辛い登校

(戸山君に悪い事しちゃったな……)

 走ったことで乱れた呼吸を整えつつ、頭の中では反省会。戸山君にも強引な面はあったけれど、急に逃げ出した口実にはできないからな。

 そんなこんなで、もう校門が見えてきた。

「おはよ〜」

 の挨拶が飛び交う。

 しかしその輪の中に、私が加わる事は無い。

 皆が私を受け入れてくれるはずないし、そもそも私は勝手に皆を突き放しているのだから。

 靴を履き替えて教室に向かう。

 その間、誰とも会話はしていない。

 教師すら、私には挨拶をしてこない。

 だがそれは、私の望んだ事。

 人と関わりたくないばかりに、教師すらも拒絶した。

「だったら学校なんて来るな」と、何度言われたろう。「無視しないでよ」と、何度相手を傷つけただろう。

 それでも、私は毎日登校する。

 ──罪悪感が、無いわけではないのだけれど。

「ハァ、ハァ、ちょっと。木嶋さん、酷くない?」

(え……?)

 その声に振り向くと、息を荒げた戸山君が腰を押さえながら立っていた。

 急に声を掛けられて、先程まで澄ました顔で歩いていた私も驚きを隠せない。

「ごめん……なさ、い」

 私は俯いた。相変わらず、上手に話すことは出来ない。

(『酷い』……?)

 それは私が常に、その他の人間に対して思っていた事だ。

 私も、酷いの?

 そんな……そんな!

 ……ポタッ。

 ゆっくりと床に垂れ落ちたのは、戸山君の汗では無かった。

 ──私の涙だ。

「え……? ご、ごめん。そんなに反省してるなら、もういいんだ。気にしないで」

 泣かせてしまったという心の痛みからか、戸山君は焦り出すけれど。


 この涙は、君への謝罪の涙じゃないよ。


 ──私も結局他の人間と変わらなかったのを思い知った、悲しみの涙。

(じゃあ何のためにこんな生活をしてるんだろう、私)

 ぼんやりとそんな事を考え、涙を流したまま席につき、何事も無かったかのように読書を始めた。

 そんな私の迷いのない行動に驚いたのか、心配したのか。

 戸山君はじっと私を見つめる。

 しかし彼はすぐに別の生徒に話し掛けられたため、私から視線を外さざるを得なくなった。

(結局、よく分からない関係のままだな、私達)

 本を読みながらも、そんな思いが、頭をよぎった。

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