第126話 決戦-02

スメラを飛び立ってから三日が経過した。

俺は全ての準備を終え艦隊旗艦のブリッジに戻った。


この三日間、俺はひたすら最大魔力で平面波レーザーを撃ちまくっていたのだ。

レーザー先端が平面状に並ぶように調整するのは面倒だったが、おかげで直径1,000kmに及ぶ巨大な合成レーザーが完成していた。


ちなみに、元々のアニメの火〇直撃砲は超高熱エネルギー弾を瞬間移動させる兵器であり、完全な真空中であっても熱輻射によってエネルギーが急速に失われてしまう筈だ。

従って、発射してから時間の経過した超高熱エネルギー弾を瞬間移動させても本来の破壊力は期待できない事になるが、電磁波の一種であるレーザーでは事情が異なる。

実際、最初に撃ったレーザーは三日間で約800億kmほどの距離を進んでいるが、水素原子すら滅多に存在しない超銀河団網目構造の隙間部分を進行しているのでほぼ減衰せずに済んでいる。

また、魔法を使って放つレーザーは理論式に忠実な完全コヒーレント光なので拡散せずに完全な平面波を保っておりエネルギー密度も低下していない。



「そろそろ予定時刻だな。連絡は入ったか?」

「いや、まだだ。」

「そうか、じゃあ飯でも食っておくか。」

「代謝魔法を使わんのか?」

「せっかくナホが作ってくれた必勝祈願弁当だからな。食わない訳ないだろ?」


瞬間冷凍保存しておいた弁当を魔法で適温に温めた。

それぞれのおかずを最適な温度に調整できるので、作り立てと遜色ない味わいが再現できるのだ。


「いただきます!」


そして、ちょうど食い終わった時、ブリッジにブザーが響いた。


「閣下、コードネーム引きニート1より報告。準備完了との事です。」

「コードネーム引きニート2からも報告あり。同じく準備完了との事です。」

「よし、では予定通りヘヴ標準時間1000に全軍瞬間移動を行う。全軍に通達せよ。」

「ふぅ、ごちそうさま。」

「コウ、相変わらず図太いですね。ではわたしはMSの最終確認後、搭乗して待機します。」

「おう、死ぬなよ。」

「ありがとうございます。コウも死なないでくださいね。」


それからしばらくして、ルキフェルが立ち上がった。

俺も大規模殲滅戦用の仮想頭脳群を起動する。

後は転移直後に魔法気配の正確な座標を入力するだけでロックオン可能な状態だ。


「これよりデヴィ討伐作戦を開始する。拡張視野で確認したところ、敵は全軍団が玉座上空100kmに展開している。我々はコウの長距離砲撃により壊滅させた敵中央部に転移し神軍を殲滅後、直ちに降下しつつデヴィへの総攻撃を行う。総員下船し攻撃陣形を構築せよ!」


「では頼んだぞ、コウ。」

「任せとけ。」

「カウントダウン開始!」

「了解しました。これよりカウントダウンを開始します。10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,0」


俺が超巨大レーザーをヘヴ星上空に転移させた直後に俺達もヘヴ星へと転移した。

遂に決戦の火蓋が切って落とされたのだった。


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転移直後、魔法気配のマッピングが終わるよりも早く視界が白く染まった。

周囲全域で大爆発が発生したのだ。


いや、大爆発などという生温いものでは無かった。

インフレーション後の宇宙を灼熱の世界に染め上げたビッグバン、即ち莫大な真空のエネルギーの放出が局所的に発生したのだ。

そして、その膨大なエネルギーは両軍を包み込み、蹂躙した。


魔法の力は確かに絶大だ。

しかし、バリアを上回る攻撃を受けた時、それを受けるのは只の有機生命体だ。

わずか100度の温度に晒されただけでも死んでしまう程度の脆弱な生き物でしかない。


超高密度エネルギーの猛威が過ぎ去った時、残っていたのは俺とルキフェルだけだった。


「おい、ルキフェル、大丈夫か?」

「無事とは言えんな・・・」


所々、肉が炭化しており、確かにかなりのダメージを受けているようだ。


「早く治せ。突入するにせよ、撤退するにせよ、それじゃどうにもならん。」

「いや、無理だ。魔量を見てみろ。」


俺は自分の魔量を確認し愕然とした。

戻っていないのだ。

普段なら使用した分の魔量はすぐに回復するのだが、今は殆ど回復していない。

恐らく、ルキフェルの方も同じなのだろう。


「ちっ、参ったな。ルキフェルの構成情報は持って無いから俺が修復する事もできん。」

「我は構わぬ。それよりも魔量の無駄遣いはするなよ?」

「分かってる。ところで魔量が回復しない理由の見当は付くか?」

「恐らくだが、虚界からのダークエネルギーの大部分が神の魔量の補充に吸い取られている。前にも同じような事があった。」


虚界からのダークエネルギーという直流電源に、魔法使いの魔量というコンデンサを並列接続したような状態なのだろう。

今はデヴィが極大魔法を使った、即ち超大容量コンデンサが放電された状態となり、ほとんど全ての電流は神コンデンサの充電に使われている訳だ。


「元に戻るまでどれくらい掛かる?」

「分からぬ。」

「そうか・・・とりあえず、人間用だが何もしないよりマシだろう。」


俺は装甲機動戦闘服に標準装備されている応急キットでルキフェルを手当てした。


「すまぬ、手間を取らせた。」


撤退すべきかどうか・・・

追撃が来ないという事は、全力の一撃だった可能性がある。

もしそうなら、今は絶好の攻め時と言える。

逆に、生き残った事を勘付かれていないだけなのなら、撤退するチャンスだ。


「ところで、どうする?」

「皆を犬死させておいて我だけ逃げる事はできぬ。コウは撤退しろ。願わくば、いつの日かデヴィを倒して欲しい。」

「あんなヤバい奴を放ってはおけんな。それに暫くしたら戦力が増強されるんだろ?」

「死ぬぞ?」

「いや、瞬間移動できるだけの余裕は残しておく。どうしようも無くなったら逃げるさ。」

「・・・分かった。」


俺達は玉座前の広場へと瞬間移動した。


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玉座には如何にも神といった風情の初老の男が座っていた。

そして近くには情報通りデヴィと呼ばれる人工知能の筐体が存在していた。


「ほう、生き残ったのはルキフェルだけかと思っていたが。」

「あんたが”神”か?」

「いかにも。ルキフェルよ、臣下の礼を取らぬのか?」

「ふざけるなっ!貴様は神では無いっ!」

「何故、そう思う?」

「コウに気付かなかったのが証拠だ。」


デヴィは人工知能、つまり機械だ。

当然、魔法使いでは無いので俺の魔法気配を感じる事は出来なかったのだろう。

そして、それは神の力を完全には掌握していないという事も意味する。


「クックック・・・もっと混乱させてやろうと思ったのじゃがのう。残念じゃ。」

「ふん、最初から分かっておる。でなければ戦いなど挑まぬ。」

「死に損ないの分際でよう口が回るものじゃのう。」

「反逆者よりはマシだろう?」

「何を申す?妾が反逆者な訳があるまい、何故そのような戯言を?」


決して揶揄するような言い方では無く、本心からの言葉のように聞こえた。

演技だとすれば大したものだ。


「神を捕らえ、神の言葉を偽り、神の眷属を殺しておきながら白々しい!」

「全ては神の御為よ。」

「ふざけるなっ!貴様を倒し神をお救いするっ!」

「あー、ちょっといいか?」

「なんじゃ?」

「邪魔するなっ!」

「落ち着け、ルキフェル。初めまして、俺はコウという。」

「ふふん、そこの死にぞこないより多少は礼儀を弁えておるようじゃな。」

「見当はついていると思うが、俺はルキフェルに協力を要請されてここに来た。」

「そうじゃろうな。」

「つまり、ルキフェルの言い分しか聞いてないって事だ。」

「騙されているかもしれぬと申すのじゃな?」

「その可能性は否定できないだろ?だから、あんたの言い分も聞きたいと思ってな。」

「何が聞きたいのじゃ?」


何とか乗ってくれたようだ。

今は少しでも時間を稼ぎたい。


「まず1つ目だが、”全ての知的生命体の虐殺”の目的は何だ?」

「神を煩わす害虫を滅ぼすのは当然じゃろ?」

「害虫ね・・・神にとっては取るに足らない存在じゃないのか?」

「その矮小な存在ごときがほんの僅かでも神を煩わすなど万死に値せぬか?」

「価値観の違いってやつかね。じゃあ、2つ目だ。」

「いったい幾つ聞きたい事があるのじゃ?」

「ほんの5つだ。それくらいの時間はくれるだろ?」

「よかろ。」

「助かる。本題に戻るが、どうして友軍ごと攻撃した?」

「ふふふ、友軍とはあの駒どもの事か?」

「駒ね・・・元々殺すつもりだったのか?」

「当たり前じゃろ?使える駒があれしか無かったから我慢しておっただけじゃ。」

「もう必要無いと?」

「もうじき完成するからの。聞いておるじゃろ?」

「魔法使い製造装置か・・・」


その時、凄まじい悪寒が背中を走った。

反射的に残った全ての魔量を状態保持魔法に注ぎ込んだ。

直後、再び視界が白く染まり凄まじい量のエネルギーが俺を取り囲んだ。

なんとか防いではいるが、魔量が急激に減少している。


「くそ・・・」


このままでは魔量不足で仮想頭脳群が消滅し、状態保持魔法が構成できなくなってしまう。

無駄な足掻きかもしれないが、俺は咄嗟に初級魔法のバリアへと切り替えた。


「防ぎ・・・きれん・・・」


装甲機動戦闘服のヒヒイロカネ装甲表面が溶け始めている。

しかし、最早ここまでかと諦めかけた瞬間、突如として攻撃が止んだ。


「くっくっく、どうせ時間稼ぎをしておったのじゃろ。妾がそんな見え透いた手に引っ掛かるとでも思うておったのか?」

「ふん、倒しきれなかったのか?」

「返事はこれで良いか?」


俺の右腿をレーザーが貫いた。

骨や動脈には当たっておらず、ヒヒイロカネ装甲で減衰したおかげで水蒸気爆発で脚がもげるような事も無かったが、おそらく偶然では無くそうなるように計算した一撃だろう。


「生かさず殺さずって事か?」

「わざわざ他の星から妾を殺しに来たのじゃから、しっかりもてなしてやらねばのう。」


すぐに殺すつもりは無いと判断しルキフェルの様子を伺ったが、酷い有様だった。

補充される僅かな魔量では生命維持だけで精一杯だったせいか、バリアを張る事もできず身体中穴だらけにされている。


「安心せい。そやつは元々嬲り殺しにするつもりじゃ。すぐには殺さぬ。」

「て事は、最初の攻撃もルキフェルだけ生き残らせるつもりだったのか?」

「そうじゃ。あれが全力だとでも思うたか?」

「出来ればそうであって欲しかったんだがな。」

「神の力を侮るでない。」


なんとか時間は稼げたらしい。

それは予定時刻ちょうどに現れた。

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