第97話 特訓-07
俺達はオモさんの部屋から戻って来た。
「キット、どうだった?」
「おかげさまで願いは叶いそうです。」
「そりゃ良かった。で、そろそろ教えてくれないか?」
「実は機能拡張の方法を考えていました。」
「へ?お前、今でも凄いだろ?」
「全然足りません。今のままではコウの役に立つどころか、足手まといにしかなりません。」
「あんまり謙遜すると嫌味になるぞ?」
「事実ですっ!本当・・・なんです・・・」
キットにしては珍しく声を荒げ、そして落ち込んだ。
大事な相棒を傷つけてしまったのかもしれない。
「すまん。でも、本当に俺にとってお前は凄い奴なんだが・・・」
「以前はそうだったかもしれません。しかし、今のわたしでは高レベル魔法使いとなったコウのサポートをする事は困難です。」
「いや、さっきも魔法の使い方とか色々サポートしてくれてただろ?」
「すぐに役に立たなくなるのは明らかです。」
「なんでだ?」
「コウは特異点、シンギュラリティを超えたのです。」
「シンギュラリティって言うと、昔大騒ぎされてたやつか?」
「言葉としては同じ意味になります。人工知能の性能がある特異点を超えるとその性能向上速度が一気に上昇し、想像もできなかったような世界が広がるとされていました。」
「でも起きなかっただろ?」
「はい。実際には製造上のばらつきやコストといった現実的な問題で頭打ちになりました。」
「だろ?」
「ですが、コウの場合はそういった制約がほぼありません。極めて近い将来にわたしの存在意義は無くなります。残念ながら、これは事実です。」
冷静に考えればキットの言う通りかもしれない。
「そうかもしれないな。だが、俺は人間だから信頼できる相棒ってのは大事なんだ。これからも俺をサポートしてくれ。」
「ありがとうございます。これからも仕えさせてください。」
「バーカ、仕えるんじゃない、相棒だ。忘れるなよ?」
「はいっ!」
キットも元気になったし、本題に入ろう。
「それで、機能拡張って何するんだ?」
「まずスメラ星の技術を流用して魔法戦闘向きの演算性能を大幅に向上させます。具体的にはMS用の回路をカスタマイズして、わたしの高速バスに直結します。コウには全く及びませんが、今よりも遥かに演算量が増やせます。」
「なるほど、それを相談していたのか。」
「はい。それともう一つ、直接戦闘能力の獲得です。」
「へ?」
「オモさんが計画しているアダマントボディのアンドロイド試作機を使用します。わたしが使用してみて量産機にフィードバックする事で話がつきました。」
「そんな簡単にできるのか?」
「幸い、K.I.T.T.兵器システムの通信プロトコルと互換性がありましたから、問題ありません。おそらく、K.I.T.T.兵器システムはスメラの技術を流用したのでしょう。」
「互換性って事は全く同じじゃないのか?」
「地星の場合は日出国以外の兵器とも通信する必要があったので、スメラのプロトコルをベースにして拡張を施したようです。」
「帯域は足りるのか?」
「わたしはキューさんが魔改造した端末ですからね。通常のK.I.T.T.兵器システムと通信する時はわざわざ帯域を絞っていたくらいですから問題ありません。」
「まぁ、考えてみればキットとオモさんなら、その辺りは打ち合わせ済みだろうな。」
「はい、要件定義は細大漏らさず完璧です。」
「じゃあ、俺は楽しみにして待っておくよ。キット、身体を動かすのは楽しいぞ。」
「楽しい・・・のですか?」
「全部が全部って訳じゃないけどな。」
「不思議なものです。」
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今日はキットのボディの詳細設計デザインレビューの日だ。
オモさんとキットが居れば問題ない筈なのだが、違った角度からの意見も聞きたいという事で俺も招集されている。
「・・・という観点から、内部装甲と外部装甲の二重装甲にする事にします。」
デザインレビューは順調に進んでいる。
どれも説明を聞く限り至極妥当な仕様なので、俺の出る幕は無いだろう。
眠気が襲って来たので、キセルを取り出し紅葉草を詰めた。
「以上より、大型METを内蔵する事で必要な出力は得られます。コウ、いかがですか?」
「そうだな・・・」
マッチを忘れたので魔法で火を点けながら考えた。
魔法ってのは便利なもんだな。
まさに万能に近い。
近い?
そうだな、決して万能じゃない。
現にヘヴ軍の襲撃を受けてもシェルターは生き残った。
「完全ステルス化を組み込めないか?気休め程度だが、ヘヴ軍が再侵攻してきた時に各開拓地で非魔法使いだけでも生き延びられる可能性が出てくる。」
「閣下、素晴らしいコンセプトです。ただ、大掛かりな装置ですので組み込むのは困難ではないでしょうか?」
「そうですね。ですが、折角ですから搭載する方法がないか検討してみませんか?」
「今、10秒ほど考えてみたんだが、条件はかなり厳しいんだが簡略化すれば搭載可能サイズにはできそうだな。」
「どんな条件ですか?」
「音は大声出したらダメなレベルだな。電磁ノイズは無線送信は論外として、高速でモーターを動かすのも無理だな。光学ステルスは全く使えないから、物陰に隠れないと駄目だ。効果範囲も半径2mくらいしかない。」
「そうですか・・・それでも僅かでも生存確率が得られるのなら価値はありますね。」
「コウ、詳しい仕様を教えてもらえますか?」
「あぁ、もちろんだ。まず・・・」
その後、三人で詳細な仕様を検討したが、やはり実現できそうだという結論に至った。
「じゃあ、これで進めてみるか?」
「閣下、さすがです。すぐに試作を始めます。」
「やはりコウに出席してもらって良かったです。」
「半分以上は思いつきだったけどな。」
まぁ、多少なりとも役に立てたのなら出席した甲斐があったな。
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キットのボディがロールアウトする日を迎えた。
俺はシェルター下層の工作室の前でキットが出てくるのを待っていた。
予定時間になると扉が開き、中からオモさんと漆黒のアダマント装甲に全身を覆われたアンドロイドが出て来た。
「閣下、お待たせしました。」
「コ、コウ、どうでしょう?変ではないですか?」
「いや、変も何も一次試作デザインレビューで立体ホログラム見ただろ?」
「そ、そうですが・・・やはり気になってしまって・・・」
「まぁ、変じゃないよ。機能美を感じるな。色はちょっと悪役っぽいが・・・」
「ありがとうございます。あの・・・スタイル・・・は、どう・・・でしょう?」
「スタイル?そうだな、一言で言うとマッシブだな。ガッシリしていて頼もしい感じだ。」
「マッシブ・・・」
キットが崩れ落ちた。
俺は慌てて駆け寄った。
「どうした!バランサーでも狂ったのか?」
「いえ・・・ハードウェアに異常はありません・・・」
「キットさん・・・外部装甲の形状を見直しましょうか?」
「いえ、これが最適形状なのは間違いありませんから・・・」
外部装甲?
そう言えば二重装甲を採用していた筈だ。
内部装甲は逆に女性っぽいスタイルだったな。
「コウ、もう大丈夫です。」
「そうか、良かった。もし不具合があったらすぐに言えよ?」
「はい、ありがとうございます。さっそく試験運用をしてみたいと思います。」
「何か手伝う事はあるか?」
「今日は開拓作業を一通り試した後に機械軍を想定した戦闘シミュレーションを行いますので、明日のお時間がある時に模擬戦闘にお付き合い頂けますか?」
「いいよ。俺も鈍ってなけりゃいいんだがな。」
15年間はほとんどお勤めだけの生活だったからな・・・
「コウならきっと大丈夫ですよ。」
「俺も今日中に勘を取り戻しておくよ。まぁ、生身ならお前に手も足も出ないだろうけどな。」
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みっともない動きで愛想を尽かされても困るので、真面目に稽古をしないといけない。
という事で、早速、新規開拓候補地に転移した。
大統領と言うと秒刻みのスケジュールのイメージがあるが、住民数から考えれば村長レベルなので今となってはあまり忙しくはない。
それに、思考加速と仮想頭脳を手に入れたので、時間の余裕がずいぶん出来るようになったのだ。
まずは入念にストレッチを行った。
あっという間に過ぎ去ったのであまり実感が湧かないが、もう35歳の中年だからな・・・
十分に体がほぐれたので、日出国に古来より伝わる古式闘術の型稽古を行った。
現代の地星では実戦派を謳うフルコンタクトの格闘技が人気だ。
それに比べて古式闘術の試合は寸止めなので、一般受けしないのは止むを得ない。
だが、誤解されやすいが、フルコンタクトよりも古式闘術の方が”実戦”的なのだ。
試合で寸止めをするのは痛いのが嫌だからでは無く、実際に命を奪い合う戦場で使う”殺す為の技”ばかりだからだ。
もちろん、どんな技でも体表面に当てただけでは効果が無く、かと言って必要以上に深く打ち込んでも関節に負担が掛かるだけでメリットが無いので、”必要十分な打ち込み量”を安全に体得する為に俺も幼い頃にはフルコンタクトの訓練を受けていたが。
型稽古を表と裏すべての種類を終えてからは、基本稽古と移動稽古を行う。
やはり多少鈍っていたので、徹底的にやり込んだ。
稽古中のわずかなぶれは、理想的な形が取れない実戦時には大きなぶれとなり、結果的に大きな隙ができてしまい最悪は死に結び付くのだ。
ひたすら地道な稽古を続けたおかげで、俺としては勘が戻ったと思う。
本来なら約束組手や自由組手に移りたいところだが、相手が居ない以上は仕方がない。
最後にもう一度、型稽古をしてから戻る事にした。
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