第96話 特訓-06

「そう言えば、巨大なデータというのは何なのか分かりましたか?」

「あぁ、思考加速した仮想頭脳群で解析して分かったんだがな・・・聞いて驚くなよ?」

「瞬間移動魔法ですか?」

「なんだ、分かってたのか?」

「予想はしていました。」

「まぁ、オモさんも薄々気付いているだろうな。」

「そうでしょうね。ところでどういう原理なのですか?」

「大雑把に言うと座標入れ替えだな。この世界の全ての座標は、別の世界の特定のある1点につながってるから、その1点との関係を改変するようだ。」

「さすがにわたしも理解が追い付きません。」

「こんなもん考えつくとは、さすがに神と呼ばれるだけの事はあるな。」

「発動はできそうですか?」

「まぁ、やってみるさ。」


俺は習得した魔法応用方法を限界まで駆使して瞬間移動魔法のイメージングを行った。

それでも、これまでの魔法に比べて時間が掛かる。

もっとも、実時間では一瞬だが。

無事に発動に成功して俺は1mほど前に移動した。


「一応、できたな。」

「おめでとうございます。これで地星にも帰れますね。」

「そうだな・・・」

「帰らないのですか?」

「いや、少なくとも一回は帰るが、今のまま転移して神軍の真っ只中とか困るしな。」

「ではどうされますか?」

「対魔法戦用の魔法だけを重点的に練習だな。特にバリア系はしっかりしておかないと。」

「そうですね。わたしも何とかしないと・・・」

「ん?どうしたんだ?今日は何か変だぞ?」

「いえ、少し思うところがありまして。後でオモさんと相談してもよろしいでしょうか?」

「構わないぞ。俺は遠慮しておく方がいいか?」

「はい。申し訳ありませんが一人で相談しようと思います。」

「善は急げだ。今日は切り上げてそっちを進めよう。」

「よろしいのですか?」

「魔法で出来る事は大体分かったから、戦い方を色々と考えてみたいんだよ。あと、オモさんに頼まれた”魔法アシスト製造法”ってのも確認しとかなきゃならないしな。」

「分かりました。やはりわたしももっと頑張らないと・・・」

「あんまり考え込まない方がいいんじゃないか?さて、こいつを持って帰るか。」


俺達は再びオモさんが常駐する部屋にやって来た。


「オモさん、いいかな?」

「はい、閣下。魔法の方はいかがでしたか?」

「頼むから閣下は止めてくれ・・・魔法は大体は分かったけど、まだまだ訓練しないと使い物になりそうにないよ。あ、アダマント装甲は全部持って帰ったよ。」

「ありがとうございます。」

「ところで、キットが相談があるらしい。」

「お時間は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ。」

「じゃあ、キットは置いて行くよ。連絡くれたら取りに来る。」

「分かりました。」


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俺は自室に籠り、戦闘魔法の使い方について検討を進めていた。

通常の300万倍の思考速度の仮想頭脳を数百万個起動しているので、なかなか捗った。

少し疲れたので、キセルを取り出し一服しながら別の事を考える事にした。


「そうだ、魔法アシスト製造法を確認しておかないとな。」


読んで字の如く、魔法を用いた製造法がいくつもあった。


単純なものだと、巨大な鋼の塊を魔法で一気に焼き入れする製造法がある。

水や油に突入させる焼き入れだと、どうしても温度勾配ができるので外側と内側では特性が変わってしまうのだが、魔法ならそういう事は起きない。

魔法アシスト製造法なら、逆に中心部から冷やす事すら可能だ。


「オモさんに頼まれてたのはレーザーとMETだったな・・・」


まずレーザーに関しては、工業的に製造したものから成分のバラツキの修正、不純物の除去、格子欠陥の補修などを魔法で処理し、損失の低減や耐久性の向上を実現するらしい。

前段の工業的な部分はオモさんの汎用工作機で十分賄える筈であり、後段の魔法処理は俺なら全く問題無いので大丈夫だろう。

ただ、第二第三の多脚重戦車が現れた場合に備えて、俺が一からEMT魔法で完全に理想状態のパーツを製作しておく事も考えておいた方がいいかもしれない。


そしてMETの方だが、汎用工作機でも理論上は作れなくは無いのだが、途方も無い時間が掛かってしまう事と、その間は開拓に必要な物資の製造が滞ってしまうという問題がある。

こちらも俺が作っても良いのだが、幸い、中レベル以上の魔法使い向けの魔法アシスト製造法の中に使用済みMETのリサイクル方法があったのでそちらを利用する事にしよう。

新品に比べて寿命が短いというデメリットがあるらしいが、何といってもオモさんを1万年稼働させてきただけの使用済みMETがあるので問題は無いだろう。



なお、魔法アシスト製造法の中で一番変わったものと言えば、ヒヒイロカネの製造だ。

最初から最後まで魔法で作るのだ。

その理由はヒヒイロカネとはどういう物なのかを理解しないと分からないだろう。


まず、機械的特性として、硬度、強度、靭性などのあらゆる特性が他の物質よりも桁違いに優れている。

もちろん、装甲板としては優秀なのだが、機械的な加工がほとんど出来ないので実用化が困難なのだ。

そして、魔法の絶大な力の前ではその機械的強度もあまり役に立たない。

ある程度以上のレベルの魔法使いなら切断する事が可能な程度だ。


もう一つの特徴として、独特な電磁気的特性を持っている。

電磁波を吸収すると、それをキャンセルするかのように逆位相の電磁波を放射するのだ。

簡単に言うと、レーザーや熱、放射線などは通さないという事になる。

ただし、極端な飽和攻撃を受けると吸収過程で合金組織が破壊されるので、やはりある程度以上のレベルの魔法使いには効果が無い。


こういう特性なので、製造する為には魔法を駆使して合金組織を作り込んでいく事になるのだが、パック演算を駆使したEMT魔法でも使わない限りはおそろしく時間が掛かる事になる。

優れた素材だが、魔法使いが居ないと製造や加工が出来ず、魔法使いが居るなら無くても困らないという残念なヤツだ。


魔法アシスト製造法を一通り確認した頃、オモさんから連絡が入った。


『閣下、キットさんとの相談が終わりました。』

『だから閣下っていうのは・・・分かった。取りに行くよ。』

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