エデンの遺産
和食すばら
世界は、一から百七十九までしかない
「うわっ!やべー、こいつの全体攻撃ほんとずるい」
少年は胡座を書きながら、画面にへばりついて携帯ゲームを握っていた。
「うわー、もう勇者しか残ってねえじゃん…もうMPもないし回復ないし…」
「ということは攻撃、だね」
少年よりも身長が高い少女は、正座で両手を地面について、横から画面を見ている。
少年は攻撃ボタンを押せないまま、うーんと唸った。
「えい」
「あっ!ちょっと!」
少女が華奢な腕を伸ばして、少年の親指を上から押し付けた。
バシバシバシッ!
かいしんのいちげき!
だいまおう をたおした!
「やったあ!ナイス!」
少年は無邪気に喜んだ。
『くっ…このわたしがたおされるとはな…だが光あるかぎり闇は消えぬ…永遠にたたかいはおわらないのだ…フフフ、勇者よ、おまえがしんだあと、この世界はふたたびあくむにそまるだろう…ははは!ぐふっ』
「あ、しんだ」
「死に際なのによく喋ったね」
少年は、ここで一旦ゲームの画面を閉じた。
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
少女は首を傾げた。
「光があると闇ができるなら、闇があると光ができるのか?」
少女はちょっとだけ考えて、こう言う。
「いや、それはないかな」
「じゃあさ、おかしくね?なんで闇から光はできないのに、光から闇はできるんだろ?」
少女はさっきよりも少し長く考えた。
「いや、よーく考えると、光からも闇はできないね」
「じゃあ、二つはどうやって生まれたんだろう…?」
少年は首を左右に行ったり来たりさせて、腕を組んで眉間に皺を寄せた。さっぱりわからない、というポーズだ。
「多分、闇は最初からあったんだと思うよ」
「あー、それはわかる…でもさ、光は最初、どこから出てきたのかなぁ?」
「きっと、最初は闇しかなかったんだと思うな、それでどっかから光が…うーん…」
二人は黙りこくった。
10分後。
「あ、ちょっとまって」
少年が静寂を止めた。
「あのさ、世界が最初から闇であとから光が出てきたならさ、世界が最初は光で、あとから闇が出てきたってなっても、結局同じことじゃね?」
少女は数回瞬きを繰り返したあと、目を見開いて、両手を開いて上げた。ついでに口はOの形。
「わー!すごいねそれ!どっちでも同じだよ!」
「てことはさ、あれじゃん?光と闇って同じなんじゃね?」
「あら、面白いこと話してるのね」
穏やかな表情をもつ女性が、ココアを載せたお盆を二人のそばにあるテーブルにそっと置いた。
「お母さん!今日の絵本はなに?」
少女が子犬のように、女性のスカートを握って目をキラキラさせた。尻尾を振っている(本当に尻尾はない)。
「今日は、君たちの話してた光と闇のお話にしましょうか」
「え!ほんと!」
少年も、ゲームを置いて母親に近づく。
「今日の絵本の題名は〜?ジャカジャカジャカジャカ…ジャン!『エデンの遺産』でーす!ではまずあらすじから…」
光と闇。それは似て非なるもの。全く違うのに、同じでもあるもの。最初の世界が光なら、後に宿されたものは闇となり、最初の世界が闇なら、後に宿されたものは光となる。
人は光を求める。世界に光のみを求める。
人は闇を恐れる。闇のない世界を望む。
しかし。闇だけでは光が生まれないように、光だけでは闇も生まれない。
なぜなら二つは違っていて、同じだから。
この物語は、闇に覆われた世界から始まる。
この世界も、きっと闇から生まれた。
創造主と呼ばれた者がこう言った。
「世界に光あれ」
こうして生まれた光は、ひたすらに眩しかった。人々を照らした。
しかし。光と闇は表裏一体なのだ。
光は時に闇となり。
闇は時に光となる。
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