第1話 レイリル王国へ
レイリル王国王都付近
クロノ視点
カタン…ゴト…ゴトン……。
少女は、うつらうつらしながら馬車に揺られていた。
その少女の名はクロノ。クロノ·レインアーク。
このエールス地方を旅する旅人である。
クロノの肩には白い翼を持った小竜が目を細めながら日を浴びていた。
やがて、横で眠たそうにしているご主人様を見て眠たくなったのか、小竜も一つ小さな欠伸をしてクロノの首筋に顔を擦り寄せた。
クロノは、くすぐったくてピクッと体を震わせ、半開きの目をこすり、
「ん…リウも眠いの?」
と言った。
クロノの問いに小竜のリウはきゅぅ…と小さく返事をした。
そして、もう一つ欠伸をしてクロノの肩の上で丸くなって寝てしまった。
クロノはそんなリウを一瞥して軽く微笑み、窓の外に目を移した。
そもそも、馬車自体この時代には珍しい。
このエールス地方は、魔獣こそ沸いていたが数も少なく、それほど強くもなかった。
だが、月暦1900年に入り急激に魔獣の数が増加。各国は魔獣との戦いに追われる日々を送っていた。
よって、途中で魔獣に襲われる危険性があるため、色々な乗り物が開発された。
四輪駆動車、俗に言う車や飛行船(動力は個人の魔力だが)などだったが、その利用費は高く、一部の貴族などにしか到底手が出せない代物だった。
なので、クロノのような平民は徒歩で移動をするか、比較的安価な馬車を探して乗るかの二択だった。
正直、馬車でここまで来れたのは奇跡といっていい。
だんだん、窓の外が賑わしくなってきた。
もうそろそろレイリル王国の王都付近だろうか。
窓の外では、背中に剣を背負った少年や、買い物をしている女性、ドーナツを頬張る少女など、色々な人々が行き交っていた。
ここら辺は治安がいい地域らしい。
「お嬢ちゃん、もうすぐ着くよ」
はーい、と短い返事をしてクロノは欠伸をする。
腰にぶら下げている護身用の片手剣や、肩から下げたカバンの持ち物などを確認し、ふぅ、と息をついた。
そして、首にかけた魔法石をそっと握り、目を閉じた。
この魔法石は、クロノにとってお守りのようなものだった。
誰にもらったかは忘れてしまったが、きっと大切なものだろう。
「リウ、もう着くよー」
肩に乗せた小竜のリウをそっと起こした。
「着いたよ、お嬢ちゃん」
「ありがとうございました」
クロノは馬車の運転士にペコリと礼をする。
「いやーお嬢ちゃんも運がいい、道中魔獣に襲われないなんて初めてだよ」
「ところで一つ、聞いてもいいかい?」
「?…何でしょう」
クロノは馬車の運転士の声に耳を傾ける。
「お嬢ちゃん、どうして一人でこんな所まで?見るからにまだ歳の行っていない子供じゃないか」
それを聞き、クロノは少しムッとした。
「私、子供じゃないです!」
「私、このエールス地方を旅してるんです」
馬車の運転士が少し驚いた顔をした。
「これは悪かったねぇ…旅人さんか…」
「…それでは」
クロノは馬車の運転士に別れを告げ、商店街の方へ歩き出した。
時はもう十二時を過ぎている。
クロノの横で、リウもきゅるきゅると声を上げた。
「リウもお腹空いた、よね」
クロノはそっとリウの喉裏を撫でて前を向く。
これはなんの旅なのか、はっきりとした目的はまだ分からない。
でも、このエールス地方を歩いて探していこう。
私の存在を、胸に秘めた謎を追いかけて。
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