恋とクッキー
黒宮涼
恋とクッキー
ずっと思い描いていたのは、大好きな先輩との甘い時間。
行きつけの
そうして二人で甘いスイーツを食べたりするの。
きっと夢のような時間が過ごせるわ。
だから今日こそ私、先輩に告白するの。
この先輩のために作ったクッキーを渡して。
勇気を出すのよ、私。
***
「ごめん。付き合っている人がいるんだ」
一世一代の告白に、先輩は申し訳なさそうにそう答えた。
正直な先輩。
私のこと、傷つけないように一生懸命に言葉を選んでくれた。
私は手作りクッキーを持ったまま、その場に立ち尽くしていた。
先輩はとっくに去っていったのに、私は動けない。
不意に、人の気配がして思わず振り向いた。
もしかしてこの私のまぬけな姿が、誰かに見られた?
「なーんか、いい匂いがすると思ったら、いいもの発見」
「な、なに?」
「それ、君が作ったの」
男の子だった。おそらく同じ学年だろう。制服についた名札に入った線が私と同じ色だったから。
「それって、クッキーのこと?」
少年の視線は私の手元に注がれていた。
「そう。やっぱクッキーか。そうじゃないかと思った。それ、食べないなら俺にちょーだい」
「は? こ、これはあげられないわよ」
私はあわててクッキーを後ろ手に隠す。
「何で」
「何でって。これは先輩にあげるもので……」
そこまで言って私は気づいた。
これはもう必要のないものだ。先輩にプレゼントするはずだったもの。
ふられた今は、行き場のないクッキー。
目の前で首をかしげている少年。
「あ、わかった。それ、さっきの先輩にあげるやつだったんだ。でもふられたから受け取ってもらえなかったのかー。かわいそうに」
やはり見られていたらしい。私の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「な、な、な。なんなのよ。そーですよ。私はかわいそうな奴ですよ。だからもうこんなものいらないんですよ」
私は恥ずかしくて、やけになってクッキーを放り投げようとした。
その時だった。
腕を掴まれた。
「おっと。もったいないことするなって」
指から体温が伝わってくる。
握られた腕があつい。
「いらないならそのクッキー。俺がもらう」
その瞬間。私の心ごとクッキーを持っていかれたような気がした。
恋とクッキー 黒宮涼 @kr_andante
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