別れない二人

駿 銘華

 別れない二人

「別れよう」


 男は言った。


「え、どうして急に?」


 女は聞いた。


「その方が二人の為なんだ」

「分からないわ」

「分かってくれ」

「他に女が出来たの?」

「そうじゃない」

「そうなのね」

「違う」

「そうに決まってるわ」

「違うってば。愛してるのは君だけだ」

「じゃあなんでそんな事言うのよ?」

「理由は知らない方が君の為だ」

「そんなの納得出来る訳ないじゃない!」

「時間が無いんだ」

「どうしたって言うの? まさか命にかかわる病気?」

「それも違う」

「借金取りに追われてるとか? お金なら貸すよ」

「そんな問題じゃない」

「私に飽きたのね」

「君は今でも魅力的だよ」

「嘘ばっかり」

「本当だ」

「でも最近してくれないじゃない」

「それは忙しくて疲れがたまってたからだ」

「今日は休みよ。なら今して」

「それは出来ない」

「もしかしてED? なら病院に行って治しましょう?」

「そう言う問題でもないんだ」

「じれったいわね。一体なんなのよ!」

「とにかく別れた方が俺達の為なんだ」

「別れないわ」

「どうして?」

「最近、来ないの」

「何が?」

「アレよ」

「まさか」

「もう3ヶ月くらい来てない」

「でも最近してないだろ?」

「そのくらい前にしたわ」

「その時のか?」

「責任取ってよね」

「どうしてこんな時に」

「あなたが変な事言うからよ」

「ああ、もうおしまいだ」

「何がおしまいなの?」

「俺の人生が」

「意味が分からないわ」

「俺達、出会った頃は上手くやってたよな?」

「今でも上手くやってると思ってるわ」

「なあ、最初に出会った時の事、覚えてるか?」

「もちろん覚えてるわ」

「あれは大学のキャンパスで、君がメガネを落として」

「それをあなたが踏んづけちゃった」

「君は目が悪いから、俺の顔が良く分からなかったんだよな」

「すごくイケメンに見えたわ」

「それで良く一目惚れって言えるな?」

「一目惚れしたのはあなたの方でしょう?」

「まあ、お互い様だな」

「ふふふっ」

「あははは」

「二人で旅行にも行ったわね」

「ああ、どこが一番楽しかった?」

「私は熱海かなあ。温泉好きだから」

「俺は水上かな。川下り楽しかったよね」

「あと沖縄も良かった。シュノーケリングして海が綺麗で」

「石垣島だったね」

「サンゴ礁に熱帯魚が沢山いて」

「………」

「………」

「やっぱり別れよう」

「またその話?」

「それしかないんだ」

「子供はどうするの?」

「悪いが、君一人で育ててくれ」

「そんな無責任な」

「養育費は送るよ」

「そう言う事言ってるんじゃないわ」

「君は俺と一緒にいちゃいけないんだ」

「誰かに追われているの?」

「これを言うと、君まで巻き込まれる事になる」

「まさか犯罪?」

「とにかく、俺はここを出て行く」

「何をしたって言うの?」

「言えないんだ。分かってくれ」

「嫌よ。私も一緒に行く。愛の逃避行よ」

「聞き分けの無い事を言わないでくれ」

「あなたと離れたく無い」

「そんな身重の身体で付いて来れる訳ないだろ?」

「平気よ。女は強いの」

「連れては行けない」

「どうしてもなの?」

「危険すぎる」

「そんなに?」

「もう時間だ。行くよ」

「行かないで!」

「元気でな」

「行っちゃダメ!!」

「あ」

「どうしたの?」

「外にいる!」

「誰が?」

「見張られている」

「誰に?」

「遅かった、もうダメだ」

「まだなんとかなるわ」

「どうするんだ」

「窓から逃げるのよ」

「危ないじゃないか」

「臆病ね」

「高い所は苦手なんだ」

「ここはたかだか2階よ」

「落ちたら怪我をするじゃないか!」

「じゃあ、変装は?」

「どうするんだ?」

「私の服とウィッグを貸してあげる」

「そんなみっともない」

「バレないわよ」

「仕方が無いな」

「ほら、出来上がり」

「本当に俺に見えないか?」

「全然分からないわ」

「じゃあ行くぞ」

「行ってしまうのね」

「ああ、さよならだ」

「さようなら、私の愛する人」

「あ」

「どうしたの?」

「いないんだ」

「誰が?」

「見張りの連中が」

「さっきまではいたのに?」

「そうだ。一人残らず」

「良かったじゃない」

「とりあえず、俺の服を返してくれ」

「そうね、はい」

「おかしいな」

「何が?」

「まさか、諦めたわけじゃ」

「そうかもよ」

「そんな訳ないか」

「気のせいだったんじゃない?」

「確認してみる」

「どうやって?」

「スマホのニュースで」

「そんなの分かるの?」

「やっぱりだ」

「どうしたの?」

「真犯人が捕まった。これで俺は自由だ!」

「冤罪を掛けられていたのね?」

「ああ、そうなんだ」

「でも、良かったじゃない!」

「これでまた安心して二人で暮らせるぞ」

「あ」

「どうした?」

「来たわ」

「何が?」

「アレよ」

「何だって?」

「遅れ気味だっただけみたい」

「なんなんだよ」

「ごめんなさい」

「半分残念だけどな」

「本当に?」

「ああ、いてもいいなとは思ってる」

「じゃあ、久しぶりに、今度する?」

「そうするか」



おわり

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 別れない二人 駿 銘華 @may_2018

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