異世界ハイスクールライフ ~課金厨をぶっとばせ~

龍神雷

第1話 スーパーでビックでデンジャーでダイナマイトな…

「ちくしょう~!クソ親父とクソ先公に騙されたぁぁぁぁ~~~~っっっっ!!!!!」


 俺は目的地であった駅のホームを降りた瞬間、大声で叫ぶ。

 山彦となって自身の叫びがこだまし、ここが秘境とも言える僻地である事をまざまざと実感させられる。

 駅前には小さな駐在所があったが、たまたま巡回中だったようで、俺の絶叫が響いても、中から驚いてお巡りさんが飛び出してくることは無かった。

 周囲にはその駐在所以外に建物らしい建物が数軒しか見当たらず、俺の絶叫を聞いても誰も飛び出して来ない。

 もしかしたら空き屋かもしれないが、それが更に僻地感に拍車を掛けている。

 原々バルバラなんていう今まで聞いた事も無い、どこにあるのかすら知らない駅名に不安を抱きつつも、新天地へと向かうドキドキとワクワクに胸を躍らせながら、電車に揺られ、3回程乗り継ぐ事、4時間半。

 進むにつれて、電車の窓から見える外の景色はどんどんと建物が少なくなっていき、長閑な田園風景が続くようになっていった時点で、心の中を不安が支配していった。

 そして周囲を緑色の山々が囲んだ無人駅である|原々(バルバラ)駅に到着した時点で、その不安はここを推薦してくれた中学時の担任と自分の父親への不満へと変わり、爆発した結果、そう叫ばずにはいられなかった。


「俺のドキワクを返しやがれぇ~!!!」


 俺は蓮城レンジョウ 勇輝ユウキ。15歳。

 高校への進学と共に新天地へと赴いた俺は、秘境と呼ぶに相応しいこの場所に着いた時点で既に絶望していた。



 時は数ヶ月前に遡る。

 俺は高校の進学先を決める三者面談の場に居た。

 隣には1年の殆どを海外出張等で不在にしている親父が座っている。


「……それでユウキ君には将来について既に具体的な目標があると?」

「ええ、そうですとも!な、ユウキ」


 親父の言葉に俺は曖昧な笑みを浮かべ適当に頷く。


「それで蓮城君の将来の夢とは何なんでしょうか?」

「……え~っと、その、まぁ…一応、プロゲーマー……って事で」

「えっ?」

「ほら、今話題のe-スポーツっていうのがあるじゃないですか。スマホでやるカードバトルとか、陣地を取り合う対戦ゲームとか。息子はこの夏休みにあるカードゲームの国内大会で中学生部門で優勝したんですよ。それが評価されて日本代表の1人にも選ばれて一般部門のアジア大会にまで出場しましてね。後一歩でベスト4には届かなかったんですが、上位は殆どが重課金の大学生とか社会人でしたので、中学生、しかも無課金勢の中では息子が一番だったんですよ。つまりこいつにはそっちの才能があると思いましたので、それを伸ばせる環境が良いと私も思っているんですよ」


 親父がやや興奮気味に担任にそう言うが、俺としては別に本気でそれで食べていけるとは思っていない。

 e-スポーツだって今でこそ人気に火が付いて、爆発的に普及したおかげで高い賞金とかも出ているが、数年後にはどうなっているかも分からない。

 よくゲーム雑誌に出てくるプロゲーマーと呼ばれているような人達も、ライター業やら何やらの副業をしているから成り立っているのであって、ゲームだけして一生を暮していける程、世の中は甘くない。

 だが唯一の家族であり、男手1つで俺を育ててくれた親父が期待をしているので、一応はその期待に応えようとした結果、そう答えるしか無かったのだ。


「そ、そうですか……ですが、そういうのは普通に学校に通いながらでも出来るのでは無いかと思います。夢を追い求める事は良い事ですが、やはり高校くらいは行っておいた方が良いと思うのですが」


 それは俺も同意見だ。

 流石に俺の口からははっきりと言い出せないので、もっと言ってやって親父の目を覚まさせてやって欲しい。


「ええ、それには私も同意です。ですのでこの子には私は原々が良いと思うんですよね」

「原々って……まさかあの学校ですかっ!しかしまさか、あそこをご存知だったとは。ですがご存知であるらば、あそこは………それに入学には2人以上の関係者の推薦状が無ければいけません……もしかしてどなたか知り合いに関係者がいらっしゃるのですか?」

「はい。実は私はあそこの卒業生なのですよ。そして先生もあそこの出身だという事も存じ上げています」

「ああ、そうでしたか。それならばあそこをご存じだった事も分かりますし、推薦状に関してもこれで2人ですので問題はありませんね」


 なんかいつの間にか俺が疑問を挟む余地すら与えられないまま、大人2人だけでどんどんと話が進んでいく。

 あの学校とは一体何なのか?

 原々というのは何処なのか?

 話を聞く限りだとプロゲーマーを養成する学校みたいな気もしないでもない。

 しかし専門学校ならそういう学校もありそうだが、高校でそんな所があるなんて聞いた事が無い。


「ですが本当に宜しいのですか?卒業生と言う事はあそこの事を一番理解しているはずです。そこへユウキ君を入学させると言う事は……」

「ええ、分かっています。ですがこいつの能力を最大限に発揮出来る場所となるとあそこ以外には考えられないんですよ」

「そうですか。手続き上の問題もクリアし、保護者の了承もあるとなれば、こちらも断る理由はありません。実際問題、ノルマとして数年に一度はあそこに誰かを推薦しなければいけませんでしたので、私としても助かります。それではこちらで推薦の準備を進めたいと思います」


 なんか俺の意思とは無関係に、何の説明もなく、同意すら求めぬまま、高校への推薦受験の準備が親父と担任によって進められてしまった。

 そして筆記試験も面接もする事無く、書類審査だけで、あれよあれよという間に俺は入学が決まったのだ。

 担任から渡された学校案内パンフレットによれば、学校名は私立原々高等修学校。

 というか専修の専の字が誤字ってるのに直しもしないで、学校案内パンフレットが配布されているって、学校案内としてどうなのだろうか。

 だが一応、パンフレットの内容を読む限り、校風はそれなりに自由で中身の方もちゃんとしている。

 創設100年近いらしいが、数年前に全面改築されていて、世界でも最高水準で最先端といえる設備が整っているという。外観も綺麗で近代的で、本当に学校なのか不思議なくらいに豪奢で立派な校舎だった。

 海外からの留学生も数多く入学しているらしい。

 そんなパンフレットの写真と原々という地名が秋葉原とか原宿辺りの地名に似ていた為、都会にあるとばかり思っていたのに、着いてみればスマホは圏外。それどころかTVやラジオの電波すら届いているのか不安なくらいのド田舎の山の中。

 はっきり言ってここが何県なのかさえよく分かっていない。

 ちなみに駅の時刻表を見たら、次に電車がこの駅に止まるのは夜の7時で、しかもそれが終電。

 それを逃したら、翌朝の6時までこの駅に電車は止まらない。

 今が丁度昼前であるから、1日3回しか停車しない駅という事になる。

 学校の最寄り駅なのだから、もっと便を良くしても良さそうな気がするが、パンフレットには確か全寮制と書かれてあったのを思い出す。

 つまり学校に通うのには電車時間を気にしなくても良いという事なのだろうが、これでは入学したとしても休みの日に遊びに出掛けるという事が困難だ。

 それどころか、この駅前には店屋らしいものも見当たらないので、欲しいものを買うのさえ難しいだろう。


「この現代日本にまだこんな所ってあるんだな……完全に秘境じゃんか……」


 ブツブツと言いながらも、俺は駅から一歩を踏み出し、学校があると思われる方へと歩き出す。

 すぐに家に引き返したいという気持ちは強かったが、次の電車が来るまで電波の届かないこんな所でただボーッと待っているというのも暇だし、それにもし本当にこんな所にあんな立派な学校が存在するならば、一目だけでも見てみたいという好奇心もあった。

 パンフレットの案内図を頼りに、数える程しか存在しない家屋のある駅前を抜け、山道を登る事30分。

 体力は平均より上だと自負していた俺でも、舗装もされていない上り坂にやや嫌気が差し始めた頃、ようやくそれは見えてきた。

 林道の先に見える、まるで中世やファンタジー世界に出てくる城門のような巨大な鉄の門扉。

 そこにはパンフレットにも書かれてある学校の校章を象ったレリーフが施されていた。

 目の前まで来るとその巨大さが良く分かる。見上げる程の門扉は悠に10mくらいはあるだろうか。

 物々しくて荘厳。

 もし海外の世界遺産になっている教会とか寺院とかにあれば、この門扉は間違いなく名所となるだろう。

 それ程までに神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 門扉の左右には木々に隠れていて近付かなければ分からなかったが、まるでこちら側と向こう側を隔てるように絶壁になっており、更にコンクリートで補修されていた。


「おいおい、マジで隔離施設とか刑務所って感じじゃんか、これ………」


 見た限り、流石にコンクリート壁の上に脱走防止用の有刺鉄線が張られていたりする事は無かったが、そう思ってもおかしく無い外見である。

 やっぱりこんな所に来るべきでは無かったと踵を返そうとした所で、門扉の方からその声は聞こえてきて、ビクリとする。


「新入生の方ですね」


 門の脇に設置されていたスピーカーから女性らしき声が聞こえる。

 きっとどこかにカメラか何かがあって俺が来るのを見ていたのだろう。


「ようこそ、いらっしゃいました」


 それと同時に鉄の門扉がゆっくりと左右に開いていく。

 門扉が開いた先に居た人物に俺の目が釘付けになる。

 地味目のグレーのスーツに身を包んだやや赤茶けたボブカットの女性。瞳が見えない程細い目が朗らかな笑顔を浮かべている。年齢は20歳半ばくらいだろうか。

 それだけならば何処にでもいそうな優しそうなお姉さんという感じで、取り立てて際立った強い印象を受けない。

 しかし俺の目を釘付けにしたのはその胸元。

 ジャケットを押し上げ、その下のブラウスまで、はち切れそうな程の盛り上がりを見せている。

 Gカップ…いや、Hカップはありそうな胸を前に、思春期の少年がそれを凝視してしまうのは仕方が無い事だ。

 いや、というかこれは思春期じゃなくても見てしまう。

 それ程までにスーパーでビックでデンジャーでダイナマイトなオパーイなのだから。

 もしこれに興味すら示さない男が居たら、そいつは確実にロリのコンでおまわりさんに通報するレベルだ!! 

 いや、まぁ、こうやって凝視するのも通報レベルかもしれないけど、男としては仕方が無いじゃないか。

 なんとなく拝んでしまいそうになったが、それはマジで通報されかねないので、心の中でだけやっておく事にする。


「この学校の教師の宗村と言います」


 胸村…もとい宗村先生は俺の視線に気が付いていないはずは無いのだが、表情を崩す事無く、そう告げてくる。

 きっと彼女は自分の胸が平均より遥かに大きくて、視線を集めてしまう事を自覚しているのだろう。

 そして昔からそういう目に晒され続けて来た為、慣れてしまっているのかもしれない。

 服の上から見られるだけならば実害も無いので、恥ずかしがる理由も無いとでも思っている風だ。

 まぁ、10歳近くも年下のエロガキの事なんて、きっと気にもしていないのだろう。


「それでは案内しますので付いてきて下さい」


 監獄のような見た目のせいで逃げ出す寸前だったはずだが、宗村先生の姿に惚けていた俺はついつい彼女の後を追って門扉の向こう側へと足を踏み入れてしまう。

 はっ!しまった!こいつはハニートラップか!!

 はたとそう気が付いて、背後を振り返れば、外界との唯一の出入り口であろう鉄の門扉は開いた時と同様にゆっくりと閉まっていく。

 今から慌てて出ようとしても間に合うかどうか。

 下手をしたら門扉に挟まれてプレスされてしまうだろう。

 俺は戻る事を諦めて、オレンジ色の明かりが灯るコンクリートで覆われたトンネルの先を行く宗村先生の後ろに付いていく事にする。

 もうここまできたら諦めの境地というか、完全に開き直るしかない。

 その心情を察してか、前を歩く彼女が苦笑しながらユウキの方へ顔を向ける。


「入口が物々しくてごめんなさい。新入生の多くがこの校門のせいで、ここが実は学校じゃなくて更生施設とか監獄なんじゃないかって勘違いしちゃうみたいなんです」


 それなら改装すればいいのにと思いつつも、そういう場所じゃないと知って、少しだけホッと胸を撫で下ろす。

 だがそうなると別の疑問が湧いてくる。

 なら、なんでこんなに大きくて分厚い壁があるんだろう?

 その疑問を問おうかどうか悩んでいると、一瞬、車か船に酔ったように、脳が揺れる。


「うっ」


 何だ、今の。

 一瞬、気持ち悪くなって吐き気が込み上げて来そうだったが、それも一瞬の事。今はもう何も感じない。

 本当に何だったのだろうか。

 もしかするとここに来るまでの疲れが少し出てしまったのかもしれないな。

 そうこうしている内に再び目の前に扉が現れる。

 しかし今回は普通サイズのスチール製っぽい扉だ。

 先程の門扉とは大きさは雲泥の差だ。

 そして正面の門扉が中世的だったのに対し、この扉はどこか近未来的な感じがする。

 宗村先生がその扉の前に立つとまるで自動ドアのように横開きで開き、その向こうから明かりが差し込む。

 多分、この先に学校があるのだろう。

 ここまで付いてきてしまった以上、後には引けない。

 ゴクリと生唾を飲み込んでから、俺は宗村先生の後に続いて一歩を踏み出す。


「こ、こいつは!」


 ついさっきまでは大自然しか無い山奥だった。

 だが壁を越えた先にあったのは信じられない光景だった。

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