第四章 夏の純愛物語

これから大切な打ち合わせがあります

剣道のインターハイ観戦から2日が経ち、俺は普段のようにバイト三昧の夏休みライフを送っていた。

乃希亜も夏休みの補修に声優の仕事があるようでなかなか直接会えない状況だ。

現にインターハイ後、ここに戻った時は、なぜか避けてるように直接会ってくれなくてメールやLINEしかやりとりをしてないのだ。

だが、それも昨日までの話。今日は後のビッグイベントの為の打ち合わせの為に乃希亜と会うのだ。

その内容と言うのは恥ずかしい話、俺と乃希亜は今月の20日つまり一週間後に二人っきりで二泊三日の旅行に行くのだ。





しかもその場所と言うのは、『ゆらり、温泉桃源郷』というエロゲの聖地に向かうのだ。

このゲームは、田舎を舞台とした王道ラブコメで、あらすじは親の再婚で、主人公が温泉で有名な田舎町に引っ越しすることになったのだが、そこは新しい母さんが経営する旅館のようで、しかもその母さんには2人の連れ子がいて、たった一日で妹と姉ができるようになり、それから旅館で働きながら学園生活を送り、舞台である田舎町の伝承に触れるというSF王道ラブコメだ。

ヒロインは、あざとい巨乳義姉にツンデレ貧乳妹、ヤンデレ後輩、知的な眼鏡先輩、謎の幼女の桃果の五人だ。

ちなみに俺は最後の謎の幼女の銀髪ヒロインの桃華派だ。ロリコンではないがその子が、義妹より妹してるからとてもキュンと来るのだ。

とにかくこのエロゲは18禁ながらもアニメ化もしており、その影響化元ネタとされる温泉街が町おこしの為に異様にプッシュされてるようだ。

その証拠か、アニメ化して以降数多のエロゲファンから聖地巡礼され、今回の招待券も夏休み前に応募し、倍率が低い中、幸運なことになんとか取れることに成功したのだ。

その時の乃希亜の様子はほんの一瞬だけどとても喜んでいたな。けど直後に照れ隠しとして追い回されたけどな。





「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・・いけね。怒ってるかな?」

つい先ほどまで残業込みのバイトを終え自前の自転車で商品が入ったコンビニ袋夜道を駆ける。

本来ならばバイトの残業は控えるのが、旅行代をもっと稼ぎたいから率先してやってしまうのだ。

予定より少し遅刻して絶対乃希亜に怒られるがそこは大丈夫。

同じシフトの那智田が今日はお疲れと言いながら近くのコンビニでコーヒーゼリーを奢ってくれたのだ。

乃希亜が旅行行くことをざーさん達に喋ったからか、那智田的によると『俺を他の人達に盗られないようにしっかり九頭竜さんの事を見て!!!』と言いながらコーヒーゼリーを差し出したんだ。

全く何馬鹿な事言ってんだ。

俺は乃希亜一筋の純愛厨だぞ。言い方的に俺をどこかのハーレム主人公ばりにモテてると勘違いしてるだろう。

まぁ最近トラブルの連続で妙にいろんな女性と絡むがそこに好意なんてない。

ただ警察官の親父の血を引いてるせいか放っておけないだけなのだ。



奢ってくれたゼリーのうま味がこの蒸し暑さで落ちないように全速力で夜道を駆け数十分で乃希亜の家に着いた・・・・・・がなぜか俺が来るのが分かってるのに玄関前は真っ暗だ。




「あれ!!!おっかしいなーーーーーさっき連絡入れたのに」

スマホで時間を見ると10時30分くらいだ。もしかしたら補修と仕事が重ねてつい眠ったのか?心配になりながらインターホンを押すと扉が開いた。




「遅ぇよ。サッサと上がれよ」

「お・・・・おぅ」

開幕案の定不機嫌な乃希亜がジャージ姿で登場しすぐに中に入った。

無理もないか・・・・最後に見たのは約一週間前かな?

お互いが夏休み最中なのに忙しくて会えないのはそりゃイライラが募るが、甘いものを用意したら喜ぶだろ。

案の定コーヒーゼリーを見せると機嫌の悪さが若干消えていった。

そしてそれを食しながら打ち合わせをした。






「・・・・・・・・一応一日目の予定は夕方まで旅館近くの海で泳いだ後戻るってことでいいんだよな?他に行きたい場所があるなら・・・・海は二日目にするか?」

「・・・・・・・」

「乃希亜どうしたんだ・さっきからコンビニ袋の事を見て・・・・まだ欲しかったのか?」

「ちげぇよ。ただ・・・お前が一人でコーヒーゼリー買って来たのかと違和感覚えてな・・・・どうせ那智田あたりのやつと一緒に買いにいたんだよ」

「は?何言ってんだ。お前?それくらい自分で買えるだろ」

「おい、目が泳いでるぞ」

「マジ?」

「嘘に決まってんだろ。お前分かりやすいんだよ」

まんまと乃希亜のハッタリに騙された。

そのふがいない顔にため息を放っていた。




「すまん・・・・・別に嘘をついてるわけじゃないんだ。那智田とはバイトの帰り際に一緒になってコンビニに向かっただけだ。それ以上の事はしてない」

「それ以上の事ってなんだよ。こういうやつがムッツリなんだよな」

「ムッツリ?」

「冗談だよ。お前が浮気する・・・・・・タマじゃねぇのは分かってるよ」

一瞬、言葉につまりがあって違和感を感じたが、気にせず打ち合わせを続けた。




そしてその一時間後に人段落を入れる。

なんとか一連のスケジュールは組むことができた。まぁ旅行まで一週間でその間天気が崩れる可能性があるのであくまで仮だが、これで充実した旅行ができるはずだ。

今日はここでお開きにしようと立ち上がった途端、突然乃希亜に袖をつままれた。




「なぁ、今日は泊って行かねぇのかよ」

「え・・・・・・・でも姉ちゃんには晩飯作ってもらってるから」

「ちっ空気が読めねぇシスコンだな。こういう状況普通家族より恋人が優先だろうが・・・」ふにっ

口を走らせながら突然俺の顔に自身の胸を押し付けようとする。

相も変わらず大きな胸が俺を脱力させる。

乃希亜の言う通りこの家は基本乃希亜の一人暮らしなので、この二人きりの空間に邪魔をするものなんていない。

何度も感じる胸の心地よさのせいで俺の中にある男性本能が無意識に乃希亜を押し倒してしまった。

お互い鼻がつきそうなくらいの至近距離、恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。




「たくっ、この猿め。オレで欲情しやがって・・・」

「それを言うなら誘惑したこっちが悪いだろ」

「紳士ぶんなよ。そういやオレら恋人同士なのに一度も・・・・・・・・シタことねぇな・・・」

言われてみれば一度も、エロゲで必ずあるHなプロレスはしたことないな。

経験豊富なだけで実技試験が皆無なのはエロゲーマでは結構いそうだが、俺はとうとう一歩先の大人の階段を歩むのか。

そう思ってる間乃希亜はズボン越しだが自身の股を触れ、画面越しで何度も聞いたエッチな声を漏らしていく。




「んあ・・・・・・ぁぁこっちは準備万端だぜ。お互い初めてだからそのままでもいいぜ」

「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・本当にいいのか?」

その問いに無言に縦を振っていた。それと同時に乃希亜は自身の服をゆっくりだが脱ごうとする。

無論俺はD〇なのでそれを直視できずに目を閉じたままだ。

目を閉じても分かる。先ほど風呂に入ったかのようなシャンプーの香りに奇麗な金髪の匂い・・・・それが余計に精力を増幅させようとする。

お互いまるで心臓がはちきれそうに呼吸が荒い。

もう我慢できん。俺も服を脱ぐぞ・・・




ピロロロロロ

「んだよ!!!このタイミングで・・・・・」

突然携帯電話が鳴り乃希亜は文句をいいつつ跳ねるかのように飛び出し恥ずかしそうに服を着なおしている。

どうやら電話の主は俺のようだ。

なんでいつもいいタイミングで電話が来るんだよ。

苛立ちを抑えながら電話を取る。




「もしもし!!!」

「やぁ都君久しぶりだね」

「アウラさん?どうしたんですか?」

電話の主は意外にも姉ちゃんの友人のアウラさんだった。あれ?そうだとしても連絡先なんて教えてないんだけどな。






「すまないね。美国から連絡先を教えてもらったんだよ。それよりも今は暇かい?」

「ええまぁ、」

チラッと乃希亞の方を見る。なんか嫌な予感がするんだけど。




「これから、知り合いの廃墟マニアのYouTuberと一緒にいわくつきの廃校に足を踏み入れるけど、その撮影を手伝ってくれないかい?」

「え?今からですか?」

「すまないね。今回の廃校はけっこうやばいとこらしく。動画撮影の途端に逃げ出した人がいるんだ。だからその手伝いを来てくれたら頼もしいんだけど。なぜなら君はこの前の廃病院では結構男らしいところ見せてくれたからね。報酬は知り合いに頼んで多く貰うようにするからいいかな?なぁに、撮影後に信用ある神社の人にお祓い頼めばなんとかなるさ」

いやいやいや、なんとかなるってそんなアバウトな。それにこの前の廃病院にしろ男らしいことどころか黒歴史を見せたのに、撮影?なんで痴態をネットで公開されなきゃいけないんだよ。

そりゃ報酬次第では行くけど、やばいとこだろ?





「ミヤ、困ってるそうなら行けよ」

「乃希亞いいのか?」

「んだよ。旅行の為に稼ぐことなんだから文句は言えねぇよ。その分儲けた分旅行で充分楽しめばいいじゃねぇか?続きは旅行の時にとっておくよ」

怒るどころかむしろ優しい口調で着替えながら声をかける。

本当に乃希亞には頭が上がらないぞ。

今の話電話越しのアウラさんに筒抜けらしくさらに困ったような感じをしていた。



「なに、今の都君の彼女さん?だったら無理しなくても・・・」

「いえ、大丈夫です。その分多く貰いますよ。祟られたらかないませんし」

「分かった。場所は後でメールに送っていくよ」

電話を切り、俺はすぐさまに、旅行用のパンフレットを片付けて、乃希亞の頭を刺さった後すぐに部屋を出た。




「マジで感謝するわ。またな」

「おう、頑張ってこい!!!」

後ろからの愛しの彼女の声援をバネにしさらに勇気が湧く。怨霊でもなんでも来い!!!今の俺は負ける気がしねぇ!!!!















「・・・・・ムカつく」





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