偽りの樹―V
「私は人間が嫌いだ」
彼女の声はなお続く。
「あんたはオフラインだから分からないだろうけど、そこら中に広がる廃屋にも
例えば、右手にある有り触れた一軒家。若い夫婦と二人の子供を持つ仲睦まじい家だった。
「カタストロフ? 転生?」
聞き慣れない単語に、思わず質問してしまった。
「何だ、知らないのか。落日と書いてカタストロフって読むんだよ」
「どうしてそんな呼び方を?」
「日本では落日という呼び方が何となく広まったんだけれど、世界的にはカタストロフという呼び方で統一される事になったんだ」
「そういう事じゃなくて……」
聞きたいのは、何故そんな悲しい名前が付けられたかという事なのだが、彼女はわざと分からないフリをしているらしい。
「はは、まあ追々分かってくるさ。ぴったりな名前だってな。さて、話を戻そう」
彼女は話を続ける。
例えばそこから数キロ離れた所では、母親と幼い娘が暮らしていた。彼女は典型的なアルコール中毒であり、また家庭内暴力の常習犯でもあった。
日本ではナノデバイスによる生体情報の提供が義務付けられているが、生活水準や精神上の理由などにより満十二歳までの子供は申請すれば、ナノデバイスの投与を延期出来た。
母親は生活水準が低く、また精神診断を騙し続けて精神疾患のフリをする事で我が子の投与を回避した。
それは勿論、家庭内暴力を明るみにしない為だ。
また日本が飲酒の規制に消極的だった事も災いした。他国では日間及び年間アルコール摂取量を管理され、過度の摂取は禁止されていたがここにはそれが無かった。
娘は毎晩暴力を振るわれながらも学校に通い、数ある傷痕は出来るだけ隠し、心ある教師の通報により児童相談所の職員が派遣されたが逮捕には至らなかった。
そしてカタストロフが起こり、母親は「転生」を決意。彼女は娘を産んですぐ夫と離婚していたが、その時には再婚予定の男がいた。
彼は大金持ちというわけではなかったが、アセンションの権利を優先的に得られる程度には人脈があった。
スリルを好む男は母親と二人分の転生契約を入手した。
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