第40話 Answer「第1話 衝撃」
【某日・とあるアパートの一室にて】
誰か嘘だと言ってくれ。
僕は貴女に会いたかっただけなのに。少しでいい、その目を見つめて、声を聞けたら。それだけで良かったのに。
どうして僕の体は半透明になっているんだ?
なにやら浮いているし、体の感覚もない。これは俗に言う“幽霊”とやらなのだろうか。
しかもここはどこだ? 見覚えがない。見知らぬ部屋だ。
少し前の事が思い出せない。どうして僕はここにいるんだろう。
僕はずっと「あの人」を追いかけていたはずだ。誰にも必要とされず、疎まれてきた僕を救ってくれた愛しい人。自分よりはるかに小さな子どもに蔑まれても何もできなかった僕を救って、笑顔までくれた人。
しばらく同じ店で同じ時間帯にアルコールを買っていた「あの人」が次第に姿を見せなくなり、ついには見なくなってしまった。
一体どうしたんだろう? 気がつけば僕は「あの人」を追いかけるようになった。
そしてしばらく遠くから見ていて気がついたことがある。「あの人」はもしかしたら僕と同じなんじゃないだろうか。
あまり世間に馴染めず、友達も少なく毎日が会社と実家の往復の繰り返し。
あんなに素晴らしい人なのにこの世は理不尽だ。「あの人」の優しさを理解しないなんておかしい。僕だけがそれを知っているのだろうか?
僕がもし話しかけたら驚くだろうか? それとも友達になってくれるだろうか。
そうと決まれば行動は早かった。「あの人」のため、そう思えば服屋だって美容室だって勇気を出して行けた。嘘みたいだった。
僕はあまりファッションに詳しくないのでとりあえず流行の無難なものにしておいた。
店員も美容師も始めはひきつった笑顔で嫌々対応していたけれど、最後にはにこやかに送り出してくれたな。あの差は一体なんだったんだろう。今でも分からない。
何はともあれこれで準備はできた。さあ、「あの人」に会いに行こう。そう思った矢先だ。
ここはどこだ? 僕は死んでしまったのか?
死ぬならせめて「あの人」と少しでいいから話がしたかった。あわよくば仲良くなりたかった。それなら悔いはなかったのに。
でも幽霊なら何をしても許されるのかもしれない。もう世間の目を気にしなくてもいい。
なら「あの人」のそばにずっといたい。探し出して、「あの人」に憑いていたい。
どうせ「あの人」に見えていないのは生前も一緒だ。むしろ今の方がやりたい放題できていいかもしれない。
そうと決まれば俄然やる気が出てきた。「あの人」はどこだ! 絶対に探し出す!
「ひっ」
ん? 後ろで何か声が聞こえたような気がする。
なんだろうと振り返ったのと、そこにいた人間が倒れ込んだのはほぼ同時だった。
その一瞬、目があった。
僕が夢にまで見た愛しい愛しい「あの人」の、のどから手が出るほど欲しがったその視線が僕を貫いて。そして床に倒れこんだのだった。
――……ああ、神さま。これは試練かご褒美か。
嬉しいことに変わりはないので、とりあえずお礼は言っておきます。
そして僕は狂喜を抑え込んで、一歩、また一歩と「あの人」に近づくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます