第32話 お騒がせ放浪者

 ふと思い出したように、エレンはアールに尋ねる。


「アール、さっき『ガーデン総出で』って言ってたけど、これからみんな来るのよね…? アール一人で先に来ちゃったの?」

「…いや、俺だけじゃなくて…」


 アールは、ばつが悪そうに言葉を濁す。そして、部屋を見回し、ある一点──ベッドの下を見つめた。


「? どうかしたのか?」

「…いつまでそんなところに潜ってるんですか?」

「「「え?」」」


 視線の先に向かって突然声をかけるアール。エレン以外の三人はもちろん、何事かと視線を向ける。すると、声をかけられた相手がベッドの下から顔を出した。


「いやーさすがアールくん…声をかけてくれなかったら、あまりの空気の読めなさに出ていけなかったよ」

「「「うわあっ!!?」」」

「あ、キミーさん…とセーラ!?」

「キミーさん、すごいですね! さっきまでアールさんの後について行ってたはずなのに、いつの間にかこんなところに来てます! あ! お姉ちゃん無事!?」

「…あんたいつもどうやって(ガーデンに)帰ってきてるのかと思えば、自分でもわけわからなくなっていたのか…」


 毎度お約束のように、キミーが予想もつかないような所から、セーラを連れて出てきた。アールは頭を抱え、エレンは自分の妹が一緒にいることに驚いている。他の三人はというと、ベッドの下から這い出てきた人物を、目を丸くし言葉も失くして、ただ呆然と見ていた。床下から完全に抜け、キミーが立ち上がる。2m近い長身の彼は、アールたちを見下ろして言った。


「さて…そろそろ時間も無いよ、アールくん。できることなら、僕はこのままエレンちゃんを奪還して戻りたいところなんだけど…」

「いえ、エデンを潰します。今抑えておかないと、またエレンが狙われる」

「…言うと思ったよ…」

「とりあえずエレン、力は使えるか?」

「え? えぇ、使えると思うけど…あれ?」


 アールに指示された通りに魔法を使おうとするエレン。しかし、周囲に何の反応も無い。すると突然、マーベラが両手を合わせ謝罪した。


「…ごめん! アール!」

「マーベラ?」

「彼女…"あいつ"から魔法が使えなくなるよう、術かけられてるんだ…」

「なっ…!!」

「本当にごめん! 俺もヘラスも、せめてそれだけでも阻止しようとしたけど…あいつの方が上手だった…」

「いや、そこまで責めている訳じゃないんだ。 現にここで保護してくれていたのは本当に助かってる。ありがとうな」

「それに、エレンちゃんが魔法使えなくても、僕らが援護するしね」


 キミーの言葉に、エレンは俯く。


「私…」

「そんな気に病むな…必ず守るから」

「うん…ありがと…」


 アールの言葉にエレンは頬を染め、完全に二人の世界に入ってしまっていた。そんなエレンとアールのやり取りを横目に、マーベラとヘラスは何やらひそひそと話している。


「あれで付き合ってないとか…嘘だよな…?」

「いや、付き合ってない方がおかしいって! じゃなきゃあんなかっこいいセリフさらっと言えな…」

「…お前ら何話してるんだ?」

「「ひいっ!!」」

「お二人も懲りませんね…」


 思わず身を縮める二人に、エヴィも既に呆れている。その横で、セーラが嬉しそうに腕をパタパタと振っていた。

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