砂漠

ともも

第1話

ひと仕事終えた気分だ。

僕はまたベッドに腰掛け、安いタバコを咥える。

ライターに手を伸ばす女を制し

僕は自ら火をつける。


甘い匂いが部屋中に漂う。

ああ、甘いな。この匂いが好きなんだ。

仲間にはそんなモノはタバコじゃないなんて

言われるけども、

僕はずっとこの匂いに包まれて生きていきたいとさえ思う。


「今日もすごかった。」


うるさいな。今は俺の時間なんだよ。

そう言うとまた深く吸い込む。

また甘い香りが身体中をかけめぐる。

シンナー中毒者のように

僕の体はこの匂いを求めている。


少し、吸いすぎたかな。

クラりとする。

視界の端にうっとりとした濡れた瞳で

こちらを見つめる女が写り込む。


そんなに見つめて何が楽しいのだろうか。

その目は何を見ているのだろうか。

僕はわからない。理解もできないんだ。

いや、理解しようとしてないだけで

僕はなにもわかっちゃいないんだ。


タバコの火をグシャグシャと消し、

僕は女に一瞥をくれる。

女は少し驚き、そして最高の笑顔を見せる。


「どうしたい?」

いたずらっ子の呼びかけのように女は

僕に問いかける。

僕はその発信源を唇で遮断する。


今の僕には考えなんて必要なかった。

ただ目の前の女と愛のない交わりを続けるだけ。


心が乾ききって、水も干上がって

僕には何も残らないとしても


僕はこの世界から逃げられない。

僕はこの現実から逃げられない。


甘い香りの漂う中で

また1人よがりの交わりが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

砂漠 ともも @GoodbyeHappyTurn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ