第105話 史実-02
伝染病の流行や火山の噴火による気象変動や地震といった危機を乗り越え、彼らの子孫達は着実にこの火山列島を支配下に治めていった。
しかし、広域を安定して支配するには数が足りず、度々反乱が発生していた。
魔法の力は絶大であり原住民に勝つ事は容易だが、反乱と鎮圧を繰り返していては国家は安定せず、国力の向上は望めない。
そこで、反乱を未然に防ぐ抑止力を増強させる為に新たに開発したのが日出刀だ。
切れ味とネバさを両立させる為の複合素材化や、マルテンサイト変態を引き起こす為の焼入れ、内部応力のバランスを目的とした焼入れ速度の部分的な調整を行う為の焼刃土の塗布など様々な技術を駆使している。
極めて原始的な文明レベルでも作り出せるように多くの工夫を施した結果、当時としては非常に優秀な武器となったのであった。
また、指揮官クラスには更に特殊な日出刀を支給していた。
それは武器としての性能向上の為にデミ・ヒヒイロカネの微粒子を配合した日出刀だ。
デミ・ヒヒイロカネはこの艦の汎用工作機でも製造可能な素材であり、ヒヒイロカネと似た特性を示すのだが、徐々に結晶構造が崩壊するという欠点がある。
1,000年も経てばデミ・ヒヒイロカネは完全に崩壊して痕跡すら残らないはずだ。
しかし、そもそもアダマント製ではなく鉄製の剣にしたのは後世にオーパーツを残さない事が目的だったので、逆に好都合な性質だったのだ。
おそらく、古代日出刀の凄まじい切れ味は伝承として後世に残るだろうが、いくら科学的な分析を行ってもせいぜい希少元素の含有量が多い事が分かる程度で、その切れ味の謎は解明できないであろう。
こういった地道な地道な努力をいくつも積み重ねたおかげで、今では朝廷という権力機構を作り上げ、原始的ではあるが国家としての体裁が整った。
そして、ウン、サン、ギガの直系達は神代三家と呼ばれ、権威としての地位を築き上げている。
後は政治的判断を誤らなければ、この遺伝系統は絶える事は無いだろう。
そして、わたしの方の準備もほぼ完了した。
数千年の時が必要となったが、わたしのクローンコンピューターとコールドスリープ装置が完成したのだ。
コールドスリープ装置は1台しか無いが、高レベル魔法使いが産まれた時に増産すれば良いだけなので問題は無いだろう。
電源も地熱発電システムを設置済みなので、輸送艦からの電力供給無しで運用できる。
瞬間移動装置だけは完成までに計算上あと千年以上掛かるが、閣下との合流までには十分間に合う筈だ。
後はクローンに任せて他の知的生命体の探索に取り掛かっても大丈夫だろう。
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「起きて下さい。」
「ん、んぅ・・・」
「すぴーーー」
これが人間の言うデジャヴか?
「起きて下さい。」
「ん・・・あ、おはよう。」
「ふあああああ・・・おはよ。」
「彼らの国もずいぶん安定しました。」
モニターに国の様子を映し出してやる。
「へぇ、原始的だけど、なかなか計画的な都市だね。」
「方眼紙みたいだ!」
「えぇ、外国の文化も取り入れてこういう形にしたようです。」
「魔法使いもちゃんと居るみたいだし、安心だね。」
「あれ?ねぇねぇ、これって、この艦みたいな形だね?」
「それは陵と言って権力者の墓です。この艦にあやかってそういう形になりました。」
「そっか、独自の文化が発達してるんだね。」
「えぇ、もう大丈夫でしょう。」
「え?何が?」
「スメラの血を引く者は絶える事は無いでしょう。わたしのクローンも作りましたから、スメラ文明の継承も問題ありません。」
「なになに?どういうこと?」
「そろそろ、他の知的生命体を探査しようと思います。」
「えっ!」
「なんでー?」
「神軍は知的生命体を見つけ次第、滅ぼすように行動しています。スメラ文明を根付かせる星は多い方が安心でしょう。この地に残ったところで神軍から彼らを護れる訳ではありませんし。」
「うっ・・・」
引きニートどもは、もちろん戦闘魔法の訓練など一度もしていない。
必死になっていれば、二人いるのだから神軍の一個軍団なら相打ちに持ち込めるかもしれなかったが、いくら言ってもずるずると引き延ばしていたのだ。
残念ながら、わたしの立場はあくまでも引きニートどもの部下なので、安全装置による強制力は働かない。
「でも、名残惜しいな・・・」
「そだね・・・」
「命令ですから、成功確率を上げる手段を講じるしかありません。」
「分かってるよ・・・」
「うん・・・」
「では挨拶はどうしますか?」
「任せるよ・・・」
「たぶん、泣いちゃう・・・」
「了解しました。CGホログラムで代用します。」
挨拶一つも碌に出来ないとは情けない。
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ガチャリ
今巫女はその白く細い腕に似つかわしくない巨大な鍵で神託の間の扉を開けた。
そして神託の間に入り中から鍵を掛けると祭壇の前に平伏した。
祭壇の中には鏡のようなものが祀られているが、これは遥か昔にご先祖様がこの地への旅を始めた時に神様からお借りしたものだ。
日の入りから日の出までの間、この神託の間に控えておくことが今巫女の務めとなっている。
神にお伺いを立てたい時にはこの鏡に話し掛け、逆に神託を授かる時にはこの鏡から発せられるからだ。
もっとも、今ではそのような事は滅多に起きない。
先代、先々代の時代も神の御手を煩わすような事は起きなかったし、神託を授かるような事もなかったくらいだ。
今巫女が神託の間で言葉を発するのは、満月の夜に神薬を拝領しに行く時と、神代三家の本家と分家の次期当主に神の力を授けて頂く為にご都合をお伺いする時くらいだ。
「今巫女よ。」
「ははぁ。」
今巫女は飛び上がりそうになるくらい驚いた。
「明日の正午、非常に重要な神託を授ける。神の力を授けた者を神の間へ集わせよ。今宵は下がってよい。」
「しょ、承知いたしました。」
今巫女は神託の間から出ると大急ぎで通信魔法を起動した。
『陛下、山王様。』
『どうしたんだい?』
『珍しいな。もう日の入りは過ぎてるぞ?』
『神託を授かりました。明日の正午、神の力を授けた者を神の間へと集わせよ、と仰せです。』
『『ははぁー。』』
『わたくしはこれから巫女家の者に伝えます。』
『わたしも皇族に伝えるよ。』
『俺も!』
その夜、神代三家は大騒ぎとなった。
神託とは今巫女が授かり、皆に伝えるのが慣例であったので、皆を集めて直接伝えるという事はかなり重要な事だと推測できたからだ。
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翌日の日の出には全員がイースエ改め伊勢の地に集合していた。
山王家の者は全国各地に展開していたが、亜音速飛行程度なら軽くこなせるので移動時間はほとんど掛からない。
どちらかと言うと、神の間に赴く為に身を清めたり装束を身に付ける方が時間が掛かったくらいだ。
もちろん、皆、緊張した面持ちだ。
通常の神託を授かる事でさえ滅多に無い事であり、更に、この世で最も神聖な場所である神の間に招かれたのだから無理もない。
神の間は巫女家の本家当主を除いて、神の眷属であっても一生に一度だけ神の力を授かる為に赴くだけだ。
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そして、正午になった。
皆は神の間で平伏して神託を待っている。
「面を上げよ。」
厳かな声が響いた。
顔を上げると、いつの間にか二柱の神々が顕現されていた。
数千年の時を経ても伝承のままの御姿をされている。
「そなたらの国造り見事である。嬉しく思うぞ。」
「あ、ありがたき御言葉にございます。」
「これからも良き国となるよう精進して参れ。」
「ははぁっ!」
「さて、我らは悪神との戦いに備え、この地を離れねばならん。」
「な、なんと・・・」
「案ずるな。神器を残していく故、これからもそなたらを導いてやろう。」
「わ、我らもお手伝いさせて頂きとうございます!」
「ならぬ。そなたらでは足手まといにしかならぬ。」
「命など惜しくはございません。」
「そなたらは神の血を絶やさぬようにせねばならぬ。それがそなたらの使命である。」
「ははっ!し、しかし・・・」
「ならば、そなたらに強い力を持つ子が生まれた時には我らの許に迎え入れよう。それでもまだ不服か?」
「め、滅相もございません。ありがたき幸せにございます。」
「よろしい。では奥に進むがいい。」
神の間の更に奥には天之浮舟が鎮座していると伝えられているが、そこまで入る事が出来るのは今巫女だけだ。
それも、満月の夜に神薬を拝領する時だけ許されているのだ。
皆は畏れと喜びを抱きつつ奥へと進んだ。
しばらく進むと広大な空間に巨大な天之浮舟が浮かんでいた。
伝承通り、全長は500mほどで、球体と四角錐を組み合わせたような形をしている。
「では我らは旅立つ。神器に従い善き世を創るがいい。」
そう言い残すと、天之浮舟は皆の目の前から掻き消えた。
残された者達が呆然としている中、声が響いた。
「案ずるな。神の名代たるわたしに従えば道は拓ける。」
「ははぁー!」
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