僕と彼女のウォーゲーム

トウモロコシの粒

プロローグ 今日もいつも通りだった

 カタカタとキーボードの音が室内に響く。


 いくつものモニターを見ながら何か落としている所が無いかをチェックする。これはとても大切なことであり、万が一にもミスがあったら大変なことになる。


 なんせ納品は今日の15時。現在は朝10時とはいえ、これからテープに映像を落とすことを考えると、結構厳しい状況だ。


 尺は2時間、納品テープの他にも白完も必要であり、それを落とすとなると計4時間……ミスを直す時間はない。後ろから圧をかけてくるディレクターなどを完全に無視し、とにかく今できるベストを尽くすのだ。


 それから10分後、確認作業は終わりテープ落としを始めた。もちろんミスはない。ADさんは何日も帰っていないなか、最後の力を振り絞りテレビ局へと納品をしに行った。

 

 「綾辻、お疲れさん」


 「お疲れ様でした……辛かったぁ」


 仕事の最期を締めくくるのは泣き言。これは今まで何十時間もプレッシャーを掛けられていた反動であり、ガス抜きでもある。


 この業界は基本理不尽。何を言ってくるか分からないし、さらには抽象的なことで言ってくることが多い。いわゆる業界用語や編集ソフトで使うエフェクトを「ズバーンを使ってビッとくる」などで表現してくる。


 最初は訳が分からなかった。しかし理解するために先輩に聞いたり、自分で調べまくった。他にもおかしなことがある。今では良い思い出だが、ぼそぼそ話す監督に「もう一度お願いします」と聞き返したら急に怒り出すことがあった。


 正直に言うと少し頭のイカレている人が多い業界だ。


 それでも面白いもの、感動するものを作ろうとしている人たちの作品に携わり、より良い作品にすることが楽しいのだ。まぁ中にはこの作品は何を見せたいのか分からないと思うものもあるが。


 そんな業界に順応してきてもう三年。専門卒業後にすぐに入社したのでまだまだ社会人歴としてはこれからというところだ。


 「とりあえず寝てこい。それと明日明後日は休みだ」


 「了解です。もう無理。お先に寝ます」


 先輩からの気遣いを受け、そのまま仮眠室へと向かう。歩きながらでも眠りに落ちそうなのは久しぶりかもしれない。こんなの入社してすぐに入った案件以来だ。


 ガチガチに緊張して、あらゆるソフトのショートカットをど忘れして……懐かしいなぁ。


 そんなことを思い出している間に仮眠室のドアノブに手をかけた。そして扉を開けた瞬間、体がフワッとした。


 ああ、仕事をやり切って眠りに入る瞬間が……たまりません。






































 意識が戻っていくのが分かる。


 ああ、もう少し、あと3分……いや10分寝かしてと考えだす毎に意識が覚醒し始める。


 もう無理か、ならば起きるしかない。今日は休みで明日も休み。とりあえず借りたままの映画を観て、それから掃除して、久しぶりに麻婆豆腐でも作って食べよう。


 そうと決まればと目を開ける。さぁ、楽しい休日の始まり……だ?

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