25

「るー」


 二学期が始まって10日。

 リビングでボンヤリしてると、ママがあたしを呼んだ。


「何?」


「来週の土曜、何か予定ある?」


「来週の土曜?土曜日って、えーと…」


「17日」


「……」


 真音の誕生日。



「何か予定ある?」


「あ、ううん。何もないよ」


「食事でも行かない?」


「うん。久しぶりだね」


「今度は、ちゃんと予定を聞いてからと思って」


「ふふっ。ありがと。楽しみ」


「るーの進路について、ちょっとね」


「あああああ……その事…」


 あたしは額に手を当てる。



 二学期になって進路希望用紙が配られたものの、あたしはまだ書き込めずにいる。


「パパは講演で大阪に行ってるから、ママと二人で」


「いいの?パパにバレたらすねちゃうよ?」


「いいの、いいの。パパもそろそろ娘離れしなくちゃね」


 ママはそっとピアノを開くと


「ママ、嬉しかったな。るーがバイオリン弾いてくれたの」


 って、椅子に座った。


「弾いた…って、ハードロックだよ?」


「それでも。るーが音楽に興味を持ってくれたのが嬉しいのよ」


 ママの指は『エチュード』を奏でてる。


「…懐かしい曲だね」


 小さい頃、おじいちゃまに叩き込まれた曲。


「まだ弾ける?」


「どうかな。ちょっとやってみようかな」


 あたしが立ち上がると、ママは


「弾いてくれるの?」


 って目を丸くした。


「バイオリン、とってくるね」


 あたしは階段を駆け上がる。


 ママ、驚いてたな。

 そうよね…ママと合わせた事なんて一度もないもの。


 バイオリンをケースから出す。

 何だか、少し照れくさい。

 そんな事を思いながら、あたしはリビングへ。


 ママはピアノの前で。


「緊張してきちゃった」


 って笑ってる。


 あたしはママの横に立つと


「じゃ、いくよ」


 そっと、バイオリンを持ち上げた。

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