第101話 帰郷-02

「それで、事件はどうなったんだ?」

「テロは日出国の活躍で鎮圧できたようです。」

「そうか・・・MS相手じゃ相当な被害だったろうな・・・」

「いえ、日出国が極秘に開発していた機動スーツ・バンナムを出撃させて、一方的に鎮圧したと噂されています。こちらも有志がアップロードし続けている映像です。」

「はぁっ?」


機動スーツ・バンナムとは、数百年前から不動の人気を誇る人型巨大ロボットアニメの金字塔だ。

キットはモニターにバンナムが次々とMSを撃墜している動画を映した。


「鎮圧のついでに放射能除去装置を使ったおかげで、残留放射能が検出されない事になっています。」

「バンナムの他に何か混ざってないか?」

「艦首に巨大主砲を装備した宇宙戦艦の動画は確認されていません。」

「しかし、こんなの信じるヤツはいるのか?兵器としての実用性が低すぎるだろ?」

「世界中で、やっぱり日出国は開発していたんだと納得されているようですが・・・」

「マジか・・・」

「目くらましには良いでしょう。」

「実際には親父たちがバンナムを隠れ蓑に始末したんだろうな。」

「そうでしょうね。」

「ともかく、神軍じゃなくて良かったよ。」


もし神軍だったら親父たち程度じゃ手も足も出ない。

今頃は地星もスメラ星のようになっていただろう。


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「15年前の事件の概要は以上です。何か質問はありますか?」

「いや、いい。後で特務隊の連中に聞くことにする。日常生活で気を付ける事はあるか?」

「身分証明書のフォーマットが変更されていますが、ここの設備で偽造可能です。民生用の携帯端末は周波数帯と変調方式が変更されていますので、新たに入手する必要があります。隠れ家のパソコンのOSはサポートが切れていますので使わない方がいいでしょう。なお、現金やプリペイドカードはそのまま使用可能です。」

「分かった。隠れ家の服は着ても違和感は無いか?」

「トラディショナルスタイルのスーツや作業服は問題ありません。カジュアルなものは、やはり若干の違和感があります。」

「分かった。服はミツリンで買えるか?」


ミツリンは元は本の通販から始まったが、次第に取扱品目を増やし世界的な総合通販会社に成長したイモルキ連邦の会社だ。


「はい、15年前と変わらず様々な物を購入可能です。現在では宇都宮市内でも1時間便が利用できるようになっています。」

「こんな田舎まで対象になってるのか・・・」

「さすがにグンマー国はサービス対象外のようです。」

「そりゃそうだろ、あそこは秘境だぞ?ドローンなんか飛ばしたら弓矢で狙われるからな。」

「しかし、この15年の間に、首都のマ・エバシ近郊に限っては半裸にボディペイント姿の者はほとんど見かけなくなっているようです。」

「へぇ、随分と変わったんだな。」


グンマー国の場合、ボディペイントと言ってもオシャレ目的ではなく呪術的意味合いのものだ。

戦士が戦争の時に祖霊を身に宿す為に描くものが有名で、グンマーで画像検索すると最初の方に表示される。


「じゃあ、目立たないカジュアルウェア数着と最新型パソコンと通信端末とカゴメ大袋を1時間便の代引きで頼む。」

「食事はどうされます?」

「そうだな、インスタント食品と飲み物も買っておくか。ケン王と我の塩はまだ売ってるか?」

「我の塩は相変わらずほとんど店売りされていませんが、ロングセラー商品としてどちらも生き残っています。ケン王が醤油味、我の塩がノーマルの箱買いでよろしいですか?」

「あぁ、それで頼む。飲み物は任せるから何種類か見繕ってくれ。他にも細々した物は任せる。」

「はい、気が付いたものは発注しておきます。」

「じゃあ、俺は身分証明書を偽造してくる。発注が終わったら引き続き情報収集を頼む。」

「はい、分かりました。」


俺は机の引き出しから関数電卓を取り出しキーを叩いた。

数式としては無茶苦茶な順番だが、これはパスワード入力用のリモコンだ。

もちろん、リモコンだとバレないように関数電卓としての機能は備えられている。

入力が完了すると、本棚の下で意識していなければ分からない程度の小さな音がした。


俺は関数電卓を引き出しに戻し、ロックの外れた本棚をずらすと、秘密の地下室へと通じる梯子を降りた。

地下室の防爆扉を開け灯りを点けると以前のまま様々な機器や素材が置いてあるのが目に映った。

偽造用の電子機器だけでなく機械加工用の工作機器も充実しており、旋盤やフライス盤といった一般的なものの他に液圧プレスやガンドリルまで揃えてあるので、いざとなればこの部屋から一歩も出ずに火薬式の銃と弾薬を作る事が可能だ。

もっとも、通常版三八式など予備の各種武装は保管してあるので、多数の民間人を組織してゲリラ戦を展開するような事態にでもならない限りは出番は無いが。


念の為にいじられた形跡が無いか室内を調べてみたが異常は無いようだ。

山積みの使用済み札束の封を切り、数枚ずつ無難な黒の革財布に入れ、硬貨も同様にした。

もちろん、どれも本物だ。

特務隊の活動資金は潤沢なので、偽札を使ってわざわざトラブルになるリスクを抱え込むような事はしない。

もっとも、ここ15年以内に発行された通貨が無いのは多少不自然だが、製造年をわざわざ調べる者は滅多に居ないのでバレる可能性はまず無いだろう。


それからMET保管庫へと移動し、新品METを取り出すと起動装置にセットした。

現在使用中のものは起動から15年以上が経過しており、それなりに消耗も進行しているので、この機会に念の為に交換しておくつもりだ。

なお、残りのMETの大部分は未起動状態のままスメラに持ち帰る予定だ。

スメラ製のMETは外形が異なっているので俺の装備にそのまま装着できないからだ。


『キット、準備できた。新しい身分証明書のデータを送ってくれ。』

『はい、送信しました。』


手早く身分証明書を偽造し、不自然にならないように僅かな汚し加工や曲げ加工を行ってから財布にしまった。

セットしておいたMETは既に起動完了していたので予備とあわせて鞄に入れ、俺は梯子を登った。


「身分証明書は完成した。ちょっとガレージに行ってくる。」

「ミツリンのドローンが接近してきていますので、その前に着替えをお願いします。無地のTシャツとストレートのジーンズであれば問題ありません。」

「分かった。相変わらず早いな。」

「さすがミツリンです。」

「あぁ、そうだ。METを調達しておいたから、交換しておいてくれ。」

「はい、分かりました。」


俺はウォークインクローゼットに行き、保管してあった服に着替えた。

中年になってしまったが、15年に及ぶお勤めのおかげでウェストは問題無いようだ。

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