23

「かわいい~」


陽世里ひよりにそっくりでしょ?」


 約二年ぶりの頼子は、長女の愛ちゃん(7カ月)を抱えて満面の笑み。

 文化祭のステージが終わって、あたしは、頼子と涼ちゃんとで宇野君のクラスのお好み焼きを食べている。



「それにしても、すごかったわ。あんた、いつの間にあんな芸できるようになったの」


「芸…」


 ま、いいけど。


「それと、浅井君だっけ?すごいね。あのギターソロ」


 彼氏をほめられて、涼ちゃんはご機嫌。



「あ、頼子ー?」


 ふいに、元のクラスメイト達が懐かしそうに頼子にかけよる。

 生徒会長までしてたんだもの…忘れられるわけがない。


「るー、見たわよー。カッコよかった!!」


「あ…ありがと」


 ほめられるのって慣れてないから、なんだかくすぐったい。


「ま、なんだかんだ言って…るーが元気でよかったわ」


「え?」


 頼子は静かに笑いながら。


「元気なかったら、いい男を二、三人紹介しとこうかなって思ったんだけど。あたしが紹介するまでもなく、いい男に囲まれてて良かった」


 って。

 頼子の言葉に思わず苦笑い。


「それにしても、廉がいい男になってるから驚き」


「驚き?」


「中学の時とか、有名だったのよ~?荒れててねー。あたしは誠司が仲良かったからとりあえず仲良くなれたけど。悪いことはひととおりやったって感じ」


「……」


 丹野君が?


「ま、色々わけありっぽかったからさ」


「そうなの…」


「好きなの?」


 頼子の問いかけに、涼ちゃんまでがあたしの顔をじっと見る。


「な…なんで…」


「だって、なんかいい雰囲気だったわよ?廉ったら、バイオリン弾いてるるーを見つめちゃったりして」


「あ、そうそう」


 涼ちゃんまで。

 あたしは、見る見る赤くなってしまって…って、どうして赤くなるの!?


「いいんじゃない?あいつ、優しいし」


「何がいいのよ…あたしは…」


「まだ、朝霧さん?」


「……」


「ま、まだ一ヶ月ぐらいだし、忘れられないか」


 頭の中では、ふっきれたつもりでいる。

 でも、実際はー…そんな簡単には忘れられないんだなって…。



「ああ、そういえば、あんたんとこの親、すごかったわね」


「言わないで…」


 パパとママは、この日のために買ったというビデオカメラをふりかざして。

 あたしのソロになるたびに、前に出てきて。


「るー!こっちむきなさいっ!」


 パパが叫ぶもんだから緊張も通り過ぎて、冷汗が出てしまってた。



「ここにいたのかよ」


 噂をしてた丹野君が現れて、あたしはつい目を反らす。


「おっ、頼子。久しぶり」


「元気そうね」


「ああ…ちっけぇなー」


 丹野君は、愛ちゃんを指で触って笑った。


「そのうち大きくなるのよ」


 頼子は、あたしと丹野君を交互に見て。


「何、るーを探してたの?」


 って…


「な…」


「お、そうだ。部室で写真撮るんだ。おまえも来いよ」


 丹野君はそう言って涼ちゃんを手招きした。


「あたしも?いいんですか?」


「おまえはカメラ係」


「ちぇっ」


「嘘。晋の隣に特別入れてやっから来いよ。誠司も勇二もいるし」


「あっ、誠司め。いないと思ったら」


 今はロンドンで暮らしてる頼子。

 離れてるけど、連絡だけはずっと取り合ってるからか…今もここで生徒会長をしてるような錯覚に陥ってしまう。

 だけど、腕に抱かれた愛ちゃんを見て、頼子の今を思い出す。



「じゃ、あたし帰るわ」


 頼子が立ち上がった。


「もう?」


「うん。空港から直接ここに来ちゃったしね。母さん待ってるから」


「今夜電話する」


「ん」


 頼子が七生の跡継ぎじゃなかったら…なんて、考えてもどうしようもない事だけど。

 それでも、一緒に文化祭を盛り上げたかったな…と思った。

 仕切り屋でお祭り好きの頼子がいたら、どんな文化祭になってただろう。

 ステージで本格的なファッションショーでもやってたかもしれない。

 一人、そんな事を思いながら、頼子に手を振る。



「さ、部室行くぜ」


「うん」


 迎えに来てくれた丹野君の後ろについて、あたしと涼ちゃんは部室に向かう。

 途中、何人かに『サイコーだった!!』ってハイタッチを求められた丹野君は笑顔で。

 あたしは…その笑顔に、なぜかホッとした。

 …色々あって荒れてた、って聞いたからかな…

 でも、それを知らなかったとしても、丹野君が笑ってくれてると…ホッとするあたしがいる。



「ええええ…お酒?」


 部室に入ると、みんな酔っぱらってて。


「硬いこと言うなよー。打ち上げ。打ち上げ」


 みんなは楽しそうに、紙コップを持ち上げた。


「……」


 首をすくめながら、イスに座ると。


「じゃ、みんな揃ったところで、記念写真撮ろうぜ」


 八木君が、カメラをセットした。


「それじゃ入んないよ。もっと中に寄れって。るー、も少し中」


 八木君に言われて体を中に寄せ…


「……」


 丹野君に、肩を組まれて…思わず体が硬直する。


「よーし、いくぞー」


 セルフタイマーの点滅の灯を見てたら、ボーッとしてきちゃった。

 肩が…熱い。


 カシャッ。


 シャッターの音。

 少しだけホッとして動こうとしたらー…まだ、肩に丹野君の手。


「…何?」


 オドオドしながら見上げると。


「いや…バイオリン、ありがとな」


 って丹野君は優しい目で笑ってくれた…。


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 未成年の飲酒シーンが登場しますが、この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません

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