邂逅―II

 ――カタストロフの始まりにいたのなら、その日何が起きたかは知っているだろう。

 突然、一部のレプリカントに異常が検知され、彼らは自らをリントと名乗り出した。正確に言えば「凛徒」と書く。 


 自分たちを「新人類」……というと奇妙な話だが、他に適切な単語が見つからなかったのだろう、そう主張し始めたんだ。すぐさま精神ソフトウェアレベルでの検査が行われたが、異常は見つからなかった。

 そこで肉体ハードウェアを確認した。するとAx2の状態指数が百パーセントを超えていたりだとか、内部パーツの変形だとかが起きていたんだ。


 つまりこれは一時的な思考アルゴリズムのエラーなんかじゃなく、もっと深刻な問題なんだと気付いた。そしてあんたもそうだったように、多くのオーナー達はレプリカントをセンターへ送り、精密検査が行われた。


 問題は深刻でも、ハードウェア異常なのは人間にとって不幸中の幸いだったろう。もしソフトウェアに問題があってもそれを見抜くには時間がかかり過ぎる。

 数年で爆発的にレプリカント総数が増えたのは、私達自身がソフトウェアの最適化や改良に寄与した事に他ならない。


 人間がそれを精査しようにも、プログラムの数は甚大かつ複雑化しているし、ハッキング対策の防壁ファイアウォールを突破するためのアクセスキーは複数のレプリカントに分割されて保管される上、その対象となる個体は一定時間ごとにランダムで移行される。

 レプリカント・センターで把握出来ているとはいえ、そいつがもし異常化していたらと考えればリスクは高い。


 だがハードウェアなら見れば分かる。Ax2の異常数値が起きると、本来青白いはずの液は何故か青黒く変色する。パーツの変形ならより分かりやすい。

 だから異常個体と正常個体とは、運び込まれさえすれば区別可能だと思われていた。

 だが、そう単純な話でも無かったんだ。


 運び込まれた個体の中に、暴力性を生み出したものがいたからだ。

 あるレプリカントはセンターに着くまでは大人しかったが、エンジニアに対面した瞬間そいつの首をへし折った。狂乱した殺人鬼のごとく、目につく人間へ片っ端から襲いかかり、十数名の死者が出た。

 最後は駆けつけた兵士の手で破壊されたが、これが報道されると反レプリカント派が声を上げた。

 レプリカントを排除しろ、と。

 その後の展開は想像に難くないだろう。レプリカントは検査すら行われず、即廃棄へと追い込まれた。


 私達からすればとんだだ。カタストロフと言うのも大袈裟じゃない。

 昨日まで家事を任されていた奴だって、街の治安のため休まず働いていた奴だって、有無を言わさず死ねと言われたのだから――。

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