第5話 遠い記憶の再会
フィーズが鞄の底から取り出したのは、丁寧に布で包まれた、チェーンの無いペンダントトップだった。不思議な七色の輝きを放つ石を、台座の金翼が包み込んでいるようなデザイン。光の当たり方によって輝きを変えるその石は、見る者を魅了した。
リディルはただ静かに、表情一つ変えずにその石を見つめた。しかしラテュルは、何かに気付いたのか、驚いたように目を見開いた。
「? ラテュル?」
「えっ…あぁ、何でもないわっ…それにしても、この石ひとつを狙って、フィーズさんは追われていたんですか?」
ラテュルは慌てた様子を見せたが、すぐに平然を装いフィーズに訊いた。それに対し、フィーズは神妙な面持ちで話し始めた。
「あぁ、なんでもこの石には"世界を揺るがす"程の力が宿っているみたいでね…」
「世界を揺るがす…!?」
「…何であなたがそんな大層な物を持ち歩いているのよ」
信じがたいフィーズの発言に、すかさずリディルが厳しい口調で質問する。ラテュルが彼に対しどう思っているのかはわからないが、リディルがフィーズの事をあまり快く思っていないことは明確だった。彼女が彼を完全に信じる事ができるのは、まだまだ先になりそうである。
フィーズは、リディルの態度に引くことなく、落ち着いて話した。
「信じてもらえないかもしれないけど、これは俺が子供の時に父から譲り受けた物なんだ。"お守りとして持っておけ"ってさ。それでこの歳になるまで大切に持ち歩いていたらこのザマだ。ほんと、何でこんな大層な物を俺に託したんだろうな…あの人は」
「譲り受けた…」
「…あ、そう…今のところはそれで信じてあげるわ。きっと他に理由があるんでしょうけど、こんな所じゃ迂闊に話せないものね」
「ま、まぁな…」
「そうね、もう辺りも暗いから、早く街へ行って、宿を取りましょう。それから今後の事を話し合いましょうよ。フィーズさんもご一緒にどうですか?」
「あぁ、ありがとう」
「…わかったわ」
ラテュルの提案に二人も賛成し、三人で次なる街・ミサ=ラミアへ向かった。しばらく歩いていると、仄かな街灯りが広がり、そのやわらかい光に安堵の息をつくフィーズ。
すると、街へ着くまでの間ずっと、何かが引っ掛かったような表情を浮かべていたラテュルは、先を進むリディルに聞かれないよう、フィーズに耳打ちをした。
「フィーズさん、宿で二人だけでお話ししたいのですが、いいですか?」
「え? い、いいけど…何かあった?」
「その…さっき見せてくださった石のことで…」
「!…わかった。リディルには言わずに、だな」
「はい、お願いします」
ラテュルは心配した表情で、前を歩く妹を見つめた。
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