第17話 動く災厄
ガーデンからところ変わって…薄暗い部屋の奥に、一人の男が佇んでいた。部屋には、明かりの代わりなのか、いくつものオーブのような光がゆっくりとした動きで右往左往している。
所々には、部屋をまっすぐ進むことが出来ないほど、レースカーテンが天蓋のように無造作に吊り下がっている。
すると奥にいる男のもとへ、二人の人物がふらふらと歩み寄ってきた。フードを目深に被ったマントの二人。エレンとアールに奇襲をかけてきた者たちだった。
「…写し子はどうした?」
「それが…」
「すみません…っ」
「失敗か…まあいい。どちらにせよ、直に俺が迎えに行こうと思っていたからな」
「「えっ…」」
「何か不満か?」
「「いいえ!」」
「…お前たちには、再び魔珠の回収を請け負ってもらう…異論は無いよな? 今回の任務で失敗しているのだから」
「はい…"副司令官"の仰る通りです」
「ふん…"あの"アールの同級生というから使えるかと思えばこのザマだ。所詮お友達ごっこの延長線上ということか」
「…っ!」
「っ…そんなことありません。あいつとは、とっくに縁を切っていますから」
「それならいいが、な…もういい、出ていけ。さっさと仕事して来い」
「「…はい。失礼します」」
「あと、アイツをここへ呼べ」
「はい」
そう言って二人が部屋を出ていき、しばらくすると、少年が一人部屋へ入ってきた。薄暗い部屋でも際立つ明るい黄緑色の髪の少年。彼は、緊張した面持ちで男に訊いた。
「…どういったご用件でしょうか? 副司令官」
「エヴィ、先日お前に特別任務を与えていたが、もうその必要は無くなった」
「はい?」
「写し子の"妹"…あれを連れてくる必要は無くなった」
「どういうこと…ですか」
「直に写し子本人を連れてくる。そうすれば、嫌でも人材は集まる…お前は準備を手伝え。用件はそれだけだ」
「…はい…かしこまりました」
黄緑の髪を持つ少年──エヴィは、男に言われるがまま下された命を承諾し、部屋を後にした。彼の顔には、一抹の不安が過る。
エヴィも出ていくと、男は部屋のさらに奥へと姿を消した。進んだ先には、御簾のようにカーテンで覆われた小部屋が現れた。その前で立ち止まると、男はカーテンを開けずに、中にいる人物に話しかけた。
「もうすぐ…もうすぐだ。女神の写し子さえいれば、"あのお方"は復活できる…それまで少し休んでてよ…"姉さん"」
「………」
中にいる人物は何も喋らず、ただ黙っているだけだった。しかし、男の呼びかけに答えるかのように、部屋の中だというのに一瞬だけ風が吹き込んだ。
その風で浮いたカーテンの隙間から見えたのは、長く美しい黒髪だった…
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