いつか出逢ったあなた 2nd

ヒカリ

01

『あ、もしもし、俺。悪いけど、明日の映画無理やわ。ほな、またな』


「えっ?あ、真音、ちょっ…」


 ツーツーツー。


「…切れた…」


 あたしは唇を尖らせて受話器を置く。


 真音まのんと付き合ってるっていう形になって、五ヶ月。

 この五ヶ月の間に…色んな事があった。

 だけど、どうにかそれらも乗り越えてきた。



 世の中はクリスマス一色。

 街を歩けばカップルや家族連れ。

 そんな中あたしは…毎日一人で登下校している。


 今までは…幼馴染の頼子よりこと、『今年のクリスマスはどうする?』って色んな計画を立てて、プレゼントもお互いのために買って。

 頼子の家で、楽しいクリスマスを過ごしてた。


 と言うのも…

 あたしの家は、パパが指揮者でママがピアニスト。

 毎年、クリスマスは国内か海外かでステージに立ってる。


 …頼子とのクリスマスは…毎年楽しかった。

 それが、今年は…



 今年は、あたしの人生が一変する出来事があった。

 共学高校に進学して…

 頼子の友達である、宇野うの君と瀬崎せざき君と仲良くなった。


 そして、一緒にライヴハウスに行って…

 …出会ってしまった。


 今や、あたしの彼氏となった…真音に。


 男の人に免疫がなくて、男の人どころか…初対面の人は女性も苦手なあたし。

 そんなあたしが、まさか…

 ロックバンドでギターを弾いてる、人気者の真音と付き合う事になるなんて。


 それだけでも天地がひっくり返っちゃうような出来事だったのに。


 …頼子が…

 学校を辞めて、結婚した。

 今はロンドンで新婚生活を送っている頼子とは、電話と手紙のやりとり。

 だけど、何だか頼子とも世界が違ってきちゃったな…って感じてる。


 取り残された気分って言うのかな…


 …でも仕方ないよね…

 頼子はもう、学生じゃない。

 跡取りとして、仕事を始めてるんですもの。

 離れたって感じるのも仕方ない。

 住む世界が変わってしまったんだから…。



 テレビからは、最近流行りの歌謡曲。

 細い女の子が『まだ16だから』って歌ってる。

 あたしも16だから…この子が歌ってる歌の、どこか夢見がちな内容は分からなくもない。

 むしろ、あたしにはまだそっちの方が似合う気さえする。

 真音と付き合うのは、背伸びじゃないのかな…


 小さく溜息。



 映画のキャンセルは、これで五回目。

 最初は…真音も目の前で両手を合わせて、申し訳なさそうに謝ってくれてたけど…

 さすがに五回目ともなれば…電話で一方的に断られるようになった。

 …いつもバンドの事が絡んでる。


 仕方ないのよ。

 真音の夢だから。

 頭では分かってるんだけど…

 でも、本当は寂しい。


 好きな人と一緒に過ごしたいって思うのは、当たり前の気持ち…だよね?

 あたしがワガママなのかな…


 だけど、せめてクリスマスぐらいは…一緒に過ごしたいな。

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