第20話 炎の花弁は竜の生み出す嵐のごとく

「ぅ、わっ…すげぇ…!」


 優星の素直な感想だった。摩訶不思議な力で異空間に飛んできたことを、しみじみと感じ取っていた。そして沙月たちの方へ振り向くと、さらに驚いた。


「え…? 皆さん、服が…」

「あ、ふふっ、そうよね。驚いちゃうわよね」


 優星の反応に、愛美が苦笑する。それもそのはず。今、優星の目の前には、先ほどまで制服を着ていた生徒会メンバーではなく、色とりどりの衣装に身を包んでいるうえに、髪や瞳の色まで変化している面々だった。異空間にやってきただけでなく、早着替えというにも異常な変化に、しばらくきょとんとしている優星だった。それを弁明するために、李土が前に出る。彼は、先ほどまでは優等生らしく黒髪だったのだが、今では金茶の髪と瞳をしていた。


「これが、我々の元の天星界での姿なんだ。瞳も今は色が各々はっきりしているが、天星人は皆、霜星力を発動すると、銀灰色になる。そのことだけ、今伝えておこう」

「そう、なんですか…あれ?」


 李土からの説明を受けた後に、優星はあることに気付いた。服装から髪や瞳まで大きく変化しているメンバーの中で沙月だけ、さほど変化していないことに。彼女は服装は違えど、髪も瞳の色が転校してきた時と同じ、プラチナブロンドの髪に夜空色の瞳だった。そんな優星からの視線に気付いたのか、沙月は少し困ったように笑った。


「あぁ、少ないけど、沙月のようにあまり差が出ない者もいるんだ。そんな好奇の目で見ないでやってくれ」

「あ、はいっ…失礼しました…」

「よし、そしたら、それぞれの能力を見せていこうか。誰から行く?」


 李土が、メンバーを見渡す。それぞれ、いつでもどうぞ、と言わんばかりに構えようとしている。その中で、火弥が一歩歩み出た。


「あたしから行きます。後に残ると面倒くさそうなので」

「面倒くさいって…」


 ため息交じりに言いながら前へ進んでいく火弥。その際、歩きながら右手を右太腿に添えた。すると、右手を添えた箇所から光が発せられ、彼女の手にはいつの間にか扇子が収まっていた。よく見ると、彼女が手を添えた部分には、星形の痣のようなものが浮かび上がっている。

 そんな視線にも目もくれず、一定の距離を歩き立ち止まった火弥は、勢いよく右腕を真横に切るように伸ばし、扇子を開いた。そして静かに眼を閉じ、軽い瞑想状態に入った。じ…っと数秒の沈黙の後、目を開き一言呟く。


「──…"花炎カエン"」


 その言葉に応えるように、開かれた扇子がまるで炎のように朱く輝き始めた。輝く扇子をゆっくり前に構えると、火弥は叫んだ。


紅嵐竜舞コウランリュウブ!!」


 叫びながら振るった扇子から、暴れる竜のごとく、激しい炎の渦が何本も生み出された。赤々と一帯が染まる様に、優星は目を奪われた。一通り炎が燃え上がるのを見届けると、颯爽と踵を返す火弥。

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