第85話 フジ-04
復興を始めてもう15年かぁ。
少しずつだけど、開拓は順調に進んでるし何とかなりそうだね。
機械軍の残党も現れないし、コウを襲った謎の部隊っていうのもそれきりだった。
これなら、もう心配無さそうだ。
でも、一つ問題があるんだよねぇ。
わたしはアンドロイドだから見た目が変わらない。
みんなからは羨ましがられてるけど、今のところは謎の美魔女っていってごまかしてる。
でも、いつかみんなに告白しないといけないんだ。
コウには知られたくないな・・・
「フジ少尉、緊急事態です。」
「はっ!」
「コウさんから連絡が入りました。機械軍の多脚重戦車が現れたようです。至急、皆さんをシェルターに避難誘導して下さい。」
「了解しました!」
どうして今頃になって多脚重戦車が?
・・・ううん、それよりも今は皆を早く避難させないと!
大急ぎでATを装着した。
少し迷ったけど、アダマント入りのタワーシールドと対オリハルコン装甲レーザーキャノンも持っていく事にした。
多脚重戦車相手には全く役に立たないけど、別動隊の襲撃があったら困るからね。
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まだ人間だった頃、避難誘導を嫌と言うほど繰り返してきたおかげで皆は無事にシェルター下層に避難できた。
「フジ少尉、ありがとうございます。全員避難できました。」
「了解しました。では、わたしはこれより防衛戦に移ります。シェルターは封鎖して下さい。」
「戦うのですか?」
「はい、それが任務です。」
「しかし、フジ少尉の装備では・・・」
「わたしは軍人です。撃破された場合は2号機をお願いします。では!」
わたしは駆け出した。
今は誰の目も無いから人間の限界を超えた動きが出来る。
微かに聞こえてくる戦闘音を辿って、猛スピードでコウの許へと急いだ。
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見つけた。
副砲の吹き飛んだ多脚重戦車が、狂ったように暴れている。
コウは・・・居た!
脚にしがみついて攻撃しているみたいだ。
あそこなら主砲は届かないから暫くは大丈夫かな?
多脚重戦車の出す騒音に紛れて、わたしはATを静音モードで脱着した。
一つ深呼吸をしてから左腰のシースナイフを抜いて、右肘のスキンに切れ込みを入れた。
大量の人工血液が滴り落ちるけど、戦闘モードに切り替えているから痛みは感じない。
代わりに破損個所と破損レベルが表示されて、ダメージコントロール回路が疑似血管のバルブを閉鎖した。
それから左手で右手首を掴んで一気に引っ張ると、前腕部がずるりと抜けた。
「うぅっ・・・グロい・・・」
見た目は最悪だ。
まるで自分で腕を引き千切ったメンヘラ女みたい。
でも、こうしないと安全装置が外れないんだよね・・・
姿を現したのは、わたしの秘密兵器、威力を極限まで上げたレーザーキャノンだ。
レーザー発振部は大丈夫なんだけど、腕に内蔵する為に光学系の耐久力を犠牲にしたせいで単発式だから、絶対に外せないのが短所なんだよね・・・
ズズーン・・・ドガンッ!
物凄い音がしたから慌てて覗いてみたら大変な事になっていた。
コウが何度も跳ねながらこっちの方に滑ってきた。
良かった・・・生きてるみたい。
地面に倒れたまま腕だけを動かして、多脚重戦車に照準を合わせている。
ガシャン!
主砲保護用の装甲が唯一の弱点を覆ってしまった。
もう、コウに為す術はない。
あの装甲を抜く事は不可能だ。
わたしの使命はシェルターのみんなを護る事だ。
コウを助けに行けばそれは叶わなくなる。
だから、コウを囮にして秘密兵器で多脚重戦車を倒そう。
嫌だ。
その気持ちは抑え付けられた。
コウの攻撃が止んだ。
だいぶ削れたみたいだけど、やっぱり装甲は抜けていない。
そして多脚重戦車が主砲を剥き出しにした。
チャンスだ。
今を逃したら倒せない。
ごめんね、コウ。
嫌だ、死なせたくない。
でも、すぐに気持ちは鎮まる。
多脚重戦車がコウに照準を合わせた。
これなら殆ど正面から主砲を撃てる。
砲撃後の硬直時間を利用すれば倒せる。
嫌だ、守りたい!
そして、気持ちが・・・振り切れた。
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気付いた時にはアンチレーザー煙幕を全弾射出していた。
もう後戻りは出来ない。
急いでATに乗り込んだ。
右手はもう使えないからレーザーキャノンは諦めよう。
どうせ通用しないから無くても問題ないはずだ。
左手でタワーシールドだけ掴んで、コウの前に躍り出た。
「コウ、大丈夫?」
「フジさん?」
主砲が発射された。
一瞬で蒸発するんだろうな・・・
あれ?
何で?
防げてる?
「フジさん、無茶だ。逃げてくれ。」
「機械軍の残党狩りはわたしの任務だよ。」
「小型機までしか対応できないんだろ!無茶するな!」
「今さら逃げても背中から撃たれるだけよ。」
「くっ・・・」
「でも、まぁ、コウの言う通りそろそろ限界かな・・・」
タワーシールドの冷却インジケーターがレッドゾーンまで振り切れ、遂にタワーシールドに小さな孔が開いた。
一瞬でATのオリハルコン装甲が破られ、わたしの胸部ユニットが爆発した。
良かった、後ろには抜けていないみたい。
コウはきっと無事だよね。
わたしもボディ用の主動力部が破壊されただけだから、秘密兵器はまだ撃てそうだ。
「フジさんっ!!!嘘・・・だろ?」
ふふ、心配してくれてるんだ。
嬉しいな。
「うっそぴょ~~~~ん!」
照れ隠しに少しふざけた言い方で、コウに生きてる・・・稼働している事を伝えると、すぐに多脚重戦車の主砲に照準を合わせた。
多脚重戦車はまた主砲を装甲で覆ったけど、構わず撃った。
コウの攻撃とわたしの秘密兵器があれば、きっと抜けるって信じてたから。
装甲を抜く事は出来た。
主砲にもダメージを入れる事は出来たと思う。
でも、秘密兵器は力尽きた。
もうわたしに出来る事は無い。
もし仕留め切れてなかったら、コウと心中だね。
みんな、ごめんね、自分の気持ちに逆らえなかった、ううん、逆らいたくなかったんだ。
ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ドーーーーン!
後ろから、8発の砲撃音が鳴り響いた。
衝撃波でふらついた身体を立て直して多脚重戦車を見ると、主砲から炎を吹き出して沈黙していた。
「フジさん!」
「あ~、何とかなったねぇ。いやぁ、為せば成るもんだねぇ。」
「大丈夫なのか?」
「主砲の威力がスペックよりかなり低かったから、何とか致命傷で済んだよ。ホントなら二人とも蒸発してるとこだったよ!」
コウにこんな姿は見せたくない。
でも、もうそんなに時間は残っていない。
だから、最後の瞬間までコウを見ていたい。
煙幕が晴れた。
「フジさん・・・」
「あーあ、やっぱりバレちゃったねぇ。わたし、アンドロイドなんだ。」
それから色んな話をした。
でも、きっとこの記憶は引き継がれない。
非常用バッテリーの残量が危険域まで低下して、感情抑制回路への電力供給がシャットオフされた。
途端にコウを好きな気持ちが溢れてくる。
あぁ、わたしはこんなにコウが好きだったんだな。
「自由に・・・なれたのか?」
「うん、だからやっと言える。わたしはコウが好き!」
やっと言えた。
もう思い残す事は・・・あるみたい。
わたしって欲張りね。
コウに甘えて3つの願いを言う事にした。
1つ目は、嘘のスリーサイズを覚えてもらう事。
わたしのバックアップ機が稼働するまでに機密情報ファイルが必要になるかもしれない。
アクセスするにはパスワードが必要だけど、これはどうやっても伝えられないようにセキュリティー回路が制限しているんだ。
わたしが壊れた時には2号機の初期インストール情報に含まれているから問題は無いし、上官とかにアクセス権が必要になった時にもパスワードを教えるんじゃなくて上官のアカウントを管理者に昇格させるように指示されてるんだ。
でも、秘密の質問にはそこまで厳しい制限が無かったんだ。
試しにオモさんから完全に切り離されてるわたしの部屋でATに向かって話してみたら、普通に話す事ができたんだ。
メモに書き出す事は出来なかったけどね。
もちろん、軍エリアから出たら、オモさんのマイクが拾っちゃうから誰も居なくても口に出す事は出来なかったよ。
でも、思った通り、オモさんの探知範囲外で”人”じゃないコウ相手だからセキュリティー回路が働かずに済んだみたい。
最近は二人だけで遠出する機会が無くて困ってたけど、やっと伝えられたよ。
2つ目は、形見を受け取ってもらう事。
わたしの事を忘れないでいて欲しいって事だね。
ううん、正確には”今”のわたしを忘れないで・・・かな。
でも、わたしってアクセサリーとか持って無いからなぁ。
色気も何もないけれど、秘密兵器の部品くらいしか渡せるものが無いや・・・
最後の願いは・・・ナホさん、ごめんね。
コウは優しいから、きっと願いを叶えてくれる。
それが済んだら、わたしの出来る事をしよう。
役に立つかどうか分からないけど、そんな事はどうでもいいんだ。
好きな人に何かをしてあげる、その事自体が大事だもんね。
でも、正直、怖い。
少しだけ、感情抑制回路が恋しくなった。
「フジさん、大丈夫か?まさか、もう時間が?」
「ううん、何もしなかったら後5分以上は生き・・・稼働できるよ。」
「稼働なんて言うなよ・・・フジさんはちゃんと生きてるよ・・・」
「ありがとう、コウ。やっぱり優しいね。」
「俺は・・・優しくなんかない。」
「ううん。わたしに生きてるって言ってくれた。その優しさに勇気を貰えたから、言うね。3つ目のお願いを・・・」
「あぁ・・・」
「キスして欲しい・・・」
「・・・あぁ、いいよ。」
二人の唇が近付く。
は、は、は、恥ずかしい!
「あっ!!!」
「のわっ!どうした?」
「ベロチューはダメよ?今のわたしだと、たぶん感電するから!」
「・・・・・・・・・」
わたしの馬鹿!
照れ隠しに何言ってるのよ!
チュッ
あ・・・
あぁ、これでもう思い残す事は無い。
残りの全てのバッテリーを使って共鳴波を発信しよう。
そして、わたしは死んだ。
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