に何かいい話が聞けるといいけど」



有り難い事に、姉ちゃんが連絡をして朝会える事になった。

なんとか今日中に終わるといいのだが……



この学校の図書館は大きい。

なんせ建物丸々図書館にしている変わった学校なのだ。

最近ではテレビドラマでも使われていたはずだ。


その一番奥。

まるで迷路の壁のように並んだ本棚に囲まれて

その先輩は座って待っていた。



「面白ね」

黒い着流しに下駄そこまで夏を和服で

満喫しているように見えるが、

胸元に見えるシルバーのネックレス、右手には指輪、

すごいチャラそうな雰囲気だ。

そしてこの第一声である。


「友樹って言います、初めましてです。

 えーっと姉ちゃんからどこまで聞いてるんですか?」

「愚弟が憑かれたから何とかしなさいと言われたよ。

 いやはや、私はそんなに暇に見えるのかな?

 まあ事実暇だから何も言えないのだがね。

 いや、私もしっかりと授業は受けているよ。

 こう見えても成績は良い方なんだ。以外かな?」


本当に変な人だ。


「俺ってやっぱり幽霊に取りつかれているんでしょうか?」

「良い質問だね、憑かれているかどうかだね

 確かに貴君は知りたいだろう。

 結論から言えば憑かれている。

 それも中々面白い事例のようだ。

 なんというのかな、そうだ。

 身体を乗っ取られかけているという表現が適切かな。

 本当に面白いね。

 詳細を教えて貰っても良いかな?」


俺はここ最近起きている事を先輩に

可能な限り詳細を話した。


「ふーん、きっかけはなんだい?

 あるだろう、その夢を見る切っ掛けさ」


切っ掛け…か。


ずっと考えていた。

何が原因だったんだろうかと。


この夢も俺は最初変わった夢

程度にしか考えていなかった。

でもその翌日もその翌日も

ずっと続いているのだ。

 

さすがに何かに憑かれているというのは

自分でも分かる。

でも――――――――



「分かりません……

 俺オカルトとか好きで、

 ほとんど毎日バカな事やってて

 友達にも迷惑かけちゃってるから…

 正直どれが原因なのかさっぱりで…」


夏だから浮かれていたのだろう。

少し怪しい噂を聞いたら

俺は試さずには言われなかった。

いつも最後は笑って許してくれる明を巻き込んで

バカ騒ぎをしていた。

でも今回のは少しヤバい気がする。

唯一幸いなのは明じゃなくて俺に憑いてくれた事だ。



「なるほどね、中々ワンパクみたいだ。

 でもそこまで考える必要はないさ。

 だって夢はあの東の杜霊園から出発されるのだろう。

 であれば、原因もそこだ。

 さあ、貴君はあの場所で何かをやってしまったんじゃないかな?」


東の杜霊園でやった事…か。

明と肝試しにいった。

最後は使われていない倉庫に明を閉じ込めて

久々にキレられたっけ。

ああ、そうだ。

明を倉庫から出した時に言ってたな

「もう絶対お前とは遊ばないからな!」


たしかに悪ふざけが過ぎた。

俺は明が出口に向かっていくのを追いかけてた。

「悪かったって!!、また遊ぼうぜ!」

「絶対もう嫌だ!」

「ほんとゴメンって!そんなに怒るなよ」

「そんなに遊びたいなら一人で遊んでろ!

 ここなら幽霊とかも遊んでくれるかも知れないぞ」

「ハハハ、それもいいかもな!

 鬼ごっこでもしてみるか。

 ってかそろそろ機嫌直せって。

 飯奢るからさ」

「当たり前だ!高いやつ頼むからな!!」



「それだね」

俺が明とやっていた肝試しの話をしている所で

先輩は俺を指さした。


「もしかして幽霊と鬼ごっこって言ったから?」

「それもあるしそれだけでもない。

 言霊ってのいうのは本当にあるんだよ。

 昔話をしようか。

 昔小学生の男の子がいた。

 いつも通る通学路から違う場所を歩き、

 まるで探検のような気持ちで帰路についていた。

 そこで少年は見つけたのさ。

 枯葉まみれで汚れているお地蔵さんを…ね。

 その少年はどうしたと思う?」


「……掃除した?」

「惜しいね、持ち帰ろうとしたのさ。

 『こんな、誰もいない場所にいるなら、

 僕の家に来ないか』って話しかけてね。

 だけどその少年の力では地蔵を持ち上げる事は出来なかった。

 だから、簡単に掃除だけしてその場は帰ったのさ。

 なんで持ち帰ろうと思ったかって?

 単純だよ、寂しい思いをしていると思ったのさ。

 だから家に持ち帰れば寂しくないと思ったんだね。

 子供の浅はかな考えだ。

 でもね、帰ってから違和感に気づいた。

 体が重い。

 体調は悪くなかった。

 風邪というわけではない。

 なのに身体だけが異常に重い。

 気づいたね。

 その地蔵が憑いてきたのさ。

 その少年におぶさるように。

 さびしい思いをしていたんだろう。

 少年の気持ちがうれしかったんだろう。

 だから着いていくことにした。

 付喪神というわけではないが、

 物には魂が宿る。

 それも人の思いが、願いが集まりやすい、

 例えば地蔵やなんかにもね」



―――――――墓石


「俺が墓場で遊びたいって言ったから……?」

「切っ掛けはそうだろう。

 さあ、原因は見えてきたね。

 だからここからどうすれば良いのかという事だ。

 話を聞いた印象を話そう。

 貴君は一つ勘違いをしているのではないだろうか」

「勘違い…ですか?」

「そう勘違いだ。

 その幽霊の少女はこう言ったんだよね。

 『ちゃんと私を捕まえて』っとね。

 つまり君が捕まえるべきはその少女じゃない。

 


それってつまり

あの墓の中から女の子の墓を見つけるって事か?

そんなの無理だ

あの霊園にいったいどれだけの墓石があると

思ってるんだ


「そんなの無理ですよ!名前も分からない

 女の子の墓石を見つけるなんて!!」

「普通では無理だろう。

 だから普通じゃない方法で探るしかないね。

 個人的にはその鵺野という墓石も気になるんだが、

 今はなんとも言えないね。

 さて、見つける方法だ。

 同じ事をすればよい。

 君とその少女にはラインが繋がっている。

 降霊術をやれば間違いなくその少女が下りてくる。

 でも気を付けなければならない事がある。

 それは彼女に君の存在を気づかせない事だ」

「気づかせない?」


どういう意味だろうか。

「降霊術というのは基本、プロがやらなければ

 特定の霊を呼ぶという事は出来ない。

 でも今の君がやれば、間違いなく

 彼女が下りてくる。

 でもその彼女が君の存在に気づいたら、

 その霊が何をしでかすか、

 分からないからね」


「ど、どうすれば良いんですか!?」


動揺する俺に対して先輩は指に付けていた指輪を投げて寄越した。

「それを身に着けておきなさい、霊から君の姿が見え難くなる。

 いいかい。人間霊でもね、人の顔までは分からないものだ。

 幽霊の顔なんて分からない人がいるだろう。

 ほら、心霊写真とかでボケているってやつだ。

 それと同じでね、霊からも人間の顔は良く見えないのさ。

 でも君とその少女の霊は繋がりが出来ている。

 恐らく顔を見ればわかってしまうだろう。

 でもその指輪をすれば少なくとも顔は見えなくなるはずだ。

 そうすればその少女からは貴君と認識できなくなる」



そんなすごい指輪なのか

「じ、じゃあこれを付ければ夢も見ないですよね!!」

俺ははやる気持ちを抑え質問をした。


「そうだね、一時的には防げるだろう。

 だが、長くは持たない。

 それと降霊術の場所は貴君の部屋で行う事だ」

 

俺の部屋?

それってやばくないか


「大丈夫なんでしょうか…?」

「場所は問題じゃない。

 問題は君がいる場所なのさ。

 恐らくだが、君が寝泊まりする場所を変えれば、

 少女のゴールも変わるんじゃないかな。

 だから一番大切にしなければならない事は

 君がいると知られることだ。

 オカルト好きの友人がいるだろう。

 彼と行うのがベストだね。

 話を聞く限り君は色々オカルトな事に

 積極的に関わろうとしているようだから、

 君が降霊術をやろうといっても

 その友人も不思議には思わないだろう。

 聞く限りその少女も好奇心旺盛のようだからね

 呼び出されればきっと怖がらせようとするだろう。

 だから君はそのお友達と東の杜霊園に逃げなさい」


降霊術か。

たしか姉ちゃんがその辺りは詳しかったはずだ。

帰ったら聞いてみよう。


「でも、なんで東の杜霊園に逃げるんですか?」

「簡単な事だよ、その少女を外で呼び出し、

 東の杜霊園にまで誘導する。

 そこで貴君達は私の張った結界の中に逃げるんだ。

 私も当日は霊園にいるようにする。

 貴君達が結界に入れば少女は君達を見失う。

 しつこい悪霊や妖怪であれば諦めずにしつこく

 探し回るだろうが、

 件の少女にその心配はないだろう。

 きっと飽きて元の居場所に戻る。

 それを私が尾行しよう。

 それで彼女の本当の居場所がわかる。

 後はわかるね?」


わからない。

どうしろと?


「いや、どうすれば良いのでしょうか」

「簡単だ、指輪を外して眠りなさい

 鬼ごっこを再開するんだ。

 そして君は本当の彼女を捕まえる。

 それで開放されるだろう」


なるほど……

でもそれで本当に終わるのだろうか。


「終わるとも。

 彼女はたぶん遊びたいだけなんだ。

 君の身体を欲しているのも

 遊びたいからだろう。

 ただ、無邪気に、無垢に、

 気まぐれに…ね。

 でも、それでも終わらなければ

 また私の所へ来なさい。

 名前さえ分かれば縛る事も出来るからね」



決行は2日後とされた。

姉ちゃんに事情を説明し、

当日は家から離れてもらう事も約束できた。



ちなみに、今日遭遇した白シャツの幽霊について聞いたところ、

1年はその教室に近づかないことだねとだけアドバイスをもらった。

明にも教えてやろう。



指輪をもらってから夢は見なくなった。

でも意識が急になくなり気がついたら

時間が経過している事が増えてきている。

先輩がいうには半分ほど同化し始めているため、

油断していると持っていかれるかもしれないと笑われた。


いや、笑い事じゃないぜ……





そのせいか俺が意識を失っている間にまた

明を巻き込んで東の杜霊園に行っていたようだ。

全然覚えていないのだが、明から

髪の長い女が出たと聞いたため、

いよいよまずいと感じている。



決行の日。

この日まで色々とあった。

俺はあいまいにしか覚えていないが、

明を巻き込んでまた迷惑を掛けた。

連日の俺の様子がおかしいのは明も承知しているが、

渋々ながらも付き合ってくれた。

終わったら飯をおごると約束し、

明を家に上げて部屋に案内した。


「相変わらずの部屋だな」

明には何故かこのぬいぐるみ達の良さは分からないようだ。

残念でならない。




魔方陣を書き呪文を唱える。

書いた手が震えていた。

今日ミスったら俺はどうなるのだろう。

あの世に連れて行かれるのか…?

そういったネガティブな発想ばかり頭に浮かぶ





部屋の電気が落ち、ぬいぐるみが崩れてきた。

成功したのか?


俺は明に伝えた。

「いいから、ほら、顔まで隠す黒髪の乙女がいるよ。これは成功だ」


明はスマホに移ったそれを見て俺の手をつかんで逃げ出した。

ここまでは予定通りだ。


明が東の森霊園に逃げてくれるか不安はあったが、

事前にあそこの線香は霊に効くらしいなど

適当な事を言っていた甲斐があった。


明と俺は走って逃げている。

途中までやる気がないふりをしていたが、

さすがに霊園の前にきたら俺も必死で走った。


「すまん明!!、こっちだ!!」

さっきまで引っ張られてばかりだったが、

ここまでくれば大丈夫だ。

この先に行けば先輩が結界を張っているはず。


「おい、急にどうしたんだ!?友樹!!」


「あとで、話す!だから着いてきてくれ!」

俺は明の手を逆にひっぱるように霊園の奥に走った。

たしか先輩が結界を敷いてくれている場所は

すぐそこの水場だ。


着いた底には何もない。

いや、よく見れば何か石のようなものが均等に

設置されている。


先輩はどこにもいなかったが、

ここが結界なのだろう。



俺は明を連れてこの結界の中へ入った。



「ハァハァハァ…おい、どういうことが説明しろって!!」

「ハァハァ………、実はな―――――」



俺はここ数日の体験を話した。

最初明は信じてくれなかった。

でもさっきまですぐ後ろにいたはずの霊が

行き成り見えなくなった事などから、

多少は信じてくれたようだ。


「で、いつまでここにいるんだ?」

この水場についてから30分くらい経っている。


「終わったら先輩が着てくれるはずなんだが…

 ―――――あっ!!先輩!!」

「あれは、この間あった人?」


霊園の奥から着流しの先輩が現れた。

場所が場所のせいか妙に迫力があるように見える。

「やあ、二人とも。

 その様子だと貴君達の話し合いも終わっているかな?」

「それより先輩、あの霊は!?」

「ははは、落ち着きなさい。

 面白い事も分かってね。

 色々片付いたよ。

 まずは貴君についていた少女の霊だ。

 彼女の墓の場所は見つけた。

 この地図に書いてあるからしっかりと覚えなさい」


そうしって先輩からこの霊園の地図をもらった。

該当の場所と思われるところに赤○が書いてある。

「今日夢を見てそこに行き、墓に触りなさい。

 大丈夫、これですべて解決だ。

 ああ、貴君の心配ごとも分かるさ。

 でも大丈夫。

 物分りのよい霊だったからね。

 それと貴君達がこの間私に相談に来た

 講義室の霊についてだ。

 あれの正体も分かったよ。


え!?

俺と明があった白シャツの気味の悪い霊のことか?

「ああ、これで1年も待つ必要はない。

 貴君が以前もらしていた言葉にもヒントはあったのさ。

 ――そう、トラツグミの鳴き声だ。

 昔、トラツグミの声は鵺の声と同一視されていた。

 あの霊を縛るに十分なつながりとなるだろう。

 そしてこの墓にある鵺野という墓石。

 偶然にしては出来すぎだろう。

 彼の名前は鵺野という霊で間違いあるまい。

 これで無力化することが出来る。

 私はこの後そのままそっちへ向かうよ。

 安心したまえ。

 これで明日から貴君達は本来の学業に集中できるだろう」



そういいながら先輩は学校の方へ歩いて行った。




その後の話。

後日談のようなもの。



あの後、指輪をはずし夢を見た。

かなり緊張はしたが、あの少女の霊の様子がおかしかったのは

覚えている。

しっかりとこの子の墓の場所を覚えて、

始まりと同時に走って墓にタッチした。

「もう!!!お兄ちゃんの勝ちでいいよ!!

 あのお兄ちゃんにも約束されられちゃったからね。

 これで開放してあげる」


「週に一回は墓参りにくるから、許してくれよ」

「ん―――お菓子持ってきてよね!」


先輩からあの少女は本当に寂しかっただけと聞いた。

定期的に墓参りに行ってなんとか成仏してくれればよいのだが。



「おい、友樹!飯に行こうぜ」

「明、牛丼とか食べないな」

「何行ってんだ、ハンバーグ食べに行くぞ!」

「そろそろ許してくれ……」


おれは一ヶ月間飯を奢る事で許してもらった。

勢いで約束してしまったが、さすがに一週間とかにすればよかったと

後悔している。


ああそうだ。


「なあ、明」

「なんだよ?」

「実は面白いうわさを聞いてさ!

 隣の駅にあるつぶれたゲーセンなんだけどさ

 奥から2番目の格ゲーで遊んでいると

 誰もいないのに乱入者が出てくるって

 うわさがあるんだ!!!

 今度行こうぜ!!」


「お前はいい加減にしろ!!!!!」




そうして俺と明の学生生活はまだ続いていくだろう。

あんな怖い思いをして、

親友の明に迷惑を掛けてしまったが、

まだまだ、オカルトへの興味が消えないようだ。

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ホラーリレー小説 5話 カール @calcal17

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