相対―I
三十分後、約束の時間きっかりに私達は明石海峡大橋の入り口に立っていた。かつてここはちょっとしたランドマークとなっていた。ぐるりと迂回する経路の途中、サービスエリアのような形で道が分かれ、そこには飲食店と巨大な観覧車があった。
人間はどこにでもそれを作りたがる。百貨店の屋上にも、電波塔にも、屋内にすら観覧車を作り上げてきた。元気の有り余る子供たちを数分間確実にそこへ止められる、という点ではあらゆる遊具の中でも優れているが、やはり彼らは空への憧れが未だ強く残っていたのかもしれない。
そんな観覧車も、一度は首が折れ地面に横たわってしまった、とデルタが教えてくれた。だが誰かが治したのだろう、今でも同じ場所にそれが見えた。
サイカ宗派の一団は入り口を車で塞いでおり、小さなテントで小さな作戦会議室じみたものすら設営していた。
白を基調とした服装はいかにもな宗教らしさだが、手に持つ銃器や四体に固定されたガジェット達からして、どう見ても兵士だろうと警鐘を鳴らす。
先頭に立つ若い男が、バイクから降りる私達三人を見て合図を送った。テントから現れたのは立ち並ぶ者たちよりずっと歳を重ねた、老練たる男だ。たくましい髭に白髪は見当たらない。
「わざわざご足労頂き、感謝致します。こちらから伺うのが筋ではありますが、やはりここでは」
「
デルタが一歩前へ出て、私とサンの壁になる。話は一番事情を理解している彼に任せ、私はサンを守る役割に徹する。タロザには隠れているよう提案したが、監視役をさせてくれ、と一方的に通信を切った。どこかで私達を見ているかもしれない。
「用心するに越したことはありませんからね。申し遅れました、
下名とは
「さて、本題に入りましょう。少年をこちらへ」
彼の言葉とともに、一斉に銃口が私達へ向いた。思わず身をすくめる。銃器に関する知識なんてあるはずもなく、果たして何発あれば死んでしまうのかすら想像もつかない。もちろん、一発だって食らいたくはない。
「よしなさい、彼らに敵意はない」
それでも笑みを絶やさぬ老兵は、親戚の子供をあやすようにいとも容易く彼らの殺気を鎮めた。彼の推測は正しい。私達には彼らに襲いかかるような意志は露程もない。
私は躊躇するようにしゃがみ込み、ぽつんと立つサンを後ろから抱き締める。デルタがその様子を端で捉えながら、声を上げる。
「待てよ、こっちの要求がまだだ」
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