第93話 特訓-03
俺達は再びフジさんの部屋にやって来た。
「さて、じゃあ瞬間移動とナホのお姉さん達のファイルを探すか。」
「そうですね。」
俺達は機密情報フォルダ内の該当ファイルを読み込んだ。
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「キット、こりゃ決まりだな。」
「はい、ほぼ間違いないですね。」
「神軍襲撃時に、瞬間移動可能な二人がたまたま遠くの宙域に居た。二人は瞬間移動を使って古代の地星に辿り着いた。そして神代三家の祖先とコンタクトした、おそらく神としてな。そして15年前に瞬間移動装置で俺がスメラに転移させられた。」
「神代文字、文法、訓読みの類似性も説明できますね。」
「そうだな、古代日出語はスメラ語、ご先祖様にとっては神の言葉、をまねたものだったんだろう。ただ、長い年月で色々と変わっていったんだろうな。」
「それにしても15年前のあの襲撃は何だったんでしょうね?」
「日出国の迎撃能力や諜報力、それに報復能力を考えれば、帝を狙って戦略核で攻撃っていうのは考えにくい。最悪のケースは・・・神軍の襲撃だな。」
「全ての知的生命体が殲滅対象ですから、地星を発見されたのであれば、その可能性はありますね。」
「もしそうだったら、地星は壊滅か・・・」
「えぇ・・・」
「ま、ここで落ち込んでも仕方がない。ナホに二人が生きていた可能性が高いって教えてやらないとな!」
「喜ぶでしょうね。」
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俺は自宅に帰った。
今でもナホとは相思相愛で、当然、一緒に暮らしている。
「ただいまー!」
「コウ、おかえりなさーい。早かったね!」
昔と変わらず軽く口付けを交わす。
「子供達は?」
「もうすぐ帰ってくるはずだよ。魔法の方はどうだったの?」
「あぁ、ちょっと妙な細工がしてあったらしくてさ、明日またやる事になったんだ。」
「そうなんだ。」
「えっと、大事な話があるんだ。」
「ん?」
「実はな、ナホのお兄さんとお姉さんは、戦死していなかった可能性が高いっていう事が分かった。」
「えぇっ!そうなんだ!良かった・・・良かったよぉ・・・お姉ちゃんが生きてた・・・」
ナホが嬉しさの余り泣き出してしまったので、抱きしめて髪を撫でてあげた。
しばらくすると落ち着いてきたようだ。
「くすん・・・どうして生きてたって分かったの?」
「一応まだ機密情報だから口外しないで欲しいんだけど、二人は瞬間移動装置のテスト要員だったらしい。」
「しゅん・・・かん・・・いどう?」
「そう、瞬間移動。ルキフェル隊から技術供与されたらしいよ。それで二人は試験運用の為に、神軍襲撃時にはスメラから数百億kmほど離れた宙域にいたのが分かったんだ。」
「そっか、お姉ちゃんは安全なところに居たんだね!」
「あ、あぁ、そして地星には二人の痕跡があったんだ。つまり、二人は地星に逃げ延びたっていう事だと思う。」
「そっかぁ・・・それからどうなったんだろ?」
「ごめん、そこまでは分からないんだ。ただ、スメラとそっくりな星だし、魔法も使えたんなら幸せに過ごせたと思うよ。」
「そっか。お姉ちゃんにもう会えないのは寂しいけど、幸せに暮らしたんなら良かったよー。」
「な、なぁ、ナホ。ひょっとしてお兄さんの事が嫌いなの?」
「え?全然そんな事ないよ?全く何とも思ってないから!」
地星にはこんな言葉がある。
”好きの反対は嫌いじゃない、無関心だ”
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そして翌日
「オモさーん、来たよ。」
「お待ちしておりました、閣下。準備は問題なく整いました。」
「じゃあ、早速やってもらおうかな。」
「では、お掛け下さい。」
そして、遂にロック解除が終わった。
「閣下、お疲れ様でした。ロック解除が終了しました。」
「ありがとう。これでやっと魔法兵らしくなった。」
「わたしには魔法の事は分かりませんが、やはり訓練をしないといけないらしいです。」
「そうだろうね。新規開拓地の安全確認も兼ねて特訓する事にするよ。」
「よろしくお願いします。ついでに一つお願いがあるのですが・・・」
「何でしょう?」
「多脚重戦車の装甲板を持ち帰っていただけないでしょうか?」
「いいけど・・・なんで?」
「フジ少尉の後継機に使いたいと考えています。人間そっくりにする必要が無くなりましたから、出来ればアダマント装甲にしたいと考えています。あれだけの量があれば念の為に各開拓地に配備する量を確保できますし。」
「なるほど・・・でも、子供達は全員魔法使いだから、もう心配ないんじゃ?」
「いえ、人機大戦後に一時的に新生児の魔法使い比率が激減した時期があります。再び同じ事が起きるかもしれませんから、万全の備えをしておきたいのです。」
「そんな事があったのか。あ、でも、METとかレーザーの数は足りるの?」
「いえ、それは閣下のご協力を仰ぎたいと思います。」
「いやいやいや、大統領でも出来ない事は山ほどあるよ?」
「失礼しました。大統領ではなく魔法使いのコウさんのご協力と言った方がよかったですね。」
「魔法で何とかなるの?」
「はい。壊滅前には最先端技術は全て魔法を使用する事が前提になっていました。人機大戦の頃にMETが実用化できていたのは、キユ大佐という史上最高の天才が生産設備にぎりぎりの調整を施した上で出荷していたからです。それでも歩留まり向上に苦労していたそうですが。」
「まぁ、俺で役に立てるならいくらでも協力するよ。」
「ありがとうございます。ではお時間のある時にロック解除しておいた”魔法アシスト製造法”の項目をご確認下さい。」
「分かった。じゃあ、とりあえず今日は魔法の練習をしてくるよ。」
「はい。行ってらっしゃいませ。」
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俺達は開拓予定地の1つに移動した。
目の前にあるのは多脚重戦車の残骸だ。
自分の残り僅かな命と引き換えに、俺に魔法を覚醒させてくれたフジさんへの手向けとして魔法を見せてあげたかったのだ。
最初は初級戦闘魔法を使ってみる事にした。
標的は多脚重戦車だ。
蛸せんべいのようになっているので、魔法で持ち上げてから地面に垂直に差し込んだ。
まず、無意識化でのバリアを起動する。
俺の周りと残骸まで囲む2つを起動しておいた。
轟音などで皆を驚かせるのは避けたかったからだ。
物理攻撃を試すために魔法で残骸から装甲を剥ぎ取り、砲弾の形に成形して発射した。
結果は言うまでも無く、簡単に貫通した。
もちろん、砲弾はバリアに当たって落下しているので流れ弾の心配はない。
「あれだけ苦戦した装甲が・・・魔法は凄いですね、コウ。」
「あぁ、これでもなるべくパワーを落としたんだがな。」
「全力を見てみたいですね。」
「いや、着弾の圧力で砲弾と装甲が核融合を起こすぞ?下手すりゃ中性子になっちまう。」
「それは・・・まずいですね。」
「結果は分かり切ってるが、一応、レーザーも試してみるか。」
「はい、楽しみです。」
当然のようにレーザーは残骸を貫通した。
熱で装甲が急激に蒸発して、水蒸気爆発のような現象が起きた。
「なるほど・・・下手に撃つと味方にまで被害が出そうだな。」
「味方の近くに対戦車砲を撃ち込むようなものですね。」
「無能な味方は有能な敵より厄介ってやつだな。」
「・・・はい。」
「初級戦闘魔法で残っているのは、あとは飛行魔法だけだな。」
「人類の夢の一つですね。」
俺はふわりと飛び立った。
「え?」
「ん?どうしたんだ、キット?」
「あぁ、なるほど。いえ、加速度センサーと画像処理のデータが一致せずに少し混乱しました。」
「そうか、自分の周囲まるごと同じ加速度を掛けるからな。」
「えぇ、センサーは静止しているのに景色が動いたので驚きました。」
「しかし困ったな。入力系が俺のイメージだからキットと上手く連動できないな・・・」
「そうですね、電気的な入力であれば簡単なのですが。とりあえず、動画鑑賞時と同じ処理にしておきます。」
「すまんな。じゃあ、行くぞ。」
衝撃波が出ないように亜音速に抑えながら日出国の無人制空戦闘機ですら全く比較にならない機動性で縦横無尽に飛び回った。
この一点だけでも、これまでの常識にとらわれない戦術を考えないといけないだろう。
そういう点では神軍には一日の長どころか万年億年の長があるという事になる。
「コウ、今までの常識では最適な指示は出せそうにありません・・・」
「そうだろうなぁ・・・俺もどうすればいいのかまだ分からないしな。」
「残念です・・・」
「いや、ある程度やり方が固まったらキットの演算能力でまたフォローしてもらうさ。」
「はい、がんばります!」
俺は再び地上に降りた。
それから中級、上級に分類されている魔法を試していったが、ほとんどが対機械軍用のものだった。
「うーん、今のところ神軍相手に特別有効そうなのはあまり無いなぁ・・・」
「”安全装置”の効果で、魔法使い同士で戦うという事が無かったからでしょう。」
「後は未実証に分類されている魔法に期待するしかないな。」
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